トリップ 番外編A | ナノ
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▼ 【グロス】



「珍しいな、グロス塗ってんの?」

「うん、おまけでサンプル貰ったから付けてみたの。これからバイト行くし丁度良いかなって。」

「ふーん、」


うっすらピンクに色付いた艶のある唇は、それはもう旨そうにしか見えない。

「今日の夕食はコロッケだよ」の前後にも何か言っていた気もするが殆ど耳には入って来ない程、目線は口元に釘付けだった。何故コロッケだけ耳に入ったのかは分からない、腹減ってんのかな。



「っう!?…っ、たいよ、」

「っ!あー、悪い。」


無意識だった。テーブルを片付けながら話すこいつの頬を、無意識に掴んで自分の方に無理矢理向かせてた。しかも力の制御が出来てなかったらしい、痛そうに顔を歪ませて離そうと俺の手を掴んできてる。

視界から断たせるべく手を離し隣から離れて後ろのソファーに移動すれば、不審そうに見られたが気にするなと言えば再び片付け始める。その後ろ姿をじっと眺めた。


後ろ姿しか見えねぇのに全く頭から離れねぇ。つーか、バイト行くって?そのままスナック行くっつー事か? 男を誘うようなその唇で?笑顔振り撒きながら酒注ぐのか?


前屈みでテーブルを拭いている、その腕を後ろから引けば手を床に置き身体を支えながらも尻餅をついた。


「った、もうさっきから何なの?」


文句は聞かなかった事にし床に付いてる腕を足で軽く弾き、倒れて来た身体を顎と後頭部を支えなからソファーに座ってる自分の脚に頭を乗せる。


上から、しかも逆さまで覗き込めば驚いた顔と艶のある唇が目の前に来る。


「え、なに?」

「今日バイト行くの?」

「うん行くよ?何で?」

「それ付けて?」

「え? どれ?」

「これ」


顎を固定したまま親指で唇の下を撫でると、目をパチパチさせながらも大した抵抗はして来ない


「え?グロス?」

「そう」

「付けてくよ?さっき言ったじゃん。」

「止めた方が、良いと思うぞ。」

「え…似合わない?」

「いや、似合ってるよ。だけど、」


ぐっと身体を前に倒し顔を近付ける。俺の前髪がこいつの顔に触れるくらい下げれば、目が見開かれ驚いた顔をする。


「えっ?近くない? 」


頬に手を添えながら額に唇を当てると、どうしたの?と呑気に聞いて来る唇を顎から手を離し人差し指と中指で覆うように乗せる。

その上から口を付けた。こいつの唇の上に置いた自分の指を舐めながら、食むように口を動かすと指からはみ出て顎にも触れたが気にせず続ける。


暫く繰り返してると前髪辺りに軽く何かが触れたのが分かり、目線だけ上げると手が見えた。


あぁ、限界来たか。

ゆっくり顔を起こしながら、唇に置いていた指でグロスを拭き取り離れる。


「すげェ旨そうにしか見えねぇから、止めた方が良いと思うぞ。」


グロスの付いた自分の指を見せ付けるようにして舐めれば、眉間に皺を寄せ分かりやすく引いた目で見られた。


「何なの? 貸してあげるから最初から自分の指に塗って舐めてくれない? 」


唇から横に流れたグロスを手の甲で拭いながら文句を言ってるこいつは少々不機嫌になってる。


拭って立ち上がろうとする手を掴みグロスの付着している手の甲を舐めれば抵抗されたが、少し力を入れて握れば大人しくなった。
綺麗に舐め取ってから唇を1度当て、そのまま目線だけで顔を見れば、ずっとこっちを見られてたのか直ぐに目が合う。


「満足?」

「…うん。」

「なら離して。」

「はい」


やり過ぎたか、一瞬飛んでたかも。
変態だと思われたな。いや、今更だけど、



「グロス付けて行くの止める。」


立ち上がり上から聞こえた声に顔を上げれば、真顔でそう言った後、俺がさっき舐めたこいつの手の甲に今度は自分で唇を付け口端を上げて笑った。


目を見開いたであろう俺に、子供のように舌を出して台所に向かう後ろ姿をただ呆然と眺めた。



多分バレた。ただの嫉妬だって気付かれた。それに気付いたから素直に止めてくれたんだ。だけど最後のアレはなんだ? サービスなの?同じ所舐めてやがったぞ。


無意識に出る溜め息を自分で聞きながら、艶が残っている自分の指に唇を当てる。まだ感触さえも鮮明に覚えてる。


「すみませーん、そこの変態さん。ジャガイモ潰すの手伝って貰えますー?」

「っ!? はぁーい、喜んでぇ。」


見られてたァ……!そしてやっぱり変態だと思われた。

けどよ、んなモン付けてる方が悪いと思わねぇ?



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