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▼ 温かい世界



朝、鏡を見て絶句した。

なに、これ。首の痣。痣? 鬱血したみたいになってる、しかも結構広範囲に。
真ん中の線は刀に触れた物だろうけど周りの痣なにこれ。
銀さんが言ってたやつ?でもこれ、舐めただけでこんな痣なる?

昨日お風呂に入るときはテープしたままだった。
上がってからも銀さんが貼り直してくれたから私は見てない。


洗面所から出ると丁度銀さんが起きてきた。

「おはよう銀さん。」

「お―、テープ取ったの? 」

「剥がれかかってたからね。見てこれ、痣凄いよね、何でだろう」

「何でって、付けたっつったろ。」

「言ってたけど、でも舐めただけでこんな痣なる? 」

「なんね―よ。付けたんだって、俺が吸って付けたの。」


すって? 吸って……いつの間にそんな事されてたの……


「やっぱ気付いてなかったんだ。まァ傷口痛んでて紛れたんだろうな」

「……テープ貼ってくる。」

「貼ってやるから待ってろ」

そう言って洗面所に入って行った銀さん。


傷口痛んでって、痛ましたの銀さんだよね。
塞がってた傷口開いたし、わざとやったでしょあれは。
心配故のって言い聞かせてるけど……解せない。



朝食を作ってる途中で銀さんが救急箱を持ってきてくれたから作業を止めてテープを貼って貰う。


「ありがとう」

「ん、痛くはねぇ?」

「うん、大丈夫。痣凄くて驚いたけどね。」

「頑張った」

「え? 痣付けるのを?」


信じられない、びっくりして銀さんを見るとニヤニヤしながら見下ろされた。


「暫く消えねぇかもな」


それは困る。こんな目立つ所。






「今日から俺が送り迎えするから」

そろそろ山崎さん来るかな、と玄関に向かうと突然銀さんがそう言い出した。

「え? 今から山崎さん来るよ?」

「さっき電話で断ったから来ねーよ。」

「え!? 何で!?」

「何でだと思う?」


質問を質問で返された。
断ったの?え、何で? だって自分が1人で行くなって行ったんじゃん。いや銀さんが代わりにしてくれるのか。……何で? 山崎さん良い人だよ? これは自信ある。絶対良い人、だって道教えてくれる。嫌な顔も嫌味も言わないで教えてくれた。絶対良い人。
……なら何で?


「はい、時間切れ―」

そう言いながら玄関に向かって行った銀さん。
答えは教えてくれないんだ。


外に出ると、徒歩かと思いきやバイク的な物を銀さんは持ってきた。


「何これバイク? どっから持ってきたの?」

「スクーター。メット被って。」

「これで行くの?」

「そう。」


え、乗るの? 乗って良いの私。
スクーターに跨がった銀さんの後ろに、お邪魔しますと言って跨がった。


「ちゃんと捕まってろよ―」

「抱き付いて大丈夫?」

「……うん」

「間があったよね? 腰掴む感じにすれば良い?」


バイクとか乗った事無いから良く分からない。

肩越しに後ろを振り向いてきた銀さんは私の顔を見てため息を吐き、また前を向いた。


どうして……なら何処捕まれば良いの。

困り果てていると後ろに手を伸ばしてきた銀さんに腕を掴まれて前に持ってかれた。
しっかりお腹に回られて結局抱き付く格好になる。


「銀さん背中おっきいよね。」

緩いと運転しにくいと思って、がっちり抱き付いて感想を述べた。
そう言えば背中に抱き付いたの初めてだ。
正面からとか後ろから抱き付かれる事はあるけど、私から抱き付く事は殆ど無いし。だからこんな風に抱き付くの初めて。

メットしてなかったらもっと温かそうだな―と思っていると全然発進しないことに気付いた。

何で出発してくれないの?

見上げると銀さんは下を向いて動かないでいる。

腕を緩めて前を覗き込むと目を瞑っていた。


「銀さん? どうしたの?」

「……何でもねーよ。……掴まれ、出んぞ」

言われてまた腕に力を入れて抱き付いた。








「楽しかった―!! ありがとう銀さん!」

スクーターの乗り心地は最高に良かった。
思ったより振動無いし、風が気持ちいいし。
何よりも、


「私銀さんの背中凄く好き。温かいし、抜群のフィット感。今度メット無しで抱き付いて良い?」


メット返しながら言うと受け取った瞬間空いてる手で前髪を上げられおでこを噛み付かれた。


「いっ、た!はぁ!? え? 何で?何で噛んだの?」


え、意味分かんないけど。何でいきなりおでこ噛んでくるの。


銀さんは私の言葉には何も答えずじっと見てくる


「……怒ったの? 」

もう意味が分からない。


「……嫌なら嫌って口でそう言ってよ。そんな行動じゃ意味がっ!? 、え!?」



えぇ!? なに!? 何で抱き付いてくるの!?
しかも思いっきり腕に力入れてるよね何で!?


本当に意味分かんない。

……違う、スクーター乗る前から様子おかしかった。
直ぐ発進しないで下向いて目瞑ってたじゃん。


「銀さん? 具合悪いの?」

運転するのしんどかったから?
何でもっと早く気付かなかったんだろう。

銀さんの背中に腕を回し支えるように抱き締めた。


「門の前でイチャつかねぇで貰えやす?」

「あっ沖田くん! 銀さんが具合、「帰るわ。」え!? 」


銀さんは急に私から離れてスクーターに向かった。


「待って待って! 運転するの!? 危ないよ、休んだ方が良いよ! それ置いてパトカーとかで送って貰った方が、」

「大丈夫だ。俺はまだ大丈夫、だからお前は今まで通りで居ろ。」

「え?」

「んじゃ、帰り迎えくっから。頑張れよ。」


そう言って軽く頭を撫でて銀さんは去って行った。



「スゲー意味深なセリフ。」

「え、どうゆう意味? まだって、これから倒れるみたいじゃん。」


どうしよう。どうすればいいの? 今から追い掛けてもスクーターには追い付けない。
事故ったりしたらどうしよう。
家に着けば新八くん達が居るけど、着かなかったら?


「大丈夫でさァ。旦那はそんなにヤワじゃねぇし、具合悪そうでも無かったですぜ? 心配なら後で電話でもしてみなせェ。そんな泣きそうな顔してたら逆に良くねぇ事起こっちまいやすよ。」

「そ、だね。うん、ごめんね沖田くん。ありがとう。」






仕事の合間に万事屋に電話したら新八くんが出てくれた。銀さんの様子を聞くと至って普通にソファーに転がりながらジャンプを読んでると言われて一先ず安心。

ちゃんと帰れたんだ。良かった。
具合良くなったのかな。

洗濯物を畳みながら考えていると沖田くんが隣に座った。

「電話したんで?」

「あ、うん!ちゃんと帰れてたよ! ジャンプ読んでるって、ありがとうね沖田くん。少しパニックになっちゃって。」

「アンタ普段気ィ強ェのに時々脆そうにしてるの何でですかィ?」

「え? 脆そう?」


脆そうなんて言われたことないけどな。
しっかりしてるって言われるんだよ本当に。こっちじゃ全然信じて貰えないし凄い心配されるけど。


「……調べたって言いやしたよね? 何も、出て来なかったんでさァ。アンタの情報何一つ。でもあの泣き顔見たら疑うべき対象じゃねぇと思った。だから上にそう伝えた。」

「そ、っか。」

「名前さん。アンタ何処から来たんで?」



何処から来た。
私はこの世界の人間じゃない。
存在してはならない人間だ。
情報なんて出るわけがない。


「勘違いしねぇで下せェよ。尋問でも何でもねぇんで、言えねぇならそれで良いんでさァ。ただアンタの事が気になったってだけですぜ。」


隣に居る沖田くんに顔を向けると、頭の後ろで腕を組み壁に背中を付けて真っ直ぐ前を見たまま言っていた。


沖田くんも私を心配してくれてる。
襲われそうになったときに駆け付けてくれたのは沖田くんで、私を見るなり目を見開いて普段落ち着いてる彼が慌てたように走って側に来てくれた。
この3日間もサボる口実とか良いながらもきっと心配も入ってるんだろうな。何かと近くに居てくれる。


「ありがとう沖田くん。私沖田くんに沢山助けて貰ってる。何もしてあげられてないのに。」

「そう思ってるのはアンタだけでさァ。俺はして貰ってる。」

「え? 何かした?」

「しやした。」


何したの? 何もしてないよね。

記憶を遡って考えていると両手で両頬を覆われゆっくりと顔が向き合うように動かされた。


「頼って下せェ、俺を。旦那の愚痴でも何でも良い、頼りなせェ。」


顔を固定されたまま真剣な顔でそう言ってきた。
この世界の人って過保護なの?
心配性だし、しかも最終的には甘い。


「分かった。じゃあ沖田くんも私に頼って? 愚痴でも何でも。土方さん暗殺計画以外なら私に出来る事何でもするよ。」


笑って言うと沖田くんも大きな目を少し細めながら笑って手を離した。
最近見るこの笑顔は年相応な感じがする。
しっかりしててたまに忘れるけど私より年下の男の子なんだよね。


「さっきの質問なんだけど、もう少し後ででも良いかな? ちゃんと説明したいから。」

「良いですぜィ。名前さんの好きな時に言って下せェ。」

「うん、ありがとう。」







今日は昨日の分まで働こうとひたすら動きまくっていた。
時折沖田くんが来て話をし土方さんが怒鳴りながら現れる。の繰り返しでもあった。でもこれがいつもの真選組なんだと思う。
そして銀さんの何で自分が送り迎えをするのかと言う質問の答えが分かった。
今日から山崎さんが居ないらしい。張り込みのお仕事で暫く帰って来ないって沖田くんが言ってた。


昨日拭けなかったであろう廊下を端から拭きまくったら流石に疲れた。

後は夕食を作って帰るだけ。


「名前ちゃん物置からお野菜取ってきてくれる?」

「はーい!」



お野菜お野菜
最初の頃教えて貰ったから物置の場所はバッチリ。
でもここ暗いんだよね、電気つくけどそれでも薄暗い。

人参と、続けてじゃがいもに手を伸ばした時、一瞬で闇に包まれた。
じゃがいも所か自分の手も見えない。野菜を保管する為窓はない、完全に真っ暗だ。


停電、かな。心臓がバクバク鳴ってるのが分かる。
取り敢えず外に出たい。まだ外は明るいし
そっと扉があるであろう方向を向いても、何も見えない。
真っ直ぐではない。結構入り込んでるから気を付けないと物落としちゃうかも。
でも、ゆっくり行けば大丈夫だよね、頑張れ、立ち上がれ。
泣いてる場合じゃない、なんか勝手に涙出てくるけど、ただ暗いだけだから。大丈夫大丈夫。
この前みたいに銀さんが後ろに居ると思えばいい。お腹に銀さんの手があると思えばいい。

だから大丈夫と言い聞かせているのに一向に足は立ってくれない。


…………今、物音した?……だれか、居るの? 人?人だよね?虫も嫌だ、人が良い。

カタカタ震える手をぎゅっと握って落ち着かせようとしていると、


「名前さん? 居るんですかィ?」


沖田、くん? なんで?何で沖田くんが?


「名前さん、居るなら返事して下せェ。」


「……あ、」


まともに声が出せなかった。

声のした方に顔を向けると床に小さな光が動いているのが見えた。
その光を目で追うと、どんどん自分に近付いてきてる。
座り込んでいる私の足元まできた光はそのまま身体を上り胸元まできた。


「名前さん。」


はっとして顔を上げると直ぐ傍に沖田くんが立っていた。

見える、沖田くんだ。
良く見ると手に持っているのは懐中電灯、私に向かってきた光はこれだったんだ。



「おき、」

「ちゃんと声出しなせェよ。こんな所で一人で泣いてたって誰も来ちゃくれねぇですぜ。怪我は?」

「な、ない。あ、ご、ごめんね、沖田くん。」

目の前でしゃがみこんで頬に触れた沖田くんに安心して益々涙が流れてきた。
良い大人が。未成年の男の子の前で。
でもまだ呼吸すらしにくくて涙を拭きながら隠すしか出来なかった。


「擦ったら駄目でさァ。アンタこれ持ってなせェ。」

懐中電灯を渡されて両手で握ると顔に布が当てられた。
スカーフ?


「い、いいよ沖田くん。汚れちゃう。」

「いいから黙ってなせェよ。置いて行きやすよ」


そんな酷い。でもきっと本気で置いて行ったりはしない。


「何で、ここに?」

「ブレーカー落ちたんで見に来てみれば食堂に居ねぇし、ここだって聞いて来やした。」

「探しに来てくれたんだ。ありがとう沖田くん。……私年上なのにみっともない、沖田くんの方がよっぽどしっかりしてる。」

「 良いんでさァこれで。お互い頼り合う仲じゃねぇですかィ。今度土方さん足止めしてて下せェよ、バズーカ構えとくんで。」

「いやそれは出来ないよ、暗殺計画以外って言ったでしょ。」


ちぇ−と良いながらも笑って頬にスカーフを当ててくれた。

「行きやすか。野菜もう入れたんで?」

「じゃがいもがまだなの」

「じゃがいもね、」

沖田くんがじゃがいもに手を伸ばすと視界にさっきと同じような光が動いてるのが見えた。
懐中電灯を向けると、そこには土方さんが立っていた。


「やっぱりここに居たのか。 あ? 総悟も居んのか?」

「俺が居ちゃ悪ィんですかィ。土方さんこそ何しに来たんでィ」

「暗ぇし道に迷ってんじゃねぇかと思って。悪いな、もっと早くに探せば良かった。」

そう言いながら私の目の下を人差し指で撫でた土方さん。

探しに来てくれたの?
あんなに仕事に追われてるのにわざわざ?


「セクハラやめて下せェよ。これだからムッツリは。」

「はぁ? だれがムッツリだ!! セクハラなんざしてねぇだろが!」

「行きやしょう名前さん。後で被害届け書きやしょうね。」

「だからしてねぇだろ!!!!」


カゴを持ち、空いた手で私の手を取り沖田くんは立ち上がった。
慌てて土方さんの腕に自分の腕を引っかけてそのまま懐中電灯を前に向ける。


「ぅお、」

「何で連れてくるんでィ。置いてきて下せェよ。」

「そんな訳には行かないよ。だって私を探しに来てくれたんだよ、わざわざ仕事の手を止めて。真選組が評判悪いの信じられないよね、2人ともこんなに優しい。」



「名前ちゃぁぁぁぁん!! 大丈夫か!? 怪我はない?」

物置を出ると前から近藤さんが走ってきた。

この世界は物騒な所もあるけれど、なんて温かい世界なんだろう


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