トリップ 番外編A | ナノ
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▼ どうか気付かないで



2018,10,10 銀さんの誕生日小説直後の後日談。


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途中で寝てしまった神楽ちゃんを銀さんが抱き上げながら日付が変わってから万事屋に戻ってきた。

サッとシャワーを済ませて布団を敷いてる時にソレに気付いて手が止まる。

何故ここにあるのかと。


今、私の視界に入った目覚まし時計、ジャスタウェイだっけ? 確かそんな名前だった筈。今朝まではいつもと同じだった、なのに、何で……、

チラッと銀さんを横目で見ると至って普通に布団を敷いている。だけどこれの原因は絶対銀さんだ、だってそれ以外無いよね、私はちゃんと隠したんだから。

何度見たって有るものはある。この目覚まし時計ジャスタウェイの首元にミサンガが……、ネックレスのように付いてる、……何で、どうして、私はちゃんとこの子の中に入れて隠した。見付からないように下の方に入れたんだよ、なのに何で首に掛けてあるの?

いや落ち着け、もう原因なんてどうだって良い。だって十中八九銀さんなのは分かってる、ならばこれを私が入れたんだと言う事に気付かれてる。しかも隠すように入ってたとなると疑問が生まれた筈、誕生日プレゼントだと気付かれただろう、それも私が編んだと気付かれた可能性も高い。

手作りのミサンガを誕生日に渡すなんてどう考えたって重いよ。しかも形に残る物を欲しがらないだろうって自分で言ってるのに手作りって。
加えて願いを込めて編んだ上に目覚まし時計に隠した。
絶対気付かれたくなかったのに、……でも、大丈夫、優先順位を間違わなければ大丈夫。全て隠そうとしたってもう手遅れだ、だったら他全てを捨ててでもそれだけは隠し通そう。


「付けて欲しいワケじゃねんだろ?」

突然始まった会話。絶対聞かれるって思ってたから構えてたけど、付けるって何の話? 隠したミサンガじゃ無い?


「何の話?」

「え、そこ惚けんの?」

顎で指された方を見ると、今現在私の中で必死に作戦を練っている原因の代物である目覚まし時計と首にあるミサンガ。
あ、やっぱりミサンガの話? 付けるって、…………ミサンガを? 付けて欲しい訳じゃ無いんだろって聞いてきた? え、ミサンガを? 付ける? 銀さんが?
そんな事考えもしなかった、でも待って、それかなり良い言い訳になる。


「あっ、これね、…………何で気付いたの」

違うでしょ!? そんな原因どうだって良いってば! 言ってよ!付けて欲しかったけど無理だと思ってたから隠したって! そしたら無くしたら危ないもんな、とか言ってきっと会話終わるよ!


「今朝寝惚けて足当たってよ、倒したら中に入ってんの見付けた。」

そんな偶然あるの!? もっと細工しとくべきだった。


「そっか、」

ってやっぱり言えない、付けて欲しかったとか嘘でも言えない。 こんなの付けて欲しいとは思わないよ、てかそれ付けたら見えるじゃん、私が。 絶対いやだ恥ずかしい。


「で?」

「……うん、付けて欲しいとかは無いね。……これ、形、あるから、」

「あぁ、昼間形残んねぇモン選んでくれてたもんな。お前が編んだの?」

「そっ、……そう、あっ、お、重くて、ごめ、」

「俺が、そう思うって?」

「いえ私がです。」

こわ。一気に声のトーン低くなった。分かってるよ銀さん例え思ってもそんな態度しないよね。
きっと渡せば喜んで受け取ってくれた。


「なぁ、俺に重いと思われるから隠したの?」

「違うってば。いやまぁ思いはしたけど、でも渡せば受け取ってくれると思ったし、重いって言われるとは思ってないよ。」

「ふーん、なら隠した理由は目覚まし時計?」

「……これ、今更だけど、貰ってくれる……? 誕生日、プレゼント、に、作ったんだけど……。」

「すげぇ嬉しいよ、ありがとうな。で? 隠した理由は?」


逃がしてくれないんですけど。全然逃がしてくれる気配が無いねこれ。話逸らそうと頑張って言ってみたけど駄目だった。
しかも近付いてきた……、えー、一緒に寝るの? 良いよ? だからもう寝て。

もうとっくに敷き終わってるシーツを無意味に撫でて皺を伸ばしてたら隣まで来た銀さんに腕を掴まれて止められた。チラリと見ればご丁寧に手にはミサンガが持たれている。

「まぁ、何となくは分かるけどな。」

だと思うよ、察し良いもんね。


「俺がうなされないようにって編んでくれた?」

「…………うん、」

「ありがとうな。」

そう言って抱き締めてくれる銀さんの背中に腕を回すけど、本当にもう寝てくれないかな。だって銀さんがこれで終わると思えない、察し良いだけじゃないもんね、


「でもよォ、それだと隠す必要は無ェよなぁ? 直接言って目覚ましに付けりゃ良いじゃん。 で? 理由は?」

「……」

「手作りのミサンガが恥ずかしかった、………もしくは、自分が消えた後の事を、考えて編んだから?」

もしくは、の後の声低くない? あと腕の力が強い。
これ誤魔化せる? 最初言われた方を押し通しても信じてくれるの?


「今、正直に言うってんなら制御してやんよ。」

何を? ねぇ何を制御するの? しかもその言い方、絶対後者だと気付いてるよね?

「言わねぇなら無理矢理言わすけど。」

「わっ!? ちょっ、待って、手ぇやめてよっ!」

「なら早く言えって。」

「っ、私がっ、居ない時だってあるでしょ! 外泊してたり、……確かに、銀さんが言った事も考えて編んだ、けど、1番は銀さんが良い夢見れるようにって願って編んだの。私が居ない時も居る時もだよ。隠した理由は私が恥ずかしいって事と、願った理由言ったらそうやって怒るだろうと思ったから。でも後ろ暗い気持ちで編んだ訳じゃ無いからね、大袈裟に言えば、いつ何が起こるか分からないでしょ? 全部の意味を込めての事なの。銀さんがこの存在を気付かなくても私は良かったから、だから隠したの。」


一気に説明したら、腰にあった手が服から出て行って抱き締められてた力も優しくなった。

「……けど、折角作ってくれたんだろ? んな所隠さねぇで言えよ。これ気付いたのマジで偶然なんだかんな。」

「うん、ごめんね。 ありがとう、喜んでくれて。本当はね、気付いてくれてちょっと嬉しかったよ。」

「だったら最初から言えってのー」

「ふふっ、ごめんねぇ。」

のし掛かるように倒れて来た身体を支えきる事は出来ずそのまま後ろに倒れたら、私を潰さないように布団に腕を付けて自分の身体を支えてる銀さんの顔が真横に落ちる。
ふわふわと頬に当たる銀髪にそっと手を伸ばして触れるとこっちに顔を向けた銀さんの視線と重なり、ゆっくり身体が起き上がってそれでも近い距離で真上から見つめてくる。


「……手、添えて。」

何処にだろうと思う暇も無く手を握られて、私の手の平が銀さんの口を塞ぎそのまま手の甲が自分の唇に当たった。
銀さんの前髪が目に入りそうになり思わず目を瞑ると手の中で唇が動くのが分かり目を開ければ、手の平に唇を押し付けたり食べるみたいに動かしたり、舐めてる? 舐めてるね。


「、これより、ミサンガ渡す方が恥ずかしいの?」

「うん」

「これは恥ずかしくねぇの?」

「これ以上はしないって確信があるから。」

「まぁ、信用されてんのは嬉しいけどな。ちゃんと俺が我慢してるって分かってんだよな?」

「分かってるよ、私にそんな気起こさないとかじゃなくて、銀さんが私を思って妥協してくれてるって分かってる。」

「んー、なら良いわ。」

満足したのか起き上がって退けてくれたから私も布団に入る為に一度身体を起こすけど、直ぐに電気が消された。

「一緒に寝よ」

「うん」

私の代わりに掛け布団を掴み抱き締められながら横になる。

「……銀さん、お誕生日おめでとう、ございました。」

「おー、ありがとうございました。来年は直接するからな。」

「……ふふ、」

「笑い事じゃねーって、俺マジで言ってんだぞ。」


布団に肘を付いて少し起き上がり目を開けてこっちを向く顔に近付き頬に唇を押し当てる。

「……願いが叶いますように」

「いやそこは了承じゃねぇの?」


でもちょっと笑ったから機嫌は良さそう。
ゆるゆると撫でられる頭にホッと一息ついて目を瞑る。


良かった、多少の違和感でも気付かれそうだし、こうゆう感情が関わったりする隠し事は納得するまで折れてくれないから少しの動揺、言動ミスで勘づかれる可能性があった。
本当に他全て吐かされたけど、私が隠したかった事さえ隠し通せればそれで良い。

言った事全て嘘じゃ無いよ、本当の事しか言ってない。だけど、一つだけ言わなかった。ただそれだけ。


“良い夢が見れますように”


銀さんの思う良い夢に私が入っていますように、
夢の中で、会えますように。

例えこの場所に違う誰かが居たとしても、夢の中だけで良い、私が銀さんの隣に居れますように。









狡い私の自分本位な願いに、どうか気付かないで。





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