トリップ 番外編A | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 【眩暈】



冷蔵庫から取り出したイチゴ牛乳を飲みながら皿を並べる姿を眺めてると、その身体が微かに揺れた気がした。


「お前今揺れた?」


俺の言葉に顔をこっちに向け目を合わせながら無言で首を横に振ってくる、そしてまた皿を並べ始めた。
いや揺れたろ、俺見てたし。微かだが絶対ェ揺れたろ。

「具合悪ィのか?」

「悪くないよ」

「けど揺れてたろ」


何でこれには首振るだけで返事しねぇの?
しかも皿並べ終わってもテーブルの前から動かない、これからその皿に盛り付けるんだろ? なら歩いて鍋取りに行かねぇと、何で行かねぇ?


「何してんの」

「まだ飲んでるの? ご飯もう少しかかるからTV見て待ってて?」

「……テーブルから手ェ離せ。」


俺を見上げパッと両手を上げたその肩に触れた瞬間、またテーブルの縁を掴んだ。

「離せって。何で掴んでんだよ」

「どうして触るの」

「先に聞いてんの俺」

「銀さん怒ってる、あっちで待っててよ。」

「怒らせてんのはお前だろ。」


何なんだこいつ、ふらついたのは明白だろ。
何で言わねんだよ、しかも隠しやがる。
心配させねぇようにってか? ふざけやがって、今俺が気付いたのは偶然だぞ。 何となく見てただけだし、さっきまで居間に居たのに気が付かなかった。普通に笑ってたんだ。


「……何で、言わねぇの。お前は何回言や分かんだよ、あんまふざけた事してっと、しまいにゃ無理矢理分からせんぞ。」

「こわ」

「あぁ? 」

「心配させないようにとは思ってないからね。」

「……は?」


頭で考えた内容を否定され間抜けな声が漏れた。
心配させないようにじゃ無ェって? なら何だってんだ。


「さっきまで立ち眩みするかな程度だったの、今ちょっと眩暈するけど多分ただの貧血。具合悪い訳でも無いし言う程困ってもいない。何か揺れるだけ。」

「……何か揺れるって……普通は揺れねぇよ。」

「うん」

「うん、じゃねーっての。言えよ、困ってなくても言え。眩暈すんのに飯作る必要も無ェし、悪化して倒れたらどうすんだよ。」

「倒れるまで我慢しないよ、心配かけたくないですから。」

「バカか、揺れただけで心配すんだっつーの。」

「目ざとくて困る」

「おいやっぱり隠そうとしてんじゃねぇか。」

「……」

「何で隠そうとした?」

「……困ってないってば」

「んな事聞いてねぇだろ。何で、隠そうとしたかって聞いてんの。」

「…………銀さんだって、隠すくせに……、」

「あ? 何か言ったか。」

「理不尽!」


ムッと唇と尖らせながら顔を背け鍋の方に向かおうとする。
休めと言った俺の言葉は無視かこいつ。


「休めっての。……は? 今揺れたろ、さっきより傾いたぞ。」

「……、ハンバーグ、作ったよ。見て、美味しそう?」

「あぁすげェ旨そう、良い匂いするし。なァ、まさか今ので誤魔化せると思って無ぇよな?」

「ちっ」

「てめぇ今、ちって言いやがったな?」

「うっ! 乱暴!! 暴力反対っ!」


顎を掴んで無理矢理顔を向き合わせれば俺の手を剥がそうと抵抗してくる。
そのまま軽く揺らせば途端に力が抜けて膝が曲がる、けど座らせねぇで腰に腕を回し固定した状態で背中を反らせるようにゆっくり力を入れて顎を押して行く。


「っ、……っ」

「平衡感覚ぶっ壊してやろうか。」

「……っ、い、じわるっ! 意地悪い……!」

身体ごと揺らしぐったり力の抜けた身体をゆっくり床に寝かせ、深く呼吸を繰り返す顔の横に手を付いて真上から見下ろす。


「……、気持ち悪くなってきたんですけど……」

「そうさせたんだっての。」

「いや酷すぎる。」

「お前が大人しくしねぇから。自業自得だろ。」

「しかも人のせいにまでしてくる、横暴だ。」

「これに懲りたらバカな考えすんじゃねぇぞ。」

「銀さんだってするじゃんか。」

「はい、もういっちょー。」

「うわ!? っむり、むり! 吐くからっ!も、気持ち悪いから……っ!」


腰だけ支えて持ち上げれば焦ったように首に抱き付いて来た、普段なら抱き締め返すんだけどな。悪いけどここは甘やかさねぇぞ、また同じ事繰り返されても困る。


「こんな時だけ甘えて来たって許さねぇぞ。お前は身体に教え込まねぇと分かんねぇんだろ。」

「うっ、揺らさないで……、……っ銀さん、っ、」

「だから聞かねぇつの。わざとなの分かって、」

「銀さんっ、」

「……」


いやふざけんな。掻き抱くようにしっかり腕回して来んだけど、後頭部の髪軽く掴んですがり付いて来てんもわざとだろ、騙させるな、

「……めまいする。」

「…………寝てろ。」

「うん。」

抱き上げて寝室に向かう俺を誰か何とかしてくれ。

運ぶ途中に「ごめんね」と謝られてまた遠慮かと少し苛つきながら謝ってんじゃねぇって返そうと思ったのに、神楽達にどうしたのかと聞かれたこいつが俺のせいで気持ち悪くなったと口にした瞬間、謝罪の意味を理解した。

布団に寝かせたら、笑ってありがとうと言われたまでは良かったが、頑張ってと添えられた応援に俺も眩暈がして来る。




prev / next

[ 戻る ]