▼ どんな時も隣に居てくれる貴方が
2018.7.8 沖田くんの誕生日小説
🔽
「沖田くん、最近良いなって思った物とかある?」
「んー別に。何かしてくれるってんならアンタの1日を下せェ。」
ん?これはバレたの?然り気無く欲しい物を聞き出そうとしたのバレた?しかも理由バレて、もう全部バレだ。
「バレたの?」
「バレバレでさァ。」
「残念、沖田くんお休み?」
「非番取りやす。」
「そっか、じゃ何処か行く?行きたい所ある? して欲しい事とか、食べたい物とか、物品でも、ある?」
「弁当作って下せェ、アンタの料理が食いたい。」
「お弁当ね、分かった!ならピクニック行こう! 」
そう約束して当日を迎えた。
待ち合わせている公園に向かうと既に沖田くんは来ていてベンチに座っている。いつもと違い袴姿。私も着物を着ようと思ったけどそのままで良いと言われたから、お言葉に甘えて洋服にさせて貰った。着物は動きずらいから。
「沖田くん!ごめんね待たせちゃって、」
「まだ時間前ですぜ。」
「でも待たせちゃったから。これ、お誕生日おめでとう沖田くん!」
「ありがとうごせェやす、何ですかィ?」
「プレゼント、あ、お弁当はちゃんとあるよ。」
「ストラップ? これ俺のアイマスクの?何処で見付けて来たんでさァ。」
「あ、良かった分かってくれて、少し歪なのは多目に見てね。」
「……は? え、作ったんで?」
「うん、」
「え?どうやって?」
「樹脂粘土で。耐水性あって丈夫なの、チェーンも紐も売ってるんだよ。こっち来る前は趣味でたまに作ってたんだ。」
「マジですかィ。すげェな、」
まじまじとストラップを眺めてから、子どもみたいな笑顔を見せ携帯に付けてくれた。
「一生大事にしまさァ。」
「ありがとう。」
「何でアンタが礼言ってんでィ」
「だって喜んでくれたから。こんな手作りとか重いでしょ? でも沖田くんだし良いかなって。」
「良いに決まってんでしょうが。旦那も欲しがったんじゃねぇですかィ?」
「うん、これから作る。こっち来て一番最初に作ったのが沖田くんのだよ。」
「アンタ男の扱い上手くなってきやしたね。」
「え?」
「無意識に他の野郎にすんのは止めなせェよ。」
「気を付けまーす。」
「本当かよ、」
「ふふっ、行こう? と言っても場所知らないけど、」
「そんな遠くねぇんで歩いて行きやす」
そう言いながら手を取り、反対の手で私の持っていた荷物を当たり前みたいに持ってくれた。
「ありがとう」
「いーえ。」
・
・
「わ、凄い綺麗!景色良いね!」
着いたのは街が見渡せる丘の上、花も咲いているし、緑のカーペットのように敷き詰められた丘がとても綺麗。
「サボり中見付けやした。」
「おサボり場所多いんだね、そりゃ探すの大変な訳だ。」
持ってきたレジャーシートを敷きながらする会話。ピクニックとか大人になってからした事無い、沖田くんを祝いたくて来てるけど私の方が楽しくなってる気がする。
「保冷剤入れたけど大丈夫かな、痛んでたりしないよね。」
「大丈夫でィ。」
「んー、あ、まだ凍ってる、良かった。はい、どうぞ。」
「どーも。 すげェ旨そう、俺が好きなのばっかじゃん。」
「そりゃ沖田くんの事考えながら作ったからね。」
「さっきから俺口説かれてやす? 何目当て?金?」
「あははっ、そうだなぁ、心かな?」
「そんなのとっくにアンタのモンですぜ。」
「ふふっ、甘、」
お互い笑いながらするこのやり取りはいつもこんな感じ。恋人の設定とか作って歩く時もある、最初は何がしたいのかと思いながら合わせてたけど、最近では私も楽しくなってる。
「スッゲェ旨かった。」
「嬉しい、ありがとう!デザートもあるよ、プリン作って来た」
「あ―、ヤベェでさァ。今グッサリ刺さりやした。」
「闇討ち食らった?」
「心臓ひと突きで。」
「なら今から私が1番隊隊長? 頑張る。」
「机の上に書類山積みなんで頼んまさァ。」
「待って、今蘇生するわ。はいプリン―。」
口元に掬ったプリンを運ぶと直ぐに、ぱくりと食べてくれた。
「うま、冷えてやすね。」
「ね、保冷剤が良い仕事してくれた。」
「俺より優秀」
「そんな事無い、沖田くんの方がもっと大きい保冷剤くらい優秀だよ。」
「それどっち道保冷剤と同等じゃね?」
「大丈夫、私はこっちの溶けかけの保冷剤くらいだから。」
「ふにふにしてる方ですかィ?」
「違った、私も良い仕事する方だったわ。」
溶けかけた保冷剤を指で押しながら私にそう言う沖田くんが何を連想しているのかは敢えて聞かない。
食べ終わっても何気無い会話で穏やかな時間が過ぎる、木の影になり程よい風が暑さを凌いでくれた。だけど風に混じって微かに、カチ、と音が聞こえて後ろを振り返ろうとしたら隣に居る沖田くんに頭を抱き寄せられた。携帯で短く操作した後、直ぐにしまい私に目線が向けられる。
「人数が多い上に場所が悪い、アンタを逃がしてやれねぇ。状況によっちゃアッサリ捕まりやすよ。」
「分かった。」
言われて直ぐに後ろから声が聞こえてきた
「こんにちはー、デート中悪いんですが大人しくついてきて貰えますかねぇ、1番隊隊長さん。」
ゆっくり立ち上がった沖田くんに手を引かれて私も立ち上がる。手を繋いだまま私を背中に隠すようにして木の横から後ろを振り返ると、かなりの人数が並んでいた。
「デート中だと分かってて来るとは随分野暮な奴が多いんだなァ? モテねぇですぜ。」
「はっ、この人数見ても軽口叩くたァ余裕ですねぇ隊長さんは。交戦がお望みなら構いませんよ。しっかり守れると、良いですけどねぇ?」
「目的は何でさァ」
「大将の首」
「テメェには重過ぎる」
「貴方が居れば軽くなるんで、黙って来てくれると助かるんですけど。」
「俺の首ごときじゃ近藤さんは軽くならねぇが、今はこいつが居るんでこっちとしても分が悪い。」
「彼女逃がして欲しいって?」
「近藤さんのお気に入りなんで、丁重に扱って貰いたい所でさァ。」
「ほぉ、なら自分で守りな。2人仲良く来て貰おうか。」
その言葉に繋いでいた手が、ぎゅっと力を入れて握られた。それを合図に反対の手で私が持っていた手錠を繋いでいる自分の右手と沖田くんの左手にかける。
「丁重に扱って下せェよ?」
「大人しくしてたらな。」
前に進む沖田くんに私も手を引かれなからついて歩く。
「手錠付けてデートたァ、噂に聞く通りドSのようで。」
「俺じゃねぇ、こいつが付けたんでィ」
いや、沖田くんが付けろって渡してきたんじゃん!
見上げれば口端を上げて軽く首だけ振り向いて笑った顔が目に入った。
沖田くんは何処行っても余裕そうだ。
・
・
ここに居ろと入れられた場所は殺風景のコンクリートで覆われた部屋。この中に檻があってそこに2人で入れられた。
「大丈夫ですかィ?」
「うん大丈夫。何する気だろうね。近藤さん無茶しそうで怖い。」
「さっき山崎には連絡入れたんで、例え1人でっつー条件でもそこまで無茶はしねぇと思いてぇが、まぁ無理か。」
「逃げる?」
「あー、刀取られたしなァ。こっち放置みてぇで助かったけど、逃げれねぇんじゃ意味ねぇか。」
「刀取りに行く?あそこにある、」
「いや、見えてやすけど。アンタは檻見えてやす?」
「壊せるでしょこれくらい。」
「俺をサイボーグか何かと思ってるんで? アンタを抱き上げる事は出来ても俺は人間でさァ。」
「私も人間だけど壊せるよ。」
「は? 」
右手は沖田くんと繋がってるから、少し下がってもらって飛べない代わりに身体を捻った状態から、勢いを付けて踵で蹴れば外にある鍵が壊れて扉は開いた。
「ほら、壊れた。そこまで丈夫そうには見えなかったし。」
「檻もイケるんですかィ。逞し過ぎて惚れ惚れしまさァ。」
「ありがとう」
「嫌みですぜィ」
嫌みだった。
「手錠の鍵持ってくれば良かったね、全然引き離されなかった。」
「こっから先も何があるか分かんねぇんで、良いんでさァ」
「でもこれじゃ沖田くん刀使いにくいでしょ。」
「大丈夫でィ。アンタは自分の事だけ考えなせェ。得意の飛び蹴りは出来ねぇですぜ、まぁ俺も一緒に飛んでも良いですが。」
「一緒に飛ぶの!? 待ってそれ面白い、想像するだけで笑える。」
「ツボが分かんねぇ、一緒にジャンプでもしやす?」
「ふはっ、やだもう、沖田くんとジャンプ!」
「はい、ジャーン、…」
「っ!う、…わ、びっくり。」
「随分呑気に笑ってるからイケるかと思いましたけど、流石は隊長さん。」
「ジャンプくれェさせろよ。俺と飛びてぇつーこいつのお願い叶えられなかったじゃねぇか。」
「なら私が飛ばせてあげますよ。あの世まで。」
「ああ言ってやすけど、それでも良いですかィ?」
「……いや、良くないです。」
「駄目じゃねぇか。ろくな提案して来ねぇな。」
そんな事言ってる間に後ろからも来たんですけど。
私を後ろに回し壁を背に付ける、沖田くんと壁に挟まれた私は足手まといでしかない。だけど、沖田くんはこうゆう時も一緒に居てくれる、私の安全を考えつつも自分が守ろうとしてくれる。捕まった後、離されるかも知れないと手錠をかけるように指示し鍵はその場に捨てて来た。何処かに避難させるよりこうやって傍に置いてくれようとしてくれるんだ。
だからおのずと沖田くん動き方も分かってきてる。
左手が私と繋がってるから左側からの攻撃は受けにくくなる、特に左から私を狙ってくると視角にさえなっていまうから、沖田くんの刀の邪魔にならないように、私に向いた刀は自分で弾き蹴り飛ばす。
「移動しやす」
「はい」
ある程度少なくなってから短く言った沖田くんについて走ると、一瞬視界に黒が見えて顔を向けると山崎さんが上を指差していた。
「沖田くん、上だっ、て! っは、びっくりした。」
「顔ごと向けんじゃねぇ、目線だけにしなせェ。」
「すみません。」
斬られるかと思った。顔を前に戻したら刀が下ろされる寸前で、左手犠牲にして止めようかと思ったら右手が勢いよく引かれたお陰で床に突き刺さった刀についてきた人を蹴って飛ばした。
その後も何とか上まで来れて、ビルの屋上についた。
「随分暴れてくれたもんだな、お陰で予定が狂いまくりだ。」
「あんな安い檻じゃァ、こいつな大人しくしてくれねぇんでさァ。」
「まぁ甘く見てたって所か。だが大将は今回見逃す代わりにアンタらの首頂く事にする。」
「そいつは困るわ―。俺これからその子に説教しねぇとなんねぇの。時間惜しいから退いてくんない?」
「っな!? お前どっか、ぐっ、」
「はいそこのお嬢さん、男の背中に隠れて無ェで大人しく出て来た方が良いんじゃねぇの?」
私は今沖田くんの背中にぴったりくっついてる。勿論わざと。見てないけど見なくたって分かる、そして怒ってる。
でも、怒られる理由ある? 出掛ける事は言ったし、沖田くんと会うことも言った。ここまでは稀だけど、一緒に居る時に狙われる事も今まであった。呆れて溜め息は吐かれるけど、そんな怒ったりしないのに今日は何であんなに怒ってるの。声がこわい、絶対目もこわい。
「おい、いつまで隠れてる気。」
「旦那ァ、今日は俺の誕生日ですぜ、多目に見て下せェよ。」
「そいつの油断は身体に叩き込まねぇと分かんねぇんだよ。」
「あぁ、それですかィ。なら仕方ねぇ頑張って来なせェ。」
「え!? どれ!? 待って何で、今味方してくれたじゃない。」
「見られてたみたいでさァ。アンタが顔背けて斬られそうになった所。」
「……」
それ私が悪いやつ。え、私が余所見したのが悪いやつじゃん。
「大人しく来んならひと噛みで許してやらァ。」
噛まれる事が決定されていた。そんな事宣言されたら帰りたくない。このまま真選組に、
「逃げんなら俺が場所を決める上に1回じゃ止めねぇからな。」
八方塞がりとはこの事かな。逃げ場なんか無かった。
「帰りなせェ。」
「…帰るよ、絶対帰るから。銀さん助けに来てくれてありがとう、帰ったらちゃんと謝るしお説教も聞く。だから今日は先に帰ってて。」
「……家まで送り届けろよ。」
「分かった」
「オメーに言ったんじゃねぇよ馬鹿か。」
「え、」
「ちゃんと届けるんで安心して下せェ」
「っえ、今から私が沖田くんを送るんだよ?」
「分かってやすよ。その後俺がアンタを送りやす」
「いや、それじゃ私の送る意味がない。」
「その分長く居れるじゃねぇですかィ。」
「本当だ。じゃまた沖田くんを送れば良い?」
「おいバカップルみたいな会話止めろよ。俺の怒り何処に捨てたの?ちゃんと受け取れよ。」
「大丈夫ちゃんとポケットに入ってるから。」
「んなちっせェのかよ。あ―、もう良いわ。今日だけだかんな、」
そう言って銀さんは先に帰ってくれた。
「良かったんで? 今帰った方がマシなんじゃねぇですかィ?」
「かもね、でも今日は特別な日だから、私も気分が良いし2ヵ所くらい噛まれたって笑ってられるよ」
「笑いながら噛まれる図ってのも中々狂ってやすね。」
「寧ろ怖いね、止めてくれるかも。」
「期待しねぇ方が良いですぜ。俺だったら笑ってられなくなるまでジワジワ痛み与え続けやす」
「いやいや、こわっ、え?こわいね?何でそんな事するの? やめてあげようよ。」
「多分アンタなら無理矢理笑おうとしてんの目に見えて分かりそうなんで、噛むまで時間掛けて焦らした後にゆっくりそれ以上の時間掛けて徐々に痛み与えて行くのがベストですかねィ。」
「沖田くん!? どうしたの沖田くん! こわいよ!?しかも近っ…!!見えてる!? 私もう目の前!」
「視野は広く持てって、俺言いやしたよね?」
「…………はい、」
怒ってた。沖田くんも怒ってた。確かに悪いのは私、沖田くんが腕引いてくれなかったら斬られてた。
額同士をぴったり付けて来てるのも怒ってるからだ。首の後ろに片腕回されてて逃げれないようにされてるし、おでこ痛い、押されてる。怒ってるのね。
「……ごめんね。」
「次は気を付けて下せェよ?」
沖田くんやっぱり甘いな、次もまた一緒に居てくれようとしてる。置いて行ったりしないで可能な限り傍に居てくれるんだろうな。
「うん、ありがとう。」
右手は手錠が繋がったままだから左手だけ背中に回して抱き付く。目の前にあった目が一瞬大きくなって、顔が額から離れ抱き締め返してくれた。
「沖田くんお誕生日おめでとう。沖田くんに出逢えて良かった。」
「俺もでさァ。」
いつも私の気持ちに気付いてくれる、例え危なくても一緒に居たいと思う私の我儘を察して汲んでくれる。こんなにも温かい彼が、どうかいつまでも笑って居られますように。
prev / next