▼ 【脚】
「なァ、足舐めていー?」
「はい?」
棚を拭いていたら突然後ろからわけの分からない事を言われて思わず手を止めて振り返った。
「だから足舐めたい」
「……いや、……おかしいよね? …………え、ちょっと素で引いちゃって何て言って良いか分からないんだけど馬鹿じゃないの流石に気持ち悪いよ?」
「うん、分からないとか言いながらもしっかり言えてる。」
何だろう、冗談かな。真面目に受け取ってしまった。再び棚を拭き始めると終わったと思った会話は終わってなかったようで銀さんがまだ言ってる。
「ちょっとだけで良いから」
「……本気で言ってるの? 触りたいとかならまだ理解の余地があるけども、舐めたいって言ったよね? ……分からない、何故? 他人の肌を舐めたい心境って何、どんなの?」
「他人っつーか、お前のな。」
「あぁ、……うん、どうも。…………え、やだ。」
「なんで?」
「なんで? え? なんで?? 舐められるの嫌な理由?」
「嫌ってんなら理由あんだろ」
「えっ」
理由? 嫌って言うのがごく一般的だと思うんだけど、理由云々探さなくても普通嫌じゃないの?私がおかしいの? おかしくないよね?
「噛まねーよ?」
「噛まれるのも舐めるのも嫌」
「触られんの嫌?」
「触られるのは嫌じゃないけど、舐めるのは嫌」
「俺に舐められるの不快?」
「不快……、って言うのは適切では無い、けど嫌」
「どうしても?」
「どうしても」
やっと会話が終わった。良かった、どうしたのかな本当に。人肌恋しくなったならハグとかにして欲しい。なんで舐め? なんで?
「……お願い」
…………………………終わってなかった。
しかも狡い事を言ってくる
「…………理由は?」
「触るだけじゃ足りねぇから」
足りない? 触るだけじゃ足りないから舐めたいの?……え、触るだけじゃ足りないと舐めたくなるの? ……分からない、何故? どう頑張っても理解出来ない。
「…………ちょっとしたら終わる?」
「うん、終わる」
「………膝、から下でも……?」
「良いよ」
こっち来てと、ソファーに座るよう指示されたから大人しく従って座れば銀さんは目の前の床に座って来た。
……なんと言うか、
「女の足元に座り込んで足舐めるとか、……良いの? 男のプライドとか、……」
「プライド? んなモン何になんだよ、お前触んのにプライドもクソも無ぇっての。」
言いながら「捲んぞ」と許可を取ってきたから頷けば、足首からふくらはぎの裏側を撫でるように大きな手の平がゆっくりと上がりながら捲られる裾。
捲った反対の足まで裾から手を入れてふくらはぎを触ってる。
「いい?」
「……うん、」
膝の裏に手を当てて支えるようにしながら、その膝に唇が触れた。見てたから分かってる筈なのに触れた瞬間肩が微かに跳ねたのが自分で分かった。
足にまで振動が伝わってしまったのか、唇を当てながら目線だけ上げてきた銀さんと目が合う。
「怖ェ?」
「いや、…大丈夫、」
大丈夫と言えば私の目を見たまま膝に唇を押し付けリップ音を鳴らしながら離れて笑った。何で笑うの? 何でそんな楽しそう?
「……楽しい?」
「かなり」
かなり……、足を触りながら唇付けるのが? これから舐める事が?
でもさっきも思ったけど、きっと私には分からない事なんだ。人それぞれ楽しみも違うし趣向だって違う。
そっと膝に舌を這わせてる銀さんは私には分からない趣向を持っているんだ、それが私にしか出来なくて、私にしたいと思うのならば叶えてあげたいとも思う、その為にここに座った。自分で決めて、自分の足でここに座った。
だから早く終わって? 居たたまれない、ふくらはぎを掴んで軽く持ち上げながら舐めてる、さっきまで膝だったけど少しずつ下りていってる。何処まで舐めるの? まだ足りないの?
「……あの、……まだ? 」
「うん」
うんって……、それだけ? いつ終わるの? どの辺まで舐めたら終わる?
もう片足だけ見て分かるくらいテカテカしてるよ、これの何が楽しいの……
「……ね、そろそろ……っ、え? え、……、」
待って、この人何してるの?足の甲に口付けてるよ、
「銀さん止めて。知らないのかもしれないけど、足の甲とか駄目だよ、銀さん程の人がそんな事しないの。もう終わりね、離っ、い!……」
「されてやろうか? 」
見せ付けるかのように赤く色の付いた甲に舌を這わせる銀さんは分かっててやっている。
「……大人しく従ってなんかくれないんじゃないの」
「そんな事ねーよ? お前がご褒美用意してくれんならなァ。しっかり褒美与えとかねぇと、食われっかもしんねぇから気ィ付けろ?」
褒美目当てに大人しく従ったフリしてるって事?
とんでもない狼だよ、羊の毛皮被った狼ってまさしくそれじゃないの
「そんな恐ろしいの嫌だよ」
「だけど、ほら。もうマーキングされちまってる。」
足の裏を掴んだまま白々しく自分で付けた赤い痕を親指で撫でる銀さん。
まるで私の方が支配されてるみたいだ
prev / next