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別れてから半年が経ったけど未だ時々吐き気と震えが襲ってくる


「ビール?」

「うん、だし巻きも食べる」

「チーズ入り新メニューらしいぜ」

「それが良い!」


かと言って四六時中元気が無いって訳でも無い。
だって折角解放されたんだよ、本当に心底嫌だったから解き放たれたと言う解放感と喜びも勿論あって、吐き気や震えもあるけれど沖田くんが頻繁に誘ってくれるし一緒に居てくれたから乗り越えなきゃと思えた。
私は1人じゃない、乗り越えられる。


「合コン行ったんで?」

「まさか。断ったよ、暫く彼氏とか良いや、今の所二度と要らないとさえ思ってるよ」

「もうヤれねんじゃねーの」

「一切したいと思わないね。」

「なら今度ウチで飲む?」

「なんで? どう言う意味??」

「何も起きねぇ保証あんなら家の方がゲームあるしゆっくり出来んじゃん」

「今までは保証無かったの?」

「酒に飲まれて一回ヤってみる?って流れになったら困んだろィ。 」


ならないよ、私そう言う関係持たないし。そもそも最初からするの好きじゃ無い




だけどそんなこんなで後日沖田くんのお家にお邪魔したら思ったより汚かった。
男の独り暮らしなんてこんなモンだと言われたけれど漫画の山とゲームが凄いって意味で汚れが有るとかそう言う意味じゃないんだよ、その辺は綺麗だったよ男の独り暮らし馬鹿にしちゃいけない、綺麗な人は綺麗だから。でもそこじゃ無くて、


「いかがわしい本が普通に置いてありますけど」

「ザキが置いてったんでィ」

「ザキ? 誰それ知らないよ。」

「朝メシ半熟目玉焼きトーストに乗っけて」

「まだ飲んでもいないのに朝御飯の話? そして私が作るんだ、てか泊まるんだ私、事前に言って?」


近くにコンビニあるし最低限揃えるのは簡単だったから良いとして、借りた部屋着は少し大きいかなくらいで何だか悲しい気持ちにもなったけど沖田くん華奢だから仕方無いよね、と心で言い訳をしておいた。



そして次の日、要望通りに半熟目玉焼きを作ってトーストに乗せてあげたのに、起こしても起きないしやっと起きて来たかと思ったら半熟じゃないと文句を言われ、起きるのが遅いから固まったんだと言っても「ふーん」と返事が適当過ぎて腹が立ったからサラダにたっぷりマヨネーズを掛けてやったら滅茶苦茶嫌な顔をされた。
でもちゃんと完食してたから後日私の家で宅飲みした時は起こして返事が聞こえてから半熟に作った。なのに結局二度寝かまして起きて来なくて黄身も固まり「半熟作れねェの?」に苛ついてマヨネーズ片手に攻防戦を繰り広げた結果、私の目玉焼きスキルが上がり起きて来るまでの時間で茹で卵などを駆使しサラダを可愛くデコレーションして出したら兎なのに豚かと言われ、終わらないマヨネーズの攻防戦と私のスキルアップを繰り返してたら半年くらい経ってた。












休みが待ち遠しいって事が心身ともに健康だと言う事なんだと思える程に回復し、ここ最近のマイブームはレンタルした映画を観る事。沖田くんと宅飲みしない時は1人のんびり過ごすけどこれも中々楽しかった。


だけど今日は借りて来た映画を観てる途中で部屋のチャイムが鳴った。
夜の11時過ぎに訪問者なんて来ない、無意識に震える手がスマホを握り締め、鍵もチェーンも掛かってるのに不安でしかない。

もう1年くらい経つし別れてから何があったわけでも無いのに、まさかと頭に過ってしまい違うとは思っていても2回目のチャイムでいよいよ本格的に身体が震え吐き気まで襲って来る。
でも手の中のスマホがもっと震えて身体が跳ね上がるくらい驚いたけど良く見れば電話で相手は沖田くんだし、やっぱりヒーローなの!? スーパーマン!? って本気で思った私はちょっと沖田くんに夢見てるのかも知れないね、気を付けよう。


「悪いな、面倒掛ける」

「いえ、沖田くんに沢山お世話になってますから、酔い潰れて夜中に独り暮らしの女の部屋を宿に指定して来るくらい何ともないですよ。」

「あー、……甘えてるんだと思うぞ、コイツそんな誰でも気ィ許すワケじゃねぇし。」

「良いですよ本当、フォローしてくれなくて。沖田くん吐くから連れて来たんですよね? 1人で吐かれちゃ危ないんで大丈夫です、ちゃんと見ますから。土方さんも大変ですね、大の男を2人も抱えて、お疲れ様です。」

「おーよ、おら、しゃんとしろ。」


電話から聞こえた声は沖田くんではなく土方さんだった、友達の家で酔い潰れたらしく2人の酔っ払いを抱えて送ってるらしい。ぐったりと土方さんの肩にうなだれてる人も、背中から玄関に下ろされた沖田くんもベロンベロンに泥酔状態だ。

肩の人はそうでもないけど沖田くんは真っ直ぐトイレに連れて行った方が良さそうなくらい顔色は悪く、多分これは吐くな。あまり揺らさないよう座ったまま片腕を肩に掛け立つ準備をして土方さんを見上げれば、私が大丈夫か見守ってくれてたんだろう「じゃあ任せる」と自分も落ちかけてる肩の人の腕を引っ張ってたけど、その反動で肩の人が起きたらしく見えた顔は沖田くんと違い青白さより赤だ。


「んぁ、? ついたぁ?」

「まだだっつの、大人しくしてろ。」

「あれぇ? 女の子がいるぅー、かぁーいーじゃん、めぇ、くりっくりしてらぁ、」

「ふふっ、どんだけ酔っ払いですか」

「おー、わーたぁ、よけぇ、かぁいーわ」

「はははっ、凄い女たらしだ。」

「ナンパしてねぇで行くぞ、ほら。」

「んん、らーねぇ」

「はーい、さよならー。」


これからもう1人の家に行くのも大変そうだな、怖い時も多々あるけれど土方さんは面倒見がとても良い。何より頑張りを見ててくれる人だから多少厳しくても良い上司として尊敬してる。と言っても、沖田くんから土方さんの話を聞いて勝手に親しみを持ったのも大きいけども。


「沖田くん移動するよ」

「……は、く」

「5秒耐えて。はい、いーち、にーぃ、さーん、よーん、はいどーぞ。」


流石に玄関で吐くのは勘弁して頂きたいから、眉間に皺寄せながらも耐えて貰いトイレまで連れ行き吐くだけ吐いたらぐったりしてるから取り敢えず放置。
取りに行ったお水で口ゆすがせ、ついでに水分取らせたら後は泥のように朝まで眠ってくれるからサッと布団を敷いて寝かせれば完了。

飲み過ぎたら吐くって事は宅飲みするにつれて分かったけど、その介抱の仕方も既に慣れたな。






「ぐっ、も、…おもっ、……ちょ、なに、?」

「……あ? ………………あー、間違えた、自分の部屋かと思った」


健やかな眠りについていたのに突然の身体への衝撃で目が覚めた、上からの重みはやや消えたけど重い瞼を上げれば毛布を踏み潰すように隣に転がってて私の身体半分も潰されてる。
トイレにでも行って間違ったんだろうとは分かる、自分の部屋だと思ってベッドに来たんだろうけど私の家なんだから貴方は布団だよ。
けど間違えたの分かったならさっさとベッドから下りてくれないかな、寝惚けてるのかボーッと転がったまま動か無くなった。


「はやく下りてよ、重い」

「……」

「なに、何で見てるの」


何だよ、寝起きしかもスッピンをそんなじっと見られるのは今更と言えど流石に止めて頂きたいんだけど。


「朝だし、勃ちはするのに、お前見ててもヤりてぇと思わねぇ」

「いや、そんなの思われる方が困るんだけど」

「一度も無ェんでィ、別に見てくれが悪ィ訳でもねーし、お前に興味が無ェ訳でも無ェのにだぜ? 男と女がこうしてベッドで並んでんのに微塵も思わねェってのは男としてどうなんでさァ」

「いやだから、そんな風に思われるなら私は沖田くんを家に上げないし行かないからね。」


そんな危険が少しでもあるなら今の関係に行き着く事なんて無かった、それは沖田くんだって自分で言ってた事じゃん、それが何なの?


「え、なに?」


隣に転がってた身体が急に起き上がり覆い被さって来た、毛布を踏んだまま顔の横に腕を付け拳2つ分くらいの距離をあけて上からじっと見下ろして来る顔は真顔だ。


何がしたいんだろう、と冷静に思うのと同時に違う記憶が脳を占領して行く、不思議な事に視界にある顔は沖田くんにちゃんと見えてるのに脳がそう思ってないのか感覚まで呼び覚まし、毛布から出してた自分の手が微かに震え始めてるのがじわじわと痺れてくる指先から分かる。


「……っ、……」

「すげぇビビったツラしてんな、なのに何でそそらねんだか不思議でならねぇ。」

「ぅ、……っ、や」


両手とも手首をシーツに押さえ付けられ、退けてとか何でこんな事するのとか、文句でも何でも言えば良いのに顔を横に向けて歪む視界を遮るようにきつく目を瞑ってしまうのは、もう反射的なのかもしれない。


「っ、……っ、ん、……」

「もう二度としねぇからな、目ェ開けて俺見てろ。絶対ェ逸らすんじゃねーぞ。」

「、……っ」

「目ェ開けろっつってんだろィ、無理矢理してるみてーになんだろーが。」

「……」

「そのまま力抜いとけ。」



…………落ち着いた。何が起きてるのか全く理解出来なかったけど、ガンガン頭殴られてるような頭痛も、ぐるぐる回ってた脳内も耳から聞こえた声が沖田くんだとようやく脳が認識出来たみたいで落ち着いた。
いや、耳から聞こえるより先に唇に感じた温もりに目を開けたら沖田くんがどアップだったから思考が一回停止したせいかも。

何故、今私は彼にキスをされているの。
手首から離れた両手が頬を覆い、物凄く意外性のある優しい温もりを唇に与え続けてくれてる彼は何をしてるの??
唇閉じたまま軽く触れるだけから始まり、ゆっくり押し付けて啄むように顔の角度変えて繰り返して来るよ本当に何してるの。


「……」

「柔ェとは思うのにマジでそんな気にならねぇな、舌も入れてみる?」

「……いや、大丈夫」

「震え止まったな、リハビリの礼は昨日のでチャラって事で。」

「ねぇ今吐いたままの口でしたよね。」

「震え止まったんだから文句言ってんじゃねぇや。」


まぁ確かに震えは止まったし乱暴にされた記憶が薄れたかも……いやどうかな。今のは昨日介抱したお礼的なものなのか、でも突然キスするかな普通。


「お前も好きな男なら反応するんで? 」

「……どうなんだろう、元から触れ合うのとか好きじゃ無かったからな。」

「ビビってる内はいつまで経ってもその記憶に縛られるだけなんでィ、いい加減消しなせェ。」

「彼氏作れって?」

「無理に作るんじゃ無くて、前は行ってたんだろ、合コン。それにまた行けば。」


でも合コンで知り合って付き合っても、結局はあんな事になったんだよ。もう別に彼氏なんて要らないし、てか合コン自体知らない人と話さないといけないから苦手なのよ、誘われて優しい人多そうだと言われた時だけ行ってたからそんなに行ってない。あの人は無闇に触ったり近付いたりしなかったから、だから、安心した。……


「もう面倒だし、もしこれから先付き合うことがあるなら運命が導いてくれるんじゃないかな。」

「は? ……運命?」

「やめてその顔、ガチで引くのやめて傷付く。」

「2人で宅飲みする男が居る、お互いの家泊まる程っつーのを受け入れてくれる奴にしなせェ」

「むずっ!難しいよそれは、そんな寛大な人滅多に居ないよ。」

「何にもしねーでビクビクしてるよりレア探してる方がマシだろ」

「そんなビクビクしてないもん、吐き気も治まってきたし。」

「どんだけ経ってると思ってんでィ。1年間お前はアイツに怯えてんだ、そろそろ閉じ籠ってねーで前に進め。」

「……沖田くんって、結構私の事好きだよね」

「ヤるだけの奴にキスしねぇけど、ヤりてぇと思わねぇお前に出来るくれぇはなー。」

「何か今とんでもない発言あったけど気にしないでおくね。ありがとう、沖田くんには感謝でいっぱいだよ。」

「こっちも結構助かってるしな、お前が居りゃぁ外歩いてても女どもが寄り付かねーし仕事も代わりにヘラヘラしてくれるから俺の表情筋が助かってる。」

「それに関しては私の負担大き過ぎるけどね。」


それでも傍に居てこんなにも安心する存在って貴重だと思う、だから沖田くんもそう思ってくれてるなら良いか。


「俺がお前にそそらねぇのは良いとして、そっちも全く揺れた事ねーよな。結構踏み込んでるし万が一にも変な気ィでも持たれたら面倒くせェなとは地味に思ってたのに。」

「凄い発言だね。沖田くんが私を女と認識してても異性としては見れないのと同じく、私も男の人だと思ってるけど異性とは見れない。後は沖田くんだって好みあるでしょ? 私にもある。」

「……確かに異性とは見れねぇな。ふーん、俺別にお前の顔嫌いじゃねぇけど寝顔見ても何も感じねーのはそのせいかねィ」

「それ分かる。沖田くんイケメンだと思うのに側で寝ててもドキドキも何も無くぐっすり眠れるもん。」

「そう言や聞いた事ねーな、タイプどんなの?」

「優しい笑顔を向けてくれる人」

「それ俺に失礼じゃね?」


沖田くんが優しくないと言っているわけでは決して無いよ、ただ優しく微笑み掛けてくれる人ではないよね。


怯え続けるなんて真っ平御免だし、背中を押してくれる人が居るんだ。前に進もう。






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