▼ 【睡魔】
何故か突然の睡魔が襲い掛かってきて、油断したら瞼が下がりそうだ。
「……寝てんの?」
聞こえた銀さんの声にはっとすると目の前に洗濯物。もう既に瞼は閉じていたらしい、一瞬寝てた。だって何で洗濯物が目の前にあるのか直ぐ理解出来なかった。
睡魔を消し去らねば。でもパチパチ瞬きを繰り返しても、ブンブン頭を振っても睡魔は消えてくれない、どうしてなの。
「昼寝すれば?」
「……しない、」
私は今、手元にある洗濯物を畳むと言う使命を全うしているの、ちゃんと思い出した。終わったら何処か掃除するの。
そもそもお昼寝する程動いてないよ、今日休みだもん。
「ん、やめてよ、押さないで」
「だって突ついたら倒れそうなくれぇフラフラ」
「いま必死に、たたかってる。」
「それ勝つ必要あんの?」
ある。
たくさん、ある。
「ほらこっちおいで。」
「ん、んー? やだすっごい誘惑、何してるの。」
何で布団敷いて転がってるの、掛け布団捲らなくて良いから、肘付きながら布団ポンポンするのやめて。
「ほらほらー、おいでー」
「やだ何か聞こえる、ねない。」
もう一度頭をブンブン振って行かないアピールするついでに睡魔を追いやろうとしたのに全く離れて行かない、水でも飲んで来ようかな、顔洗うとか。
「ほれ」
「んー、……ねないもん……」
身体を起こしたらしく布団に座って両手を広げてる銀さんの誘惑が酷い。 あの腕の中に飛び込んだら絶対温かいよ、心地好いハグと多分頭撫でてくれるよ。って脳内で良くやるやつ、あれ、あの、天使と悪魔のやつ。洗濯物畳むの後でやれば大丈夫だよって言う天使と、欲望のまま行っちゃえよって言う悪魔の囁きが脳内で格闘してる。頑張れ天使、……いやおかしい、これどっちも行ってる。え? ダメだこれ頭回ってない。
「段々揺らいで来た? あったかァいハグしてやんよー?」
「んんっ、ゆーわく、やだもう、」
見てるからいけないんだ、視線を外して畳に転がったら選択ミスをしたみたいで起き上がれなくなって脳の機能が低下しようとしている。けど、痛い、頬も跡付きそう。
「痛くね? こっち来たら?」
「、んかない。」
「おーいーで。ほら早くっ、おいで」
「んーん!」
「ほらっ、おいでおいでおいでっ、」
「…んふふっ、」
目を開けて髪の毛の隙間から見える銀さんは笑ってる、手の平を上に向けて上下に揺らしながら聞こえる、おいで連発。
これは、誘惑なのかな。違う気がしてきた。
「さぁ、おいで。」
「なんのお誘い?」
「お昼寝のお誘い」
「ほんとにー?」
「違うお誘いがイイならしてやろうか?」
「いらない」
「じゃ、ほらおいで。」
再び両腕を伸ばして優しく笑ってる銀さんの元に、何とか腕に力を入れて身体を起こし、床に手を付きながら近付いて布団の前で止まる。
「ほーら、あと少しだよー」
「ゆうわくがぁ……っ」
「はい、捕まえたー」
膝を布団に乗せ広げる腕に両手を伸ばすと、掴まれた片手が引かれ胸元に倒れ首の裏と背中に腕が回って捕まった。
膝を立てた銀さんの脚の間にすっぽり入って温もりに包まれる、背中に両手を回し密着し耳をピッタリくっ付けるとトクントクンと聴こえる心音が子守唄のように心地好くて力が抜けていく。
「……ん、す……、いね、」
「んー? もう寝な?」
すごい、あったかいねって、言いたかったけど、もうだめだ。
頭に置かれた手の平に優しく撫でられて、全身ふわふわした物に包まれてるみたいになる。銀さんの腕の中、この空間は何だろう、幸せが波のように押し寄せてきて飲みまれた、もう動けない、思考停止寸前だけど言えるかな。
「……ぎ、さ、」
「おやすみ」
言えなかった。
こんな誘惑に、最初から勝てるわけ無かったんだ。
おやすみなさい。
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