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2018,10,10 銀さんの誕生日小説


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今日は久々の体力ふんだんに使う依頼で身体があちこち痛ぇ。下のバイトには行かないらしいから迎えも要らねぇし早く寝るかと思ったが、あいつは神楽が寝てもずっと台所に籠って出て来ない。
いや別に先に寝りァ良いんだけどよ、最近は割とすんなり一緒に寝てくれるしわざわざ1人で寝んのもなぁとも思うワケで。


「銀さん? 眠そう、お仕事大変だったんだもんね。」

「……お前まだ寝ねーの?」

「んー、銀さんもう寝ちゃう? 」

寝ちゃうって何だ。寝て欲しくねぇの? これ何のお誘い?

「じゃあ何かする? 目ェ覚める事。」

「いや疲れてるんだもん。目を覚ます必要は無いよ、お布団行こ。」

普通に労られた。まぁ良い特に期待もしてねぇし。布団に行こうと言うのなら一緒に寝るっつー事だろ、それだけで結構な事じゃねェか。

だけど布団に入っても絶えず話掛けて来て一向に寝かせてくれる気配が無い。

「…銀さん?」

「……ん、」

「寝ちゃう? 」

寝れない、何で揺すって来んの? 軽くユサユサ揺すられうっすら目を開ければ腕の中で見上げる視線と重なる。


「……なに、」

「怒った?」

「おこってない」

「本当に?」

「ほんとに」

「今日ね、新しいお饅頭が店頭に並んだんだよ、胡麻餡なの。」

「……うん」

「胡麻餡好き?」

「……うん」

「……」

また揺すられ飛びそうになってた意識が呼び戻される。

「……、ん、とに、良い子してろって」

「わっ、ふふっ」

頭を引き寄せ胸元に押し付けるように抱き締めると腕の中で笑い声が聞こえる。今日は随分機嫌良いな、俺が元気ならじゃれあいてぇけど惜しいわ。
そう思いながら眠ろうとしたら直接的な温もりを感じた。
何だと思って下を見れば寝間着の合わせ目から見える肌に頬をすり寄せている頭。

この子なにしてんの? さっきから何がしたいんだ。
でも取り敢えず好きなようにさせて目を瞑れば腰の紐をほどかれ、前を開きながら横腹を撫でてきた。

「……なにしてんの」

「ふふ、悪戯。」

笑いながら素肌に手を滑らせて背中に回される。そのままピッタリ抱き付いてきた。
まぁ悪い気はしねぇし寧ろイイ、俺も抱き締めてようやく寝れると思ったら背中にある手がゆるゆる動き始める。

「……ったく大人しくしねぇヤツだなァ、喰っちまうぞ。」

「わぁ!ふふっ、」

身体を起こし布団に肘を付け覆い被さっても何故か楽しそう。

「どしたのよ、構って欲しいの? 」

「後ちょっとだけ。」

「ちょっとォ? 俺の眠りを妨げといてちょっとなんざ温りィだろ、しっかり相手して貰おうか。」

「10分ね。」

「短い。何だお前、後10分の為に俺を起こしたんか。」

「うん」

うんって……。

呆れつつもそっと首筋に唇を当てても頭を撫でられて未だかつて無いくらい受け入れられた。
軽く舐めても抵抗も文句も無い、マジでどうした。
吸い付いたら頭にあった手に力が入ったけど、ただそれだけ。何これ夢? 俺もしかして今夢見てんの?

片手だけくびれに当て撫でてもやっぱり抵抗は無いから裾から忍び込ませてみても無反応。流石におかしいと思って顔を上げれば俺を見る処が時計を手に持って眺めてた。

いやもう、は?って感じじゃね? 無理矢理起こしてこんな事受け入れといてお前は何してんの? 俺なんて前はだけてるからね? しかもお前がやったんだぞ?

「っん! ……っ、なに、銀さん、」

思いっきり首に吸い付きながら、腰に手を直接当て反対の手を裾から忍び込ませ軽く身体を持ち上げながら背中をなぞって上らせるとようやく抵抗があった。
だが今更だろ、ホック外してやろうかとも思ったが止めてやっただけ有り難いと思え。
下着を素通りして首の裏に手を当て、上半身を中途半端に浮かせた状態で首筋に顔を埋める。
前が捲れねぇように抱き寄せて止めてる所も褒めて貰いたい。

「っ、うー……、」

唸りながらも俺の首に片手を回して自分の身体を支えてる、が、まだ時計持ってんな? 時間制限厳くね?


「あ!変わった!」

明るい声が聞こえた瞬間時計が布団に落ち、首に吸い付いてる俺の頭を両手で掴み無理矢理向かい合わされる。

「お誕生日おめでとうっ!」

「………………は?」

「日付変わったの!もう10月10日だよ!」

……誕生日? 言われてみれば確かにそうだが突然過ぎで付いていけない。こんなベタベタ触られながら満面の笑みで首に抱き付いて来てるよこいつ。

まさか、それを言う為に俺を寝かせなかったのか?
だからこんな事されるかもしんねぇのに悪戯して来たの?

「……朝、言やいいじゃん」

「朝まで待てないもん」

嬉しい癖にそんなひねくれた事を言う俺に頬同士がくっ付くくらい力強く抱き締めて来る、背中から手を抜き服の上から抱き締め送られてくる体温と、心に感じる温もりに浸る。

「……ありがとな」

「ふふっ、朝からデートしようね。」

「えっ、デートなの?」

「そー、夕方には戻って来るし食べ歩きは出来ないからお散歩デート。」

「……あー、……、」

「早起きするし、もう寝よ。」

「え、寝んの? マジでサービスタイム10分なの?」

「うん、何かしたい事あるの? ちょっとくらいなら頑張るよ」

「えっ、え、待て待て考える。 」

何これ誕生日だから? 誕生日サービスなの?


「あっ、兎の部屋着着て。」

「部屋着? 分かった着替えて来る。」

過去2回兎の部屋着姿を拝んだが、特に楽しめるような距離感でも無かったし、んな触っても無ぇし。
そもそも言わなきゃ着てくんねぇからな。

「わ、電気付いてる。」

だって見てぇもん。
着替えて戻って来た姿は当たり前だが兎のそれで、ご丁寧にフードまで被ってくれちゃって、太腿なんかガッツリ晒してちょこんと俺の前に座った。

「フード被ってみました」

「ありがとうございます、抱き付いて来て。」

「うん」

すんなり抱き付いて来た身体、上から見たら兎の耳しか見えねぇけどこれはこれで。
つか尻尾ヤバい、短いズボンから伸びる生足、そして尻には尻尾付いてんぞ。
俺の脚の間にすっぽり収まった兎。頭に手を置けばふわふわの手触り、だけど人口の毛を撫でても嬉しくも無いからフードを下ろし髪に触れると顔が上がって視線が重なる。

「なァ、尻尾触ってい?」

「どうぞ?」

許可された、誕生日サービスすげぇ。

どさくさに紛れて尻ごと撫でても大人しかった。

暫く堪能してから電気を消して今度こそ寝る為に布団に入る。
だが生地が厚いせいで抱き締めてるのにいつもより感触が少ない、普段のパジャマの方が薄いもんな、そりゃそうか。
だけど脚に触れる感触はいつもよりある、なんたって素足。片脚だけこっちに寄せて絡ませながら腰を引けば見上げられはしたが、特別抵抗も無かった。

「おやすみ銀さん、良い夢を。」

「あぁ、おやすみ。エロい夢見ても今度は心ん中で楽しんどくわ。」

「ふふっ、うん。そうして。」





朝起き様にもう1度おめでとうって言ったら笑って抱き締められたから思いっきり抱き付いといた。

神楽ちゃん達が下で準備をしている間、銀さんの足止めを任されてるからデートと言う言葉を使ってお散歩に誘ったけど、勘の良い銀さんなら直ぐに分かっただろうな。
それでも銀さんは素っ気ないフリして内心喜んでたりすると思う。


折角だしそれなりの格好をしようと思って、こっちに来て最初の頃買った神楽ちゃん達が選んでくれたワンピースを着た。でも何があるか分からないし足を上げれるように念の為スパッツは穿いておく。


「そんな服持ってたんだ?」

「うん、ワンピースってあまり着ないからタイミング分からなくて着てなかったの。」

「……デートだから着たの?」

「そう」

「ふーん」

ちょっと嬉しそうな顔してる。ワンピース好き? スカートかな。

「何デレデレしてるアルか、さっさと行って来いヨ」

「そんな顔してねーし」

「夕方までには帰って来るね」

「はい、こっちの事は気にしなくて良いので名前さんもゆっくりして来て下さいね。」

「ありがとうっ」


2人に見送られながら家を出て、向かう先は特に決めて無いけれどまだ疲れてるだろうし何処かで座ってのんびりしようかな。

「前に銀さんが連れてってくれた丘って何処にあるの?」

「丘? あぁ、星見た所?」

「そう! そこでのんびりしよう。」

「散歩すんじゃねぇの?」

「疲れてるでしょ? 座ってのんびりしようよ、私やりたい事あるし。」

「やりたい事?」

「うん、丘何処?」


不思議そうな顔しながらも手を引いて連れて行ってくれた丘は周りに何もない静かな所で、夜に来た時は分からなかったけど自然に身を置いていると言う言葉がピッタリな穏やかな場所だった。


「……凄く静か」

「街から少し離れてるからな」

「風が気持ち良いね、時間までここで過ごそっか。」


木の下に並んで座り銀さんを見ると、ボーと空を眺めていた。
誕生日、あんまり嬉しくないのかな。


「……誕生日プレゼントね、……私用意してないんだ。色々見たり考えもしたんだけど、何もピンと来なかったの。……何となく、形残るものを、欲しがらないんじゃないかと思って。」

そっと隣を見れば少し驚いたような、……怯えたような顔。


「だからね、残らないものを考えたの。」

「……残らないもの?」

「そう、でも銀さん記憶力良いから、きっと記憶には残してくれるかなって。て事で、はい、ハンドマッサージしますので手を貸して下さい。」

塗り込むとサラサラになるしマッサージにも使えるクリームを買った。少し甘い果実の香り。
脚の上に持ってきたタオルを置き、その上に銀さんの手を一度置いてクリームを自分の手の平で温めてから伸ばしゆっくりマッサージして行く。

・・・

「痛かったら言ってね」と言う言葉を発した後、俺の手を念入りに揉みほぐしてる姿をじっと見つめた。
特に欲しいモンがあるワケでも無ェけどまさかそんな事考えてたとは知らなかった。
散々考えた結果、残らない物に行き着いたんだろうな。


「これ匂いどう? 」

「すげェ旨そうな匂いするわ」

「ふふっ、終わったら暫く手から匂いするよ」

俺から匂ってどうすんだとも思うがな。寧ろお前から香った方が更に旨そうだぞ、とは言わねぇけど。

にしても揉み方イイな、指一本一本を滑らせながら揉み、クリームのヌル付きが絡む指を更に密着させる。何つーか手付きが……、止めよう、邪な事を考えるな、余すとこ無く手を触り尽くすこいつは俺にマッサージしてるだけだ。

両手を丁寧に揉みほぐした後、自分の手をタオルで拭き、今度は肩を揉むと言って後ろに回って肩に手が触れた。


「っ、あー、やべぇわ、すっげー気持ちんだけど」

「本当? やった、嬉しい!力足りる?」

「んー、…あー! そこもうちょい、」

「ここ?」

「あぁー、……きもちー、」

「ふふ、 」

ちっせェ手なのに上手い具合にツボを押して来てマジで気持ち良い。

「んぁ、……あー、……」

変な声出た。特に何も指摘されないが若干、

「う、ぁ、…、」

え、今のわざとじゃね? 俺が声漏らした所だろ今押してきてんの。

「っ、……、」

「何で声抑えるの」

「やっぱりわざとかコノヤロー。」

誰の影響だよこのSっ気。……元々か。


「何かいい声聞こえたから。」

「何がイイ声だ。俺を啼かせるなんざ良い度胸してんな、代われ。」

「嫌です。」

「俺に誕生日プレゼントくれてんだろ? なら頼み聞いてくれても良んじゃねーの。おら前座れや。」

「凄い横暴だ。……怒ったの?」

「いんや、ドSにイタズラ仕掛けんならそれなりの覚悟持ってやれってのを教えてーだけ。ほら来いや名前ちゃん。」

「え、すっごい怖いんですけど。 今のちゃん付け怖すぎ。」

肩に置いてある手首を掴み前に引っ張れば分かりやすく嫌そうな顔をしながら、おずおず前に座った。
けど先に仕掛けて来たのはそっちだかんな、少しくれェ付き合って貰おうか。

ムッと少し口を尖らせながら肩越しに振り向く顔、その頬を押して前を向かせる

「んじゃ、マッサージしまーす」

「痛いのやめてね?」

「だーいじょうぶ、俺結構うめぇから。」

依頼で爺さんにやる事が多い、男よりだいぶ華奢な肩に手を乗せると薄さが目立つ、つか骨出てないかこれ。こわ。


「……っ、」

直ぐに痣になりそうだから爺さんにやるよりもかなり弱い力で親指で後ろからツボを押せば、ピクリと動いた肩と息を飲む声が若干聞こえた。

「おい手で塞ぐんじゃねぇよ」

「……」

「言う事聞かねぇなら後ろで縛んぞ?」

「は!? なん、っ、……っ、」

「おー、頑張んのな?」


口を開けた瞬間狙ってツボを押しても頑張って耐えてたが、つらそうに熱の籠った息を吐く。

「っ、ちょ、……っ、」

「あ、こっちのがイイ?」

うなじを片手の平で覆って耳の周りのリンパを指の腹で軽く押しながら揉めば、首を反らして前に逃げようとする身体を二の腕を掴んで引き寄せる。

「うっ、……うー!」

「くくっ、唸んなって、もっとイイ声聞かせろよ。」

「……銀さんの誕生日だか、ぁっ、……もー!やー!」

「おー出せんじゃん。 はい、もういっちょ。」

「んっ、…待って、ぎん、ぁ、っさん!!」

「ぎんあさん?」

「銀さん!! もう終わり! 交代して!」

「お前まだやるつもりか。」

「ふぁっ!? ぁっ、……、っ…うがー!! 」

スゲー唸ってる。頭を勢い良く横に振り髪を乱しながら無言で拒絶を訴えて来るから仕方無く離してやったら、即行で距離を取り睨んできた。

「何だよ、お前が先に仕掛けて来たんだろうが。」

「別に何も言ってませんけど!!」


「ドSって本当意地悪いよね」とプンスカしながらも俺の後ろに回りまたマッサージを再開しようとしている

大人しく受け入れれば、さっきとは違い両手が頭に触れ程好い力加減で頭皮マッサージが始まった。


「……」

「気持ち良い?」

「……うん」


また緩い時間に戻った。嬉しそうに笑う声が耳に届き心温まる、つか、眠くなるなこれ。
ゆっくり目を閉じれば一気に脳が思考機能を停止させ、ガクッと前に落ちそうになる頭を後ろから触れていた手が掴んで止めてくれた。


「……、わり、寝てた」

「ふふっ、そんなに気持ちーですか。」

「ん、すげぇきもちーです。」

「ありがとーっ。」

弾むような声に思わず口許が緩む、でも眠いわ。
こいつ手から癒しの波動でも出してんじゃねぇだろうな。


「眠い?」

「……ん、」

意識が一瞬飛んだり戻ったりを繰り返しグラグラ揺れる頭を支えて横から顔を覗き込むように名前が視界に入った。

「お昼寝しよっか」

「……んー、お前も、寝んの?」

「私本持って来たの。スイーツの雑誌貰ったから一緒に見ようと思って、それ見てるから寝て良いよ。」

「雑誌?」

「桂さんがくれたの、隣街行った時に買ってくれたんだって。」

「仲良しかよ」

「どうだろ、あ、たまに女装して来てくれるよ。凄く綺麗でびっくりした。」

「お気楽なテロリストだな。」

「でもパー子ちゃんの方が可愛いよ。」

「……どうも。」

会話をしながら隣に座り伸ばされた脚の上に頭を置くと、ゆるゆる頭を撫でる手が心地良い。
だけどパー子の名前を出しながら頬を突ついてくんのは何でだ。会いたいって? 催促なの?

「………………今度な」

「っ!! ……っ、うんっ!」

顔を見なくても物凄く喜んでるのが分かるくらいの嬉々とした声色だった。目の前の俺よりパー子に会いてぇの? パー子は俺なのに良く分からんモヤっとした感情が芽生えるんだが。


薄く目を開ければ目の前に伸びる白い脚、そして目前にスカートの裾がある。手を少し入り込ませ肌に置くと、スベスベした感触が温かさと一緒に伝わってくる。
そのまま指を腿の間に差し込んだら声が降ってきた。


「何してるの?」

「んー、嫌?」

「……軽くにしてね。」


マジか、許可されたんだけど。これ触って良いって許可だよね?
ならば遠慮無く堪能するように撫でさせて貰ったら直ぐに要らない感触が指先に触れる。何かと思ってチラ見すれば、

「お前、何でスパッツなんざ穿いてんだ。」

「いや穿くでしょ。スカートなんだから穿かないと足上げれないじゃん。」

「今日は上げなくて良いだろ」

「いつ何が起こるか分からないでしょ? 油断するなとの教えですから。」

「何良い子ぶってんだよ、いつも言う事聞かねぇ癖して。」

「そんな事ない私良い子。」

「スゲー棒読み」

一応配慮してたがこんなん穿いてんなら要らねぇかと、自分の方にスカートを捲って見えた太股に唇を押し付けるも、直ぐに額をぐっと引かれて顔が離れた。

「銀さんこそ良い子違うじゃん。」

「良い子だろ? 見てみ、痕付いて無ェし舐めてもいねぇ。」

「……」

「良い子じゃね?」

身体の向きを変え下から見上げながら言えば不満そうな顔をして目を細められた。


「……もう大人しくねんねして?」

「なに赤ちゃんプレイしてぇの? 俺好きじゃ無ェんだけど。」

「はは、何そのプレイ。 ばぶーは?」

「言えって? 良いけど、ならおっぱい吸わせろよ。」

「うーわ。」

「だから止めろそのマジなトーン、そして冷めた目で見下ろすな。」

乾いた笑い声が聞こえたが丁寧に頭を撫でられて一気に睡魔が再び押し寄せて来る。

「良い子良い子、そのままゆーくり目を瞑ってね。」

「言い方」

「ふふっ、おやすみ、銀さん。」


目の上に置かれた手の平の温もりと耳に響く優しい声色に意識が遠退いた、決して寝かしつけられるガキではない。断じて。


・・・


温かいものに埋る感覚を残しつつ脳がゆっくり浮上した、目を開けても何も見えないのに物凄く良い匂いがして一瞬理解が出来なかったが頭にある温もりに見上げれば一目瞭然で現状が把握出来た。

抱き付いてたわ、こいつの腹に顔を埋めて腰に腕回して抱き付いてた。眠る前は上向いてたよな、俺寝返り打ったのね、わざと起きてる時にやるならまだしも寝ながらとか……ガキかよ。

「ふふっ、何してるの?」

今はわざと腕に力入れて抱き付き顔を埋めてる。多少恥ずかしいとは思う、だから気を紛らわそうとだな。
……何で今俺の耳を髪の毛で隠したの? 撫でてた手がどう考えても耳を隠すように髪の毛を指で寄せたよな? ねぇ何で? 分かるけど何で? 耳熱いから分かるけど何で?

動かない俺に今度は頬を撫でてきた。


「遊ぼー」

「……うん。」

多分結構寝てた、文句も起こしもしないで脚貸してくれたんだなこいつ。

ゆっくり起き上がれば持って来てた鞄をゴソゴソ漁って見慣れたピンクの箱を差し出される。

「イチゴ牛乳持って来たの、まだ冷えてるよ飲む?」

「おー、サンキュ、つか毛布まで持って来てたのか。これ、ありがとな。」

「うん、風あったら肌寒いからね。」


俺の身体に乗せてあった毛布をこいつの脚に掛けてパックを受け取る。笑って礼を言ってくれるが、言いたいのはこっちだ。流してくれたんだろ、起き上がれ無ェ俺が動けるように。


「お腹空いた? 多分お昼過ぎたと思うよ、軽くだけど作って来たの。」

「マジ? だから早く起きてたのか。」

「んーん、ご飯はおにぎりとおかず少しだけだから。誕生日プレゼントにデザート作ったんだ。」

形が残らないプレゼントまだあったんだ。つかもう貰ってんだけどな。

新たに鞄から出て来たのはカップケーキ、しかも兎の顔付き。

「可愛いな」

「ありがとう! 兎好きでしょ?」


いや別に好きじゃねえけど。 俺が兎好きとかおかしくね? 猫もあるよって耳をアピールしながら出して来るが、別に猫も好きじゃ無ぇぞ? 部屋着の事言ってんならお前が着てるからだぞ? バカなのか?

「後、パンケーキサンドは苺分けて貰って作ったから苺クリームだよ。それからクッキーとゼリーも作った。全部小さくしたけど見て欲しかっただけだから食べちゃダメね。」

「……は? え? 食うなって?」

「夜ご飯食べれなくなっちゃうでしょ? パンケーキサンドだけ食べてくれる? 他は明日でも持つから大丈夫。」

「いやいや食うわ、夜も食えるから大丈夫だって。」

「ダメでーす。」

マジで仕舞い始めた手を掴んで止めると、え?って顔して見られたが、こいつはホント何なの。

朝からこんなに作ったのか、早く起きて俺の為に作ってくれたんだろ。


「食う。つか食いたい。今食いたい。」

「お腹空いた? おにぎりあるよ。」

「それも食うけど、全部食う。」

「いやダメだよ、夜ご飯をより美味しく食べる為には多少の空腹感も必要なの。」

「食えるっつの。何ならお前ごと食えるわ。」

「はい? 何を言っているの。」


結局反対を押しきって全部食った。小さいおかげでそこまで満腹にもならず余裕で夜も食えそうだぞ。


「……本当に全部食べちゃった。」

「いやまだお前食って無ぇけど。」

「それもう良いから。帰り走って帰ろっか、時間まで腹筋してる?」

「お前が相手してくれたらイイ運動になるんじゃね?」

「じゃあサンドバッグやってくれるかな。」

「……散歩しよ?」

真顔になった。俺を蹴る気か、人間サンドバッグかよ。





帰宅後少し家で待機し電話でお知らせが来てから下に向かう。
店の前で銀さんに先に入るよう促したら、首の後ろに手を当てながら気だるそうに扉を開けてたけど面倒なんて絶対思ってない。

一歩足を入れた瞬間に打合せした一斉のクラッカーに私も後から参戦し、距離が近過ぎたせいで驚いた顔して振り向かれたけどカラフルな紙テープを頭から下げながら笑ってポン、と手を頭に置いてくれた銀さんはやっぱり優しい顔してる。

そこからは大にぎわいだった。

新八くんが歌って盛り上げたり、長谷川さんが一発芸したり、皆笑って銀さんをお祝いしてるのをカウンターでお手伝いをしながら眺めた。

隣に座ってろって言われたけど、さっきまで私が隣を占領しちゃってたし、ここなら正面から隠れて笑ってるのが見えるから特等席なんだよ。

「銀さん楽しい?」

「バカやってんなって思うけどな。」

周りを見て、ふっと笑った銀さんは皆から愛されてるんだよ。こんなに温かい人達に囲まれる銀さんもとっても温かい。


「銀さん、お誕生日、おめでとう。今日を一緒に過ごせて良かった。銀さんが笑ってると私も嬉しい、銀さんが楽しそうだと私も楽しくなる。銀さんの幸せが、私の幸せだよ、だからいつまでもずっと笑ってて。」

「……ならよーく見とけ、俺の幸せ見間違えんじゃ無ぇぞ。 」

「うん、皆温かくて、」

「ほら、ちゃんと見ろって俺の顔。」

カウンターから身を乗り出して片手で私の頬を掴み、ぐっと近付いた顔が至近距離で止まる。

「え? 近くない?」

「見えて無ぇみたいだから。 どーよ、見える?」

「いやさっきから見えてたよ。」

「見えてねーって。」

そう言いながら顔を斜めに傾け、口を開けて私の口を覆うように更に距離を近付けてくる。目を見つめたまま抵抗しないで立ってたら、近くに居たお登勢さんが銀さんの頭を叩いた事で距離が正常に戻った。

「ってぇなー。もうちょっとだったのに。」

「ここを何処だと思ってるんだい。名前もちゃんと抵抗しな。」

「でも銀さん絶対しないですよ、私が合意してないから。」

「……」

「名前の方が一枚うわてだったようだねぇ。」


不服そうな顔をするけれど思わずこっちが笑えば呆れたように笑ってくれる。


「私と出逢ってくれて、ありがとう」



いつも私の気持ちに寄り添い理解しようとしてくれる、何度不安に怯えても手を取り温かい場所に導いてくれる。こんなにも甘く温かい彼が、どうかいつまでも笑っていられますように。




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