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「あれー、パー子ちゃんじゃない。」

店内が閉店に近付いた頃、私と神楽ちゃんの元にやって来たのはパー子ちゃんではなく銀さんだった。

「当たりめーだろ、普通に着替えるわ。ホラ帰んぞ。」

私の膝の上でとっくに眠ってしまっている神楽ちゃんを銀さんは背負い万事屋に向かう
新八くんも仕事終わって真っ直ぐ帰ったらしい


「楽しかった−、パー子ちゃん可愛いかったね!また会いたいな、会えるかな?」

「……西郷が、お前の事えらく気に入ってたぞ。また来いっつってた。」

「えっ嬉しい!それは勿論パー子ちゃんと一緒にって事だよね?」

「お前はどうゆう立ち位置でパー子好きなの? 男目線? 女目線?」

「目線? 女目線かな? 可愛い−友達になりたいって思った。」

「女目線であんなキレんの? 軽く惚れそうになるくらい男前だったけど。」

「パー子ちゃんに惚れて貰えるなら大歓迎。」

「いやだから立ち位置おかしいだろ。」


だって可愛いかったもん


「取り敢えずお疲れ様、ゆっくり休んでね。」

「おー、明日、つかもう今日だけど。夜から仕事入ってよ、しかも泊まりなんだわ。ちょっと面倒なやつだから悪ィんだけど待っててくんね?」

「そうなんだ、分かった。」

「神楽連れてくから、お前1人になるけど平気か?」

「大丈夫だよ、気を付けて行ってきてね。ご飯作って待ってるから」

「わりーな、次の日には帰るから。」


前に教えて貰った、神楽ちゃん夜兎族って言う天人だって
人間にしか見えないけど、物凄く力強くて最初驚いた。
銀さんはよく面倒事に巻き込まれるってお登勢さんも言ってたし、多分危ないお仕事なんだろうな
あまりそういった話を私にはしてこない
だから私も敢えて銀さんに聞いたことはない。
無事に帰ってきてくれればそれで良いと思うから







「んじゃ、行ってくるわ。」

「直ぐに片付けて帰ってくるアルよ−!」

「名前さんもお仕事頑張って下さいね。」

「うん、ありがとう!皆気を付けてね! 」

仕事に出掛ける3人の背中が見えなくなるまで見送った

どうか、無事に帰ってきますように


見送った後、そのままお登勢さんの所に手伝いに行く。
いつも通り日付が変わった頃、そろそろ上がんなと言われ万事屋に戻った。

お店から万事屋までの距離なんて、ただ階段を上るだけ。なのにいつも銀さんは迎えに来てくれる

元々独り暮らしだったし、飲みに行く事だってあった。帰りが遅くなっても迎えに来てくれる人所か心配してくれる人すら待っていない。でもそれが日常だった筈。


万事屋の玄関を開けると迎えてくれたのは暗闇。
定春が奥で眠っているだろうけども、人が居ないだけでこんな冷たい空間になるっけ
身体まで冷たくなってきたような感覚さえ出てきた

明日には帰ってくる。
分かってはいるのに、入れない。
足が全然動かない、この暗闇に入って行く事を身体が拒絶している

……ここまで重症だとは思わなかった
元の世界に帰らなきゃとか帰れなくてもとか、頭で考えてるより身体が拒絶している。
もう私は1人で生きていけないんじゃないだろうか。皆の居ない世界で前みたいに生活が出来るんだろうか。例え元の世界に戻っても、時が解決してくれると思ってたけど、果たしてそれまで耐えられるのか。


開けた玄関をそのまま閉じ、私は階段を下りた。


「どうされましたか名前様。」

お店に戻るとタマさんが接客をしていた

「今日銀さん達居ないし、朝まで働こうと思いまして! あっ、お給料とか要らないんで雑用にでも使って下さい!」

カウンターにいたお登勢さんにも聞こえる用に言った。
お登勢さんはじっと私を見た後、「好きにしな」と言ってくれて、何だか見透かされてる気もするけど有り難いのでお礼を言って働いた。


ひたすら動いていたらいつの間にか朝になっていた。
そろそろお店を閉めると言うので片付けまで手伝って万事屋に帰宅すると、朝日のお陰か冷たかった空間は幾分マシになっている

眠たさなんて全く感じられない
このまま家事やって待とうと思い掃除を始めた

お昼頃には帰ってくると言ったいたからそれまでに出来上がるようにご飯を作り始めよう

少し早めに出来てしまったけど、丁度作り終わった頃玄関の開く音が聞こえた

はっとして玄関に走ると、そこには銀さんが立っていた


「おー、良い匂いすんな。」

「お、帰りなさい銀さん。お仕事お疲れ様! 」

「たでーま、神楽達も直ぐ帰ってくっから。お前1人で大丈夫だったか? 夜1人で帰って来たんだろ?」

「大丈夫に決まってるじゃん。直ぐ上なんだから。


「1人で寝れたー? 銀さん居ないと寝れない身体になっちゃったんじゃねー?」

「馬鹿じゃないの?」


軽くからかいながら言ってくる銀さんに言葉を返しながら台所に戻った
銀さんが洗面所に向かった事を確認してしゃがみこむ

駄目だ泣きそう。何これ、こんな弱かったの私。

無事に帰ったきたのと、いつものやり取りに安心感がどっと押し寄せて来て、声が震える前に台所に逃げ込んだ。

気付かれたくない、絶対に。
あの人達は優しいから直ぐ心配する。
1人で留守番も出来ないなんて、自分でも驚きだ
情けなさ過ぎる

続いて帰って来た2人にも笑顔で出迎えて
一緒にお昼ご飯を食べた。







「買い物行ってくるね−」

「気−付けろよ。」

一緒に行くと言ってくれたけど、休んでてと告げて1人で買い物に出た


休んでて欲しいのも本当だけど、1人になりたくて。

買い物前に公園に寄りベンチに腰かけた


ため息が出る。私自分の事ばっかりだな。
皆が帰って来てくれて無事で良かったって思った。
でも帰って来る前まで私は無心で動いていた。
自分の事しか考えてなかった。なのに、3人は私の事ばかり。1人で大丈夫だったか、掃除してくれてありがとう、ご飯美味しいって。


何であの人達はあんなに優しいの
私はあんなに優しくなれない、自分の事ばっかり。
しかもこうやってグダグダ考えちゃう自分にも嫌気がさす。
1人に不安を感じた癖に今度は1人になりたがる。
本当自分が面倒くさい。こうやって考えちゃうから1人が楽だと思ったんだっけ。


寝てないせいかいつも以上にグダグダ考えちゃう
駄目だ、このままじゃ帰れない。上手く笑えない。
少し寝ても良いかな。








名前が買い物に出た後、依頼の報酬を持って下に降りた

あいつ毎月家賃半分払ってくれてんだよな
いいっつっても聞かねぇし

ババァに家賃を渡すとスゲー驚いた顔をされた

「珍しい事もあるもんだね、名前は? ちゃんと寝たのかいあの子。」

「名前? あいつなら今買い物行ってる」

「あの子朝までここで働いたんだよ、今日はゆっくりさせてやんなよ。」

「朝まで!? 」

朝までって、ギリギリ午前中に帰って来た時には部屋の掃除は終わってたぞ?ご飯までしっかり作って待っていてくれた。
朝帰って来て俺が帰るまで数時間しかねーけど、

「あいつ、いつ寝たの?」

「寝てないんじゃないかい、」

「つーか何で朝まで働いたんだよ! 」

「怒鳴るんじゃないよ煩いね。いつもの時間に一度帰ったんだけどね、直ぐまた戻ってきて朝まで働きたいって言うもんだから働かせたのさ。」

「何でだよ! 帰らせろよ!」

「あんな寂しそうな顔してる子を1人の家に帰せって? 随分酷い男だねぇ。」


その言葉を聞いて俺の思考は一瞬止まった

寂しそう?
急に1人になったら寂しいだろうとは思った。だから新八達を置いて俺だけ先に帰ってきたんだ。
だけど当人は最初こそ安心したような顔をしたけど至って普通に俺ともアイツらとも会話していた。
だから元々独り暮らしっつってたし1人で留守番するくらい大したこと無いのかって思った。

寝れないくらい寂しかったのか?
なら何で今1人で買い物に出た、俺達に気を使ったのか?それとも何か別の事考えてんのか?

くっそ、何なんだよあいつは
何で言わねぇんだよ!


乱暴に扉を開け走った

辺りを見渡しながら走っていると公園のベンチに座っている名前を見付けた。
顔を横に傾かせて目を瞑っている

つか寝てんじゃねーかよ。何でこんな所で、外だぞここ。

起こそうと近付いて気付いた、涙の跡がある。

……泣いたのか。

どうしようも無く腹が立つ。1人で留守番くらい大したこと無いんじゃねぇかと軽く考えた自分にも、寝てねぇくせに全てを隠し自分の中で抱え込むコイツにも。


こいつを挟むようにベンチの背もたれに両手を付いて、目尻に残ってる涙の跡を軽く舐めるとゆっくり瞼が上がった

1度瞬きをした後、顔の直ぐ横に居る俺にようやく気付いたのか半分しか開いて無かった目が大きく見開かれた


「っ銀さん!? びっ、くりしたっ、てか近いっ!」

「お前ここで何してんの?」

「いや、待って、近いからっ! 」

近い近いと俺の肩を押して顔を後ろに引くこいつは、照れじゃねぇな、寝起きでいつも以上に動揺が分かりやすいだけか。


まぁ、それよりもだ、

「ここで何してんのって聞いてんだけど。」

会話になんねぇから腰を屈めて正面から見る体勢に変えてやる。手は背もたれから離さねぇけど。でも前髪同士が少し触れる程度までは離れてやった。


「いや、近っ、あんまり変わってないよ、こんな近付く必要ある?」

「質問してんの俺。3回も言わせる気?」

声が低くなったのが分かったのか声を詰まらせて黙った


「……っ、ちょっと寝てた、みたい。」

「なんで」

「……眠くなって。」

「なら故意的に寝てたんだ? 公園のベンチで。なに考えてんの、お前。」

「っそ、そんな爆睡してた訳じゃないから、」

「俺が何したか知ってんの?」

「え?」

「舐めったの、ここ。」

そう言ってこいつの目尻を親指で撫でる

「え!? な、舐めった?」

「そう、気付かなかったろ。で? 何でこんな所で寝てんの?」


「……あ、ごめん、なさい。」


良く見ると目を伏せているこいつには微かに隈が出来ている

はあ、とため息を吐きながら詰めていた距離を離れ隣に腰掛けた


「寝てないんだって? なのに何で買い物来たワケ?しかも1人で。」

「……皆に休んでほしくて。」

「別に疲れてねぇよ。なァ、何で言わねぇの?寂しかったって。」

「……」

「なのに何で1人で買い物に出た?」


続けて質問する俺にこいつは下を向いたまま何も答えない。



駄目だな。
さっきまでの動揺は消えてる。今、どうやって俺から切り抜けられるか考えてやがる。そんなに言いたくねぇ事なのか?

じっと横顔を観察しているとカナはゆっくり顔を上げこっちを向いた。


「うん、寂しかった。昨日の夜は本当に眠くなかったの、でも今更眠くなっちゃって、公園で寝るのは軽率だったと思う、もうしない。1人で買い物来たのは皆に休んで欲しいって思ったからだけど、でも今までだって私1人で買い物したことあるよね?」


至って普通に淡々と述べるこいつに今喋らせるのは無理だと悟った。

黙った俺に、買い物行ってくるね と言葉を残しベンチから歩いて行く背中を見つめた








神楽ちゃんが寝た後、私は立ち上がり お登勢さんの所に行ってくる と銀さんに伝え玄関に向かった

「バイトは今日来なくて良いっつってたけど?」

「うん、少し話したい事あるだけだから、銀さん先寝てて? 行ってきま−す。」

返事は聞かず玄関を閉めた


不自然だったかな……
でも銀さん絶対聞いてくるもん。昼間のあれじゃ全然納得してないと思う、一旦諦めたって感じだったから。

お登勢さんに迷惑は掛けられないから銀さんが寝るまでコンビニで時間潰そうかな。

あの後無言でスーパーまでついてきて荷物を持ってくれた。万事屋に着いたらいつも通りで特に何かを聞いてくる素振りは無かった、けど絶対聞いてくる確信がある。
一緒にいてまだ日は浅いけど凄く心配してくれてるのが分かる。だから私の行動に違和感があったら聞いてくる。普通に振る舞ったつもりだったのに、お登勢さんに聞いたのかな……。

しかも、凄く怒ってたし……
え、何に怒ってるの? 寝てないせいで頭あんまり回らなくなってきてるんだよね。
ベンチで寝てたから怒ってたんだよね? 私も友達がベンチで寝てたら怒るわ、危ないって。そうゆう事だよね?
でもその後が分からない。何を聞きたいの?
寂しかったかどうかなら正直に言った。だって寂しかったし。
1人で買い物に出た理由が知りたいの?自分に嫌気がさしたからって?でも流石にそこまで気付いてないよね、1人で買い物は別に不自然じゃない。
重症過ぎるほど寂しかったのバレた?それも無いよね?
あれ?本当何が聞きたいんだろ。絶対納得してないもんあれば。
……これ全部言えって? 絶対嫌だ。
お願いだから諦めてくれないかな






…………


ちょっと待って

「どこ?」


どこ?ここどこ?コンビニは?
考えながら歩いてたから通り過ぎた??
見たこと無い所、ってか暗い……
建物あるけど、ホテル?

……落ち着け、大丈夫。
真っ直ぐ歩いて来たから、後ろに真っ直ぐ戻れば大丈夫。

そう思って振り返ったら数メートル先に明らかに建物がある。

……何で?これ真っ直ぐ歩いたら建物にぶつかるんだけど。
私真っ直ぐ歩いて来たんじゃないの?曲がった?勝手に曲がったの?

何も言わない足を見つめるも意味なんてない。



これは……不味いのかな。
……銀さんに見付かったら絶対怒る。だって直ぐ下のスナックにまで迎えに来てくれるんだよ?危ないとか言って、階段しかないのに。
公園で寝てた時より駄目なやつだよねこれは。
なら絶対怒る。
ヤバいヤバいヤバい。
いや、寝てるよね?起きる前に帰れれば大丈夫。
さぁ、人に聞こう。最終的に辿り着けばなんて言ってられない。

よし、ホテルの人に聞こうと足を動かした瞬間、いきなり後ろから口を塞がれ両腕を押さえ込むように腕が回ってきて動けなくなった


「っん! んんっ!」


ヤバいどうしよう、力めっちゃ強いし引きずるように路地裏に連れて行かれた

どうやったら逃げれるかな。

そう考えていると、私を拘束してる人が頭上で口を開いた




「なぁ、本当に何やってんの?」




………………

銀さんだ……


ヤバいどうしよう、
どうやったら逃げれるの?



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