トリップ続編 | ナノ
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とてもスッキリとした清々しい朝を久し振りに迎えた気がする。
目が覚めて一番最初に見えるのは銀さん、瞼を閉じて眠っている姿を見てるだけで幸せな気持ちになってくるよ。

私はいつの間にか寝てしまっていたらしく記憶が途中から無い、だけど物凄く優しいのしてくれて一瞬で眠たくなっちゃったからお陰様で今日からまた元気に過ごせそう。


お仕事は明日からで良いと言われたから今日は買い物だけして家で大人しくしてようかな。

銀さんがオムライス作ってくれるって言ってくれたから買い出し行かないと。ビーフシチューは私が作ろう、人参を兎に切ってくれるのも忘れてないよね? 私はちゃんと覚えてるよ。
ご飯はチキンライスが良いな、銀さん達は何派だろう?

朝御飯の支度をするのも何だか久しぶりで楽しいな、やっぱり何気無い日常って当たり前じゃないよね。


「オメー起きんの早ェなぁ、もっとゆっくり休めよ昨日の今日だぞ?」

「あっ、おはよう銀さん。ぐっすり眠れたからもうとっても元気だよ、銀さんのお陰。ありがとうっ!」

「はよ。まぁ元気なら良いけどよ、無理すんなよ。」

「うんっ、ねぇ私チキンライスが好きなんだけど皆は?」

「何だ突然。朝飯にチキンライス食うの?」

「ううん、オムライスの中身。」

「オムライスぅ? ビーフシチューの材料買って無ェぞ、せめて昼じゃねぇと。」

「晩御飯に食べたいな。」

「お前もう晩飯の話してたの!? まだ朝飯も食って無ェのに!?」

「晩御飯と言うよりオムライスの話だね。」

「そんなに食いたかったんか……、そう言や、あっちで逃げてる途中でも言ってたな。」

「一緒に買い物行こうね!」

「……うん、……頑張って作るわ。」


何でそんなに呆れた顔してるのか分からないけど食べる前から絶対美味しいの分かるもん。
それに銀さんだって私の作る料理見て嬉しそうな顔してくれるし美味しそうに食べてくれるのに、私が銀さんの料理で喜ぶのは何で呆れた顔するのかいつも不思議に思う。











相変わらず依頼の無い午前中を過ごし 掃除を切り上げた名前が昼飯を作りに台所に向かった、買い物は午後に行くからお昼は冷蔵庫にあるものでサッと済ませるんだと。


「今日の晩御飯は銀さんがオムライス作ってくれるって!」今朝の神楽を起こす台詞がそれだった、特別大きな反応も無く起き上がってるのを見たがそりゃそうだろうな。
新八にも報告していたが「そうなんですか。」と至って普通の返事だけで、んな満面の笑みで言われる内容でも無い事は誰でも分かる。

そして今、


「……名前アルか?」

「……そうだろうな」

「珍しいですね、僕初めて聴きましたよ名前さんが歌ってるの。」


俺も初めて聴いてる。
微かに何か聞こえるなと耳をすませばコイツらも同じ事を思ったんだろう、居間で静けさを作れば聴こえて来るのは歌声、小さいが鼻歌では無く確実に歌ってるよあいつどんだけご機嫌なの?

名前だと分かった瞬間に神楽が走り出し台所をそっと覗いてるが正直俺も覗きたいくらい貴重なんじゃねぇかと思う。けど何の歌かは知らねぇが恋の歌らしいのは分かるから止めとく方が懸命だ。


「可愛い歌声ですね。」

「ホントなァ」

「これ自分の事歌ってるんですかね?」


……、夢ならば覚めないで、まさかだろ。いや、あんな上機嫌でんな暗い事なんぞ考えてねぇだろ。


「あ、銀さんの好きな歌ですよ」

「いや別に俺これ好きじゃねぇけど」

「でもホラー見ちゃった後とか1人でこれ歌ってるじゃないですか。」

「たまたまこれが頭に過って口ずさんでただけだろーが! 皆大好きな歌だろ、子供からお年寄りまでこよなく愛される便利なロボットなんだからな。」


神楽が加わったらしく、より一層聞こえやすくなった歌声が楽しそうにこっちまで響いてくる、そうこの歌は皆に愛されてる歌であって変なモン連想させる歌では無い。……けど、違う歌にしてくんねぇかな、もっとあんだろ? 女の子が好む歌が他にも沢山あんだろ?


「あっ!お通ちゃんの歌、僕も見て来ますね!」


程無くしてすげぇグループ合唱みてぇになって聴こえて来た。三人なのに何だこの大合唱、名前の声が殆んど聴こえねェくれぇハモられてんだが。

なんとも賑やかなこって。







その後昼飯を食い終え夕方の値引きを狙って買い出しに向かう道中もすこぶるご機嫌で、無意識なのか繋いでる手が揺れている。子供のようにとまでは言わねぇけど振ってるよね?


「楽しみだなぁ」


お前それ何回言うの? 今朝から数え切れないくれぇ聞いたけどそんなに? 俺プレッシャー感じて来たんだけど、一体どれ程のオムライスを期待されてるんだ、まさか星三つ付いちゃうようなレベルのモン想像してねぇよな?


「名前さーん」

「あっ、沖田くんだぁ! お疲れ様っ、見廻りかな?」

「そうでさァ。すげェ楽しそうに歩いてやしたね、遠くから見ても分かるくれぇルンルンじゃねぇですかィ」

「ルンルンだよー、今日の晩御飯は銀さんがオムライス作ってくれるのっ!」

「良いですねィ、俺は名前さんの作ったやつが食いてぇです、また屯所にご飯作りに来て下せェよ」

「良いよ! じゃあまた作りに行くね!」


それは女中の仕事か? それとも只作りに行くだけ? 二つ返事で了承しているのは良いとして、手を振り別れた後、奮発して牛肉を買おうかと悩み出したコイツの頭には朝からオムライスしか無ェのかと心配になって来たんだが。
俺のオムライスはお高いレストランで食うレベルのモンじゃねぇかんな? せいぜいファミレスだぞ?




───────




「良さそうなお肉あって良かったー! 私ビーフシチュー作るねっ!」

「おー。」


帰宅しても尚ルンルン気分が続いてるよこの子、マジでどんなオムライス想像してんだろう。普通にふわふわにすりゃ良いんじゃねぇのか、俺の知らねぇ特殊な何かなのか?まさかお前の世界には俺の知らないすげェオムライスが存在すんの??


ビーフシチューを作るべく颯爽と取り掛かる隣でチキンライスを作るが、チキンライスは普通で良いのか? もしやこれも俺の知らねぇ特殊なチキンライスが……!?

こんなに楽しみにされると分けわからんプレッシャーが襲って来んだけど、いや楽しみにしてくれんのは嬉しいけどよ、想像を絶する喜び様でしかも朝からずっとだぞ? ずっと1日中楽しみにする程のオムライスは出て来ねぇから普通に待っててくれや。


「……なぁ、チキンライスって鶏肉とケチャップの他に何か入れる派?」

「私が作る時は何も入れないよ? 」

「……店で食う時は? 」

「入ってたり入ってなかったりするね、何で?」

「いやぁ、なんかすげェ楽しみにしてくれてっからさぁ、俺の知らねぇ特殊なオムライスでも想像してんのかと思って。」

「どんなオムライス? チキンライスにふわとろな卵乗っかっててビーフシチュー掛かってるのが好き。」

「それだけ?」

「それだけ。」


普通だった。
じゃあ何だ、グラタン作ったらやたらと喜んで食べてるのと同じと思って良いってワケ? なんて事ない俺の料理を何故か子供のようにはしゃいで楽しみにしていると単純に思っちゃって良いっつー事ね?


「……ホントにしゃーねぇやつだなお前は。」

「え? 」

「何でもねー。つーか昼間歌ってたやつお前の世界のだろ、恋の歌?」

「私そんな大きい声で歌ってたんだね……、有名な恋の歌ですね。」

「お前が考えたワケではねぇな?」

「違うよ何を言っているの。とても有名な歌なのよ、カバーされててゆっくりテンポのもあるの。」

「ふーん、夢ならば覚めないでーとか言ってたから、まーた要らん事でも考えてんのかと思ってよ。」

「幸せ過ぎて夢なんじゃないかって思う時ない? だから夢なのだとしたら覚めないでって思ったら頭に過って、歌ってたみたい……、お恥ずかしい。」

「それは現実でしっかり足付けて立ってる状態での話だよな? 夢みてぇに幸せだと浮かれた気持ちで思わず過るのと、幸せ過ぎるから現実か夢か分からねぇつー思考で過るのとでは意味が違って来る。」

「えー? 難しい事を考えるのね、そこまでしっかり歌詞読んで無いや。人の考えや解釈って人それぞれ違うから……って!人参がいつの間にか兎さん……っ!」


目を見開いて俺の手元を見ながら「凄い凄い!」とはしゃがれちゃ、さっきまでの会話は強制終了だ。

人の考えは確かに十人十色だと思うさ、だからこそ、それはお前の考えって事だろ。歌詞の解釈だろうがお前が想像して言ったんだろーが。
浮かれてなら良いが、幸せが夢に結び付いちまうのは何処かでまだ不安が残ってるって言ってるようなモンだろ。 幸せだと俺も今じゃ当たり前のように思っちゃいるが現実だと認識はしてる、夢かも知れねぇとは思ってない。まさかまだ元の世界に戻っちまうかも知れねぇとでも思ってたりすんのか。


「やっ!何……っ、何するの!?」

「何ってシチューに入れんだろ、人参生で食う気かよ。」

「駄目だよっ! ビーフシチュー何だから埋まっちゃうよ! お湯で茹でるから大丈夫、ほらこっちおいで!」

「こっちおいでって、お前……」


人参に話し掛けてるよ……、兎の形でもそれは人参…………いや、まぁ、楽しそうなら良いこった。
もう止めよう考えんの、こんなオムライスの事しか考えてないようなヤツの思考探るなんざバカバカしい。
んな事グダグダ考えて無ェでしっかり愛情込めて作ってやろうじゃねぇの。


「……よし、ビーフシチュー良い感じ。そして見てっ!潰れないように細心の注意を払って茹でた兎さん!」

「おーキレイキレイ。シチュー旨そうね、さっきからいー匂いして来てる」

「ありがとう! これもありがとう!可愛い人参作ってくれて嬉しいっ、ありがとうっ!」


何かシチューが可哀想に見えて来たんだけど。んな只の人参に細心の注意なんざ払わなくて良いからシチューにもキラキラした眼差しを向けてやってくれ、茹でた人参と完成したシチューだぞ、どう考えてもシチューの方が手間暇かかってんだろ。


「っ、え、待って待って速すぎて良く分からないっ、……っ、」

「っと、ほい。」

「じょーず! きれいっ!美味しそうっ!」

「ははっ、大袈裟なヤツだな。」

「名前さん電話ですよー」

「えぇ!?!? 」

「えっ、切った方が良いですか?」

「行って来いって、ちゃんと作っとくから。」

「っ……、くっ、ダッシュしてくる!」


何を悔しがってんだか分からんわ、つか今日すげェ元気だな。いや元気つーよりはしゃいでるってのが近けェか、幼い子でも相手にしてるように思える程子供みてぇ。


電話に走った次の瞬間にはもう戻って来たし、時間にしたら1分も経ってねぇ気がする。


「早くね? 電話は?」

「終わった! 完成してるー!すっっごい美味しそうだね!これ私の?」

「いやこれ新八の。」

「新八くーん!! 新八くんのオムライス出来たよー!」


いや声デカイな。えぇ、そんな大声出す? しかも叫びながらお前もう居間に向かってんじゃん、それも何故かゆっくり歩いてな。落とさないようにってか? お前マジで幼児化してんじゃねぇだろうな。

新八も驚いたんだろう足音が走ってる。その間に神楽のオムライスも仕上げパタパタ隣に戻って来た名前に渡せばさっきと同じくれぇ喜びの顔して眺めてるよ、オムライスを。


「兎さんがてっぺんにいるー!美味しそー!これは私のじゃないね! 神楽ちゃん?」

「そう。」

「神楽ちゃーん!神楽ちゃんのオムライスも出来たよー!」

「くくっ」


これ下まで響いてんじゃねぇのか? 名前の声だけ。

隙を見て切って茹でたヒヨコの人参もシチューに乗せ、兎も卵に貼り付ければ完成だ。



「っ、は、次は私っ?」

「おっまえ、何を息切れする程はしゃいでんだよ」

「えっ、別にはしゃいで無いけど?」

「はぁ? はははっ、ほらこれがお前のオムライス。どーぞ。」

「うわぁーい!ありがとうっ!」


それの何処がはしゃいで無ェんだっての。
うわぁーいってお前、こちとら笑いすぎて腹が痛くなってくるわ。


「……ヒヨコ? 」

「そー。お前にだけ特別にヒヨコの人参乗せといた。」

「……そんな、可愛いけど、……ヒヨコに見られながらオムライス……」

「あ。」


それは考えて無かった。俺に取っちゃヒヨコはお前だと思って切ったからな、普通に考えりゃそうか。ヒヨコになり損なった……いやそれ考えたら食えなくなんだろ。あれ、不味ったかこれ。


「でもそんな事言ったら兎さんだって食べるの可哀想になっちゃう。銀さんのも出来た? 私がシチュー盛るよ!」

「おぉ、」


良かった、ヒヨコに感情移入されなくて。
俺は人参要らねぇから残して無かったのに自分のヒヨコを半分くらい箸で摘まんで俺のシチューに乗せ始め「兎さんは1つだけね」って取ろうとしているが、ごめんマジで要らねぇから。お前に取っては大層な人参に見えてんのかもしんねぇけど俺はお前が作ってくれたシチューに入ってる切るのに余った人参で十分だ。わざわざ分けてくれようとしてる所悪ィけど、何で?みてぇな顔されても自分の切った兎の人参をそこまで欲しがる男が居ると思うか? ヒヨコはちょっとアレだったから良いが兎はマジで要らねぇわ。


「つーかお前の為に切ったんだぞ」

「うんっ、ありがとう! じゃ、兎さん貰うね? 銀さんはヒヨコだけになっちゃうけど、半分こしよ。」


ヒヨコに見つめられながら食うオムライスも斬新だよな。
そして地味に気になるんだが、何でヒヨコには "さん" 付けてやらねぇの? ……猫もか。兎が特別なのか? 子供の考える事は分からねぇな。


「とっても美味しそうなオムライス、見てても私には作れそうに無いやつだった。銀さんは何でも作れるんだね、凄いっ」

「でも卵かけご飯の進化系にしか見えないアルな、名前が巻いてくれるオムライスの方が良いヨ。」

「ありがとう!嬉しいけどオムライスには色々種類があって、これは私の一番好きな形態のオムライスなの!それも銀さんが作ったオムライスっ!ね? 好きでしょ?」

「好きアル」


頷いた方が良いと悟るのが早かったな今、言わせた感か半端無ェけどよ。オムライスに対するモノなのか俺の作るオムライスへのモノなのか分からねぇが熱意を感じる。

だが食べ始めた神楽を嬉しそうに見つめてるのは何でだ、お前は食わねぇの? 何故そんな笑顔で見つめてる?


「美味し?」

「美味しいヨ、卵かけご飯じゃ無かったアル」

「ねっ!これ絶対美味しいもんっ、卵ふわふわじゃん!私も食べよー、でもヒヨコ食べてからにしよっかな、頂きまーす」


……何かごめんな、一枚一枚味わうように人参食べさせちゃってよ、手間掛けさせたな。
オムライスを目の前にしながら人参のみを食べ進め今度は新八に美味しいかと笑顔で聞いている。その返しに「美味しい」以外求められていない事は誰もが分かってるからそんなキラキラした目で見つめんで良いだろうに。



「最後のヒヨコー。こんなに小さいのに尻尾まであるの本当凄い、兎さんジャンプしてるし。」

「確かに凄いですけどあんなに楽しみにしてたのに早く食べないと冷めちゃいますよ?」

「ほんとだね!! ヒヨコ味わい過ぎたかな、食べよー、頂きますっ!」

「はーい召し上がれ。」


さっき頂きます聞いたけど何も言うまい、喜びの表現がかなり大きく見てて飽きない処かずっと見てられる、目の前に居る神楽も口にオムライスを頬張りながらずっと名前の事を見てるしな。新八だってそうだ。

漸くスプーンが卵に刺さり歓喜の声を上げながら掬う姿にもう呆れより笑っちまうのは仕方無ェわ。


「ふわっふわ!好き、このトロッとした卵、食べる前から美味しい。」

「いやどう言う意味ですか」


新八の突っ込みにもキレが無ぇつーか顔笑ってんじゃん、和やかしい夕食だな、オムライスもさぞ喜んでるだろうよ。


「っ……っっ……んーっ、……ん、ふっ、おいっしぃ!」

「良かったアルな!」

「良かったですね!」

「うんっ!美味しー、すっごい美味しい!卵とご飯がバッチリ絡むの凄く好き、お肉の大きさとかケチャップの量とか。つまりチキンライスから既に美味しいんだ。」


モグモグと頬を膨らませながらも、じっとオムライスを見つめ感想と言うより独り言に近い。

それよりも、……ヤバイ、呑気に眺めてたから何のガードも無しだった。

俺が作ったからだろう、一口頬張り口を動かした後に突然こっちを振り向き美味しいと、幸せそうに顔を綻ばせながら誰が見ても喜んでると分かるくらいの満面の笑みを向けられた。


ドキドキ、と早めの心拍が胸を高鳴らせ、これ絶対ェ顔赤ぇだろってくれぇ熱を持って来てる。然り気無く手の甲で口拭いてる振りして顔を背けちゃいるが、……アレだな、旨そうに食う姿って魅力的つーじゃん、何かのCMでもやってたろ、美味しく食べる君が〜みてぇな。……いや違ェやつ? あれ、何のCMだったっけ。あ、ダイエットか何かだったか? なら必要無ェわ、お前には必要ねぇから大丈夫。


「今まで沢山オムライス食べて来たけど、銀さんのオムライスが、いっっっちばん美味しいっ!」

「…………どーもな。」






ダメだ全然下がんねぇ



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