トリップ続編 | ナノ
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配達がある日はそれが終わったら真っ直ぐ帰って良い事になっている。私が中々戻らない事に心配してくれてたおじさん達に、地図を失くしてしまったのかと聞かれたからポケットから出して持ってる事をアピールし、帰りは見方が逆になるから持ったままぐるぐる回ってたらちょっと良く分からなくなったりも稀にあるかもしれないと素直に言ったら困った顔された。
その後、ちゃんと帰る事は出来るんだねと何度も確認されて、最終的には着きますと答えたら、じゃあ配達の日はそれで上がりにしようと。無理に店に戻ろうとするよりも疲れてるだろうし家に帰った方が良いと何やら気遣われてしまい、特に疲れてはいないけれど毎回心配かけるのも気が引けるし有り難く上がらせて頂く事にした。


それを銀さんに言ったら哀れみに満ちた顔して見て来るからとても腹が立ち、マヨネーズふんだんに使ったポテトサラダの上から更にマヨネーズをとぐろ状に乗せてハートに切ったニンジンを飾って夕食に出してあげた。
何か言いたげな顔してたけど、ちゃんと完食してたから偉いよね。しかもモグモグしながら首傾げてボソッと「……うま」って言ったのが聞こえて思わず笑っちゃったもん、実は手作りマヨだったんだよ、銀さん用に作ったちょっぴり甘めのマヨネーズ。

銀さんと一緒に居ると毎日が楽しい、何でもない日常が凄く幸せに思えるなんて贅沢者だよね。
それだけ私の中で銀さんの存在は大きいの、どんどん大きくなって行ってる気さえする。


早く帰りたいな、でも、今は会いたくない。


自分が面倒な性格だって言うのは十分に理解してる、切り替えは銀さんが言ってくれる通り確かに早いのかもしれないけれど、切っ掛けがないと駄目なんだよね。例えば物凄く美味しいお酒に巡りあったりとか美味しい物食べたりしたら、もう気分は晴れてたりするけど今しがた目に入っちゃったら、脳内は今それでいっぱいになっちゃって抜けるのが難しい。何とかリセットしたいから配達終わっても帰らないで待ってる、こんなウダウダ引き摺って帰りたくないんだもん。


「呼ばれた気がしやした」

「ふふっ、来てくれると思った。」


公園のベンチに座ってボーっと景色を眺めてたら横から聞こえる声は想像してた通りの人。
沖田くんは私が悩み出したらフラッと現れて話を聞いてくれる、女のウダウダした話なんか男の人が聞いたって楽しくないだろうに、だけどこうやって来てくれるからそれに甘えてしまう。


「さっさと屯所来りゃ良かったのに」

「え? まだ何も言って無いのに確信付かれてる気がする」

「来る時見やした」

「あ、そっか。」


近くで買ったお饅頭を渡して私はひたすら精神統一に励む、だって考える必要無い事だし悩む事でも無い。ただ視覚から取り入れた情報がすんなり見流せる程無関心な事ではなく、しかもタイムリーな事に数日前に見掛けてまだ脳内にいらっしゃったから余計に何だよね。


「ドス黒い嫉妬心ってヤツですかィ?」

「んー、そーかも。」

「旦那の隣に居んじゃねーやって?」

「え? なんで?」

「まぁだと思いやしたけどね。」

「何か馬鹿にされてる?」


沖田くんはちょいちょい意味の分からない事を言い出す。
でも嫉妬、そうだと思う、これは紛れも無く嫉妬だ。あの人ならいざって時も銀さんと肩を並べる事が出来る、私には行けない所に一緒に行って力になれる。


「いくらなんでも、私はあんなに強くはなれないよ。」

「そりゃそうでしょうよ、相手は吉原最強の番人、死神太夫ですぜ。」


銀さんは依頼だと吉原に行く事があって、誤解を生まないようにと熱心に説明してくれた。栗を拾わないとか何とか。意味が分からなかったけど流石に遊んで来るとは思わないよ、私だって映像は良いけど触るのは嫌だもん。

その時に知った、銀さんは吉原の救世主なんだと、そしてそのお話を新八くんが教えてくれた。で、二人で居る所を見て気付いた、多分あの人は銀さんが好き。私と同じように。


だからどうって訳でもないんだけど、銀さんって鈍感じゃないよね。隣で立っていられる、肩を並んで歩ける強い女性、そんな人が居るのにどうして私を選んだの。そんな事は愚問だ、タイミングが良かった、突然自分の元に現れた右も左も分からない私を放り出すなんて出来なくて、やがて情が生まれた。
狡い事だとは思う、だけど私はラッキーだった、その幸運をみすみす手離したりなんてしたくないから、罪悪感は特に無いし銀さんが今更あの人を選ぶ事も無い。もしそうなら私を好きになんてならないよ、だから不安なんじゃない。


「私は、一緒には戦えない、傍に居る事も見てる事すら出来ない。守るなんて程遠い、一緒に居る時に危ない事が起きても銀さんはきっと私ばかりに気を取られる。自分の戦いに集中出来ないんだよ、どんなに頑張って自衛しても多分安心なんてしてくれない」


だって銀さんは自分が行くまでの時間稼ぎが出来るように特訓してくれてる、それは有難い事だと思うし真剣に教えてくれてるのも分かる、だから私も精一杯学ばせて貰ってるつもり。それと私が一緒に居たがってると知ってしまったって理由もあるだろうな。


「これでは旦那が自分から離れるとは思わ無ぇんで?」

「これに関しては思わないね、今更私よりあの人を選ぶとは思えない」

「すっげェ自信。」

「もしそんな事を思うものなら大変な事になるよ、私が。」

「また何かやったんですかィ、学習しやせんね。」


そんな事無い学習してる。でも、こんな自信満々に言ってるけど本当は言い聞かせるように癖を付けてるって方が近いかな。だって何かの切っ掛けで情が移っちゃう事ってあると思う、私を嫌いになるとかじゃなくて、もっと大切な人が出来てもおかしくはない、だって人の感情だもん縛ったりなんて出来ないでしょ。

だけど今は違う、銀さんの情は私にあるからそんな不安要らない。だからこの面倒なウダウダとした思考を切り替えないと。


「欲張りだよね、元々何も出来なかった私に戦い方を教えてくれた沖田くんには感謝しかないのに、足りないって思っちゃう。」

「良いじゃねぇですかィ、それにアンタはもっと欲張った方が良い、自分だけで解決しようとしねぇで旦那にぶつけりゃ良いのに。」

「嫌だよ、どうしようもない事ばっかりだもん」

「他にもあるんで?」

「会った事あるよね? 見たでしょあの立派なお胸を、絶対銀さん好みだよ。てか銀さんじゃなくても触りたくなるよね、凄くない? 一回で良いから触ってみたい、ちょっと下から持ち上げてみたいよね。しかもさぁ、もう本当に格好いい、美人でしかも強くて。お友達になりたい、私の事なんか見たくもないだろうから会わないようにはしてるけど、見掛けたら目で追っちゃうんだよね。」

「モヤモヤの大半そっち? 仲良くなりたいけどなれない悲しみに嘆いてるんで?」

「それもあるの、銀さんの隣に居れて羨ましいなぁって言うとの、銀さんは好かれてるから羨ましいなぁって。」

「何で旦那にまで嫉妬してんでさァ。」

「仲良くなったら触らせてくれるかもしれない」

「そこ? 結局はそこなんで?」

「銀さんの好きな触り心地を知ってみたいの、あと好奇心。」

「思ったより元気そうで。」

「ふふっ、沖田くんと話してると元気になるからね。一人で悶々と考えてても元気にはなれないよ。」


横を向くと横目でこっちに視線をくれて緩やかに笑ってる、沖田くんが戦い方を教えてくれたお陰で私は立っていられた。今では沖田くんだけじゃない、皆が私を成長させてくれる、だから気持ちの面でも少し成長してるんじゃないかって思うんだよね。だってほら、もうまぁ良いかって思えてきた。私は私なりに頑張れば良いんだもん、戦場で銀さんの隣に居る事なんて多分無い。そうなる前に大抵私は安全な所にでも居ると思う。


「友達になれると思いやすけどね、あっちも旦那とどうこうする気なんて無ェでしょうし、しかもそこまで好かれて嫌な気はしねぇでしょ。」

「えぇ、でも立場的にノコノコ会いに行ったら性悪だよ私。」

「女の修羅場体験してみるのも貴重ですぜ。」

「いや要らないよそんな体験……でもスッキリした!ありがとうね、これで何事も無かったようにお家帰れるよ」

「いーえ。にしても気配察知能力はまだ全然足りやせんね、次はそっちメインでやりやしょうか。」

「後ろからの攻めにも弱ェからその辺も宜しく」

「へーい。んじゃ名前さん俺行きやす、呼んだ訳じゃ無ェんで怒らねーで下せぇよ。」


固まって動けない私の頬を撫で楽しそうな笑顔を向けてから去って行った沖田くん、なのに背後から人の気配。声が聞こえてようやく察知した悲しくも低い脳力は置いといて、何で? いつから? もしかしなくても話聞いてた?


「帰んぞ」


……嫌だ。








動かない私の手を引いてお互い無言で帰宅し、手が離れた瞬間逃げるように台所に避難した。
何事も無かったように手を洗ってお野菜を出す、今日はモヤシのナムルなの、節約の日。モヤシは安いし沢山入ってるから節約にはピッタリ、調理方法変えれば美味しく食べれる。


「お前そんなに気にしてんの?」


目の前からモヤシが消えた、袋開けた瞬間に隣から伸びてきた手に奪い取られた。さっきから全然銀さんの顔が見れない、何を言って欲しい訳じゃないの、お願いだからそっとして置いて欲しい。

隣に居れないのは当然だし、私の側で安心して戦えないのも当然。あの人の隣の方が安心するのは当たり前の事だってちゃんと分かってる。しかも沖田くんのお陰で脳内が まぁ良いや になってきたんだよ、理解してるし納得もしてる、一緒に居る所を見た時だけちょっと考えちゃうだけなの。

だから銀さんには何も言われたくない。私の隣でも安心出来るなんて、もし優しさで言われたら、凄く虚しい。お願いだから、言わないで。


「俺ホントに何とも思って無ェよ? 」

「……ちょっと考えちゃっただけだしもうナムルの事しか考えてないから放っといて欲しい」

「お、ナムルなんだ? シンプルなのにやたら旨いよな。」

「……ありがと」

「んで話戻すけど、まだ成長すると思うぞ? 俺頑張るし」

「……うん」


私だって頑張るよ、だけど、銀さんが安心できる事なんてあるの? 銀さんの中ではやっぱり私は守らなければならない存在なんだよ、心配してくれるのは凄く凄く嬉しい、だけど度を越えてると思う時もある、それだけ私は弱い証拠。


「俺すげェ好きだけどな? 柔いし触り心地最高にイイし。」


触り心地、……触り心地? 何の話? 柔いって何が? 柔軟?


「ちょっとずつ慣らしてって直接触っちゃう予定だかんな、ちゃんと心の準備しとけよ。」



………………待って、……嘘でしょ、今胸の話してる?

いや、……そんな、そこまで気にしてない、だってあんなに大きいの色々不便だよ。銀さん好きだろうなとは思ったけど、申し訳ないけど私は要らないよ? ただ私も触りたいってだけだよ?

そっと横を見上げたら優しく笑顔向けられた、もう、良いかそれで。


「そうだね、そうする。モヤシ頂戴」

「ため息聞こえてんぞ。」


でもなら最初のは聞かれてなかったんだ、良かった。胸羨ましがってるって思われてた方が都合良い。


「まぁ、……事故で、触っちまった事は、あるけどよ、お前なら普通に触らして貰えんじゃねぇの?」

「……触った事あるんだ。」

「事故でな、ぶつかっただけ。」

「気持ち良かった?」

「……」


触った事あるのかぁ、絶対気持ち良いって思ったよねノーコメントだし。良いなぁ私も触ってみたい、手で到底覆えないサイズだし、


「顔埋まりそう」

「……」

「埋めたのか」

「埋めたんじゃない、埋まっただけ」


埋まった、やっぱり埋まるんだ。凄いそりゃ男の人好きな訳だよね、私も埋まってみたい。


「私も月詠さんのお胸に顔埋めてみたい。」

「は!? 何言ってんのお前!? 」

「だって、あんな大きいお胸に、良いな、私近付かないから事故無理だよ。狡い。」

「どんな嫉妬してんだよ! もっと銀さんに興味持って!? 」


持ってるよ、だから私が一緒に居ても安心出来なくて月詠さんなら安心出来るって所に少しながらモヤっとした気持ちになったんじゃん。胸の件しか聞こえてなかったみたいで良かったけど。


「ったく、もっと可愛げある嫉妬出来ねぇのかよ」

「出来るよ、吉原でモテモテらしいじゃん。銀さんが格好良いの皆知ってるんでしょ、お仕事で行っても可愛い子に言い寄られてるんだろうなぁって思ってる。ど?」

「うん、俺が言ったのは嫉妬しながら膨れた顔してくんねぇのかって意味だったけど、笑顔で送り出してくる裏にそんな事思ってたの知れたからまぁ良い、合格です。」

「ありがとうございまーす」


膨れた顔して欲しかったんだ、でも私を大事にしてくれる銀さんがそんな顔させるのは難しいんじゃないかな。



「あぁ、あと自分が傍に居て俺が安心出来ねぇって思ってるみてぇだけど違ェかんな? 」


聞いてたんじゃん!! モヤシ落ちた! 取り返してザルに入れようとしてたら零れ落ちたじゃん! 何なの? 何でわざわざ安心させて和ませてから切り出したの? ドSだから?


「もう良い、ご飯作るからお口閉じて。」

「聞いとけ、じゃねぇと繰り返すんだろ。」

「……ちゃんと分かってるもん。そんなずっと考えてないし、たまにちょっと思っちゃうだけだもん」

「良いから、大人しく聞いとけって。」


モヤシ拾ってた手を掴まれて、向かい合うように床に座らせられたらもう逃げ場なんて無い。顔は見れないから繋がれたままの手に視線を向けて、聞きたくは無いけど聞いた方がスッキリするのかも知れないし大人しくしよう。


「確かにアイツは強ェよ、ある程度安心もしてるし信頼もしてる、背中任せても不安なんざ無ェしな。」


…………銀さんに、そこまで言って貰えるの凄い、凄いと思うけど、何でそんな事わざわざ銀さんの口から聞かないといけないの? 分かってるって言ったじゃん、ちゃんと分かってる、だから何も言って無いじゃん、私より、特別なんだと、思ってても、何も言ってないじゃん、……銀さんの口からは、聞きたくなかった。


「逃げるな、最後までちゃんと聞け」

「……っ、どうして、私はっ、ちゃんと分かってる、っ、だから、何も言ってないじゃない、……っ」

「聞こえちまったんだから仕方無ェだろ、お前の口から聞こえたんだ、それを聞かなかった事になんざ出来ねぇよ。」


手を振り払って逃げようとしたのに許され無かった、片手は離してくれたけど、もう片方を強く握られ目の前に戻される。泣きたくなんてないのに、分かってても銀さんの口から聞くと勝手に流れてくる涙を、せめて横を向いて隠しながら拭うしか出来ない。


「だからって自分が傍に居るのを俺が安心出来ねぇと思ってるつーなら、それは違う。お前は頑張ってるし、俺の傍に居れるよう努力してくれて、」

「やめて! もうやめてよっ、そんな慰め聞きたくない、分かってるって言ってるじゃん、比べるなんておこがましいのも分かってる。別に私の隣で安心して戦って欲しい訳じゃ……っ、」


そうだ、安心して戦って欲しいとかじゃない、私は……傍に置きたいと、思って欲しいんだ。
危ないけど、連れて行きたいって、……思って、欲しい……、だけどそれは、ただの我儘。
巻き込むと、言ってくれた言葉は凄く嬉しかった。でもそれは、私が傍に居たいと願ってる事を知ってしまったからの台詞で、銀さんが傍に置きたいと思った訳じゃない。

折角銀さんが私を思って言ってくれた言葉なのに、こんな事思うなんて、何処まで我儘なんだろう。


「安心はするよ、お前結構自衛出来るようになってるしな。ただ、お前が傍に居て戦いだけに集中すんのは無理だ、それは例えばお前がアイツ並みに強かったとしても出来ない。」

「……」

「俺がお前を心配すんのは、お前が戦える戦えないの話じゃねんだよ、どんな場合だろうと心配はすんの。普段から怪我してねぇかとか、巻き込まれたりしてねぇかとか、考えちまうんだよどうしても。でもそれは、信用して無ぇワケじゃなくて、何も身に起きてねぇかなってお前の事ばっか考えてっから心配しちまうの。」

「……過保護だ」

「何とでも言え。この心配はお前の為じゃねぇの、ただの俺の我儘なんだよ。俺は自分の我儘をお前に押し付けてんの、だから、お前も俺に我儘押し付けても何の問題もねーの。分かった?」


……そんな優しい我儘ある? 私の心配する事が銀さんの我儘なの? どんだけ甘い我儘。

私の我儘なんて自分の欲求のみで銀さんの為にはならないのに。……だけど、私も我儘押し付けても良いのなら、頑張っても良いの?
銀さんが、危なくても私を連れて行きたいと思えるように、私の為じゃなく、銀さん自ら傍に置きたいと、思って貰えるように、頑張ってみても良いのだろうか。


「……ん、じゃ、我儘、……する。」

「そーして。で? 安心して戦って欲しいんじゃなくて何なの」

「我儘するから言わない」

「頑固なヤツだないつもいつも。」


盛大に溜め息つかれたけど、だって我儘押し付けて良いって言われたもん。


私頑張るね。

いつかきっと、この手で掴ませて見せるよ。置いて行くより連れて行きたいと、私の手を掴ませて見せる。






だからまだ知らなくて良いよ



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