トリップ 番外編A | ナノ
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▼ 【ナンパ】



「はーい。ごめんねぇ、ウチの子に何か用―? 用が無ェならさっさと消えてくんねェかな。」

「……凄い怯えた顔して走ってったよ。私ただ道聞かれただけなんだけど。」

「ばーか、ありゃァどう見てもナンパだっつの。そもそもあの地図、歌舞伎町のじゃねぇし。」

「え!? そうなの!?」

「お前さァ、マジでもう少し警戒心持ってくんない?」

「…ごめん、ありがとう。……でもさ、例え仮にナンパされたとしても私着いていかないし大丈夫だよ。」

「あぁ、お前バカだったな。」

「失礼!ヒョイヒョイ着いて行くように見えるの!?」

「そうじゃねーつの。まァ、やってみた方が分かるか。俺今からお前ナンパするから、逃げろよ。」

「え? 何いきなり、」

「いいから。 あれ―お嬢さん1人? 何してんの? この辺危ねぇから、気ィ付けた方が良いよ?」

「っえ、えっと、ありがとう?」

「いいのいいの。俺そうゆうの詳しいから、あっちの道通ってった方が良いよ。抜けたら人通り多いし。」

「分かった、ありがとう。」

「一緒に行こっか?」

「いえ、大丈夫です。」

「そっか、じゃ、気ィ付けてな?」



口端を上げて手を振られた。え? ナンパ終わり?何がしたかったの銀さんは。

意味が分からない。取り敢えず帰ろうと思いさっき言われた道に入ると、割りと暗めだけど数メートル先には人が交差している道に繋がっている。
見覚えある店が見える、近道かな知らなかった。


前を見ながら歩いていると足元に空き缶が転がってきた。それを拾おうと屈めば、壁かと思っていたのに横には開かれた扉。空き部屋なのか暗くて中が良く見えない。若干怖くなって急いで空き缶を手にすると突然後ろから誰かに押されて、足が前に進み空き部屋に入ってしまった。その直後、後ろの扉が閉まり一気に目の前は暗闇と化した。


何も見えない、立っていられ無くて部屋に踏み込んだ時点で座り込んでしまってる。


「っ! ……っや、」

「俺だ。」


っえ? 銀さん? これ銀さんなの?


座ったまま固まってると、後ろから肩に手が置かれて身体が跳ねた。泣きそうになってると銀さんの声。



「ほ、本当に銀さん……?」

「あぁ、俺。背中押したのも空き缶投げたのも俺。」


後ろからお腹に腕が回り、目の上に手の平が当てられてる。元々何も見えてないけど温かさがある分、恐怖は徐々に薄れてきた。
背中からもぴったり体温を感じられ頭に顎が乗ってるのも分かる。



「大丈夫か。」

「……うん、大丈夫。」

「ここみたいに使われてねぇ建物は多い。場所を把握しておけば簡単に誘導も出来るし、連れ込むのも簡単だ。前に人が通ってたから安心したろ?」

「…した、」

「良いやつばっかじゃねぇんだから、人の事そう易々と信用すんな。お前が自分の意思で着いて行かなくても、こうやって捕まんだぞ。 」

「…はい、」

「前言ったろ、安心すんなって。何でもかんでも警戒心むき出しにしろとまでは言わねぇけど、大丈夫だと安心すんのやめろ。分かったか?」

「…わかった、」

「大人しいな、やっぱ怖ェ?」

「…少し」

「んじゃ出るか。」


そう言ってお腹に回ってた腕に力が入って立たされてそのまま足が浮いた。目にあった温もりが消えた後、正面に光の縦線が見てた。そしてゆっくりそれが大きくなって、さっき見た空き缶に出迎えられる。


「大丈夫か?」

「大丈夫。」



開かれた視界に安心していると、大丈夫だと言ってるのに後ろから顎を掴まれて覗き込むように横を向かされた。

そのままじっと顔を見られるも銀さんは何も言わない。


「なに? 本当に大丈夫だってば。」

「ならこの手、なに。」



手? 顎が離されたから自分の手を見る為に顔を下げると、自分の両手がしっかりとお腹に回る銀さんの腕を掴んでいた。


気付いてパッと離して、行き場の無くなった手を肩くらいまで上げる。


「……大丈夫だもん」

「ふーん、じゃもう一回行っとく?」

「………………………………大丈夫だもん」



ボソッと言えば身体が浮き更に反転して、また目の前に暗闇が来た。そしてそこに進もうとする身体。



「っ!? まっ!…だ、大丈夫じゃないっ、大丈夫じゃない…! っ銀さん!」

「くっ、はは、焦りすぎ、冗談だって。」



こんな冗談酷い。悔しくて掴んでた銀さんの腕に爪を立てても、笑いながらイテェと言われて全然効果が無かった。



「もうやだ。離して。」

「素直に言わねぇから。」

「うるさいな、離してってば。もう掴んで無いじゃん、早く離して。」

「何だよ−、用なくなったら離せって? あんなしがみついて来てたのに。」

「銀さん意地悪するから、もうやだ。」

「じゃあ手ェ繋ぐ?」

「繋がない」

「えー。ならどうすんの、俺の手。」

「知らないし、空き缶でも持ってれば」

「酷ェなぁ」


酷いと言いながらも笑ってるのがまた腹立つ。

やっと緩んだ腕をすり抜けて人の見える方に進む。
だけど一向に後ろから足音が聞こえて来なくて、一応振り向いてみた。そしたら銀さんさっきの場所から一歩も動かず立っていて、目が合うと緩く笑って手を伸ばした。

繋がないって言ったのに。ここからだと私が伸ばしたって届かない。仕方無いから渋々戻って手を握る。


「オメーは本当に甘ェな。」

「なにそれ。」


しょうがないじゃん、私に向けられた手だよ。今まで一度もないもん自分に手を差し出された事。転んだりとかも別にないし、手を貸す為って理由でもそんな事無い。

それにこの手は大事な手。いつも守ってくれる、優しくしてくれる。離して貰う事はあっても振り払う事は出来ない。そんな手が差し出されたら掴むしかない。

差し出されなくなる、その瞬間まで。


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