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▼ 豆電つける派つけない派



後ろに居るのが銀さんだと分かり抵抗していた力を緩めた

でも口を塞いでる手も身体を拘束している腕も離してはくれない

さっきまでの多少街灯があった所から背を向けるようにして立たされていて、真後ろに銀さんが居るせいで影になり私からは背後からの微かな光しか目に入らない。

目の前は闇
一寸先に何があるのか分からない程真っ暗だ。

怖い
別に暗所恐怖症って訳でもないけど、真っ暗は流石に怖い。
夜寝るときも豆電球つけて寝るし。

暫くしてようやく手が離れ自由になった体で銀さんに振り向いた。


「っ、」

何も言えなかった
完全に目から怒りが読み取れるくらいに怒ってる。
それでも自分で怒りを抑え込もうとしているようにも思える。

どうしよう、何て言ったら良いのか分からない
そもそも声が出せない。

一歩も動く事すら出来なくて、でも銀さんから目を逸らす事も出来ない


ただ立ってるだけの私に銀さんが動いた。
何も言葉は出さず私の腕を痛いくらい掴み、暗闇の方へ向かって歩き出した。


「っ! えっ、待って、ど、何処行くのっ?」

「話、出来る所。」

やっと銀さんが口を開いた。
話ってこの先には闇しか見えないのに

「でも、こっちは、何も無いよ? は、話なら家で、」

「お前が出てったんだろ」


前を向いたままそう言った銀さんに一瞬息が止まった。

私の言葉に被せるよう発せられたその声に怒気が含まれていたから

黙った私を気にも止めず腕を引っ張って歩かされる。
一歩進む度に後ろからの光が届かなくなり目の前に居る銀さんですら闇に覆われてきている


「ま、待って、く、暗いし、違う場所に」

「顔見えねぇ方が話しやすいんじゃねぇの」

俺今笑えねぇから。

その言葉が聞こえた瞬間、腕を強く引かれ最初と同じ様に後ろから手で口を塞がれた。片腕をお腹に回されて、そのまま引きずられる様に歩いている途中、突然ガンッ!と、何かを蹴ったような音とドアが勢いよく開いたような音が隣から聞こえ身体が跳ね上がる。目だけ音のした方へ向けるも、そっちは一切光が無く完全なる闇。
なのに銀さんはその方向に無遠慮に歩き進んで行った。



「んんっ! 」

あまりの暗さに抵抗すると暫く歩いて口を覆ってた手が離された

既に目を開けてるのか閉じてるの分からないくらい真っ暗。
今はお腹に回された手のお陰で銀さんが後ろに居る事は分かるけど、その手は目には見えないし自分の手すら見えない。

怖い。こんな真っ暗な場所に取り残されたら私どうして良いか分からない。

立ったまま固まっているとお腹に回っていた腕が弱まってきた


「っ、待って! お、お願い、待って、離さないでっ」

離れそうになった腕を慌てて掴んだ
この腕を離されたら銀さんが居るのかも分からなくなる

こんな震えてる手で掴んでもきっと銀さんの力なら一瞬で振り払える

でもそんな不安は杞憂に終わり離れかけていた腕は再びお腹に回り、もう1つの腕も後ろから首に回され背中にしっかり体温が感じられるようになった。

それでも怖くて首に回った腕を自分の両手で掴んだ。
だけどそれも見えない

音すら何も聞こえない。
真っ暗で、この腕にすがり付くしか立っている事すら出来ない


「何でこんなとこ来た?」

静寂の中で銀さんの声が響いた


「……っ、こ、コンビニ、行こうと、思ってたけど、考え事、してて、気付いたらっ、ここに居た、」

声が震えて上手く出てこなかった
もう何も言い訳なんてする気も起きないし、出来ない。
それくらいこの暗闇は怖い。
それに銀さんの声がさっきより柔らかくなってる気がした


「家を出たのは俺と話したくなかったから?」

「……そ、う。」

「悪いけど、聞くから。 朝まで働いてたのは寂しかったからだろ? 何で言わねぇの?」

「っ、うん、ひ、1人で、家に帰ったら、く、暗くて、入れな、かった。 留守番、出来ると思ったけど
、出来なくて、情けなかった、から。」

「なら何で1人で買い物行った?」

「……、自分の事、ばっかりで私。皆私の事、心配してくれる、だけど私は、いつも自分の事ばっかり。嫌になって、1人になりたく、なって、でも1人で留守番、っ出来ないくらい、……っ、皆っ、優しくて、私、1人に戻れないかも、って、も、どうしたら良いのか、分かんなくって、」


話ながら泣いてた

1人じゃ何も出来ない情けなさ。
元の世界よりこっちの世界を大事に思っていることがはっきり分かった、薄情な自分にも嫌気がさす。


話しながら、だんだん意識が遠退いて何も考えられなくなった








目が覚めるといつも寝ている布団の中だった。
射し込んでいる光でもう夜じゃないことが分かる。
上半身だけ起こし隣の布団を見るもそこに銀さんは居ない。


夢……じゃないよね、昨日のあれは。
着てる服が夜と同じもの
私途中で寝た?銀さんが運んでくれたってこと?

話……終わってなかった、よね?
自分でも何言ってるか分からない事を言いながら意識遠退いた気がする。

どうなったんだろう、と考えていると寝室の襖が開いて銀さんが顔を出した。


「起きた?」

「……うん、起きた」


怒っては……いないっぽい。

銀さんは開けた襖を閉め、私の隣まで来て腰を下ろした


「気分は?」

「大丈夫。ごめんね、私途中で寝たよね?運んでくれたの?」

「あぁ。」


片膝を立てて座りその膝の上に腕を掛けて手で目を覆っている



「……あんな怯えさせるつもり無かったんだけどな、頭に血が上った。悪い。」

「……私が夜1人であんな所に行ったから怒ったんだよね?」

「……頼むから、気ィ付けてくれや。俺と話したくなかったのかもしんねーけど、だとしても、分かってても俺抑えきれね−から。」

「……うん、気を付ける。」

「…………怒ってる?」


良かった、いつもの銀さんだ。
何か弱々しいけど、でもいつもの銀さんだ。


「銀さんは?」

「は? あぁ、俺はもう、下がったから。」

「そっか、私は怒ってないよ。心配してくれたんでしょ?ごめんね、ありがとう。」

「え? マジで怒ってねーの?」

「うん、何で?」

「いや、だって泣いてたじゃん。」

「別に銀さんが怖かった訳じゃないよ、あんな暗闇に連れてくから、心弱った。」

「もう俺に触られるの嫌とか思ってねー?」

「どうしたの銀さん、今日弱々し過ぎじゃない?」

「これでもマジで反省してんの銀さんは。」

「無理矢理引っ張って暗闇連れて行った事を?」

「っ、やっぱ怒ってんの?」

「冗談だよ、怒ってないって。それより銀さんの話したかった事はあれで終わったの?私途中で寝ちゃったよね。」

「あー、うん。……なんつーか、オメー別に自分の事ばっかじゃねぇから。寧ろすげぇ考えてくれてんじゃん俺らの事。元の世界の事もあんま自分責めんなや。」

「……うん、ありがとう。」


銀さんはいつも温かい言葉をくれる
グダグダ考えるの悪い癖だな私。

もう怒ってないみたいだし良かったと思いながら布団を出る事にした

そろそろ起きよう、今何時だろう

「なァ、」

「何−?」

「触って良い?」

「は?」


何?突然何言い出すのこの人は。
今感動的な良い話してたよね?

「ダメ?」

「意味が分からない。触る?何で?? そもそも何処を?」

「んー、じゃあ仲直りしよーぜ。」

「じゃあの意味が分からない。」


何言ってるのかまるで分からない。
仲直りってこの前の一緒の布団に入る事言ってるの?
何でいきなりそんな話になるの
今までの真面目な会話は何処行ったの?


今何時だろう、話し声が聞こえないけど2人は居ないのかな

銀さんを無視して寝室を出るも2人とも見当たらない


「新八は買い物で、神楽は遊びに行ってる。」

後ろから来た銀さんが私の思考を読み取って2人の居場所を教えてくれた

「そっか、なら私は掃除でもしようかな。」

「もう終わってる」

「え?」

どうゆう事?

「今、4時25分」



……4時!? 夕方の!? 私そんなに寝てたの!?

「な、何で!? 起こしてよ!」

「徹夜して、過度な緊張状態、その上泣きもすりゃ体力消耗されんだろ。」

「そんな……だからって……」

とんでもない寝坊だ……




「な?だからまだ休んでろって。」

「っ!ちょっと!何するの!!」


リビングで絶望していると突然体が浮いた
疑問に思うまでもなく犯人は銀さんで、後ろから片腕をお腹に回されそのまま持ち上げられた


「寝ないから!離してってば!」

「昨日は離すなって言ってたのに?」

「反省してるって言ったのどの口!? 」


なんとか身体を捻って腕から逃れようとしても全く意味を成さず布団に戻され、いつもの如く正面から抱き付かれて拘束された

「ねぇ本当に寝ないから!私今起きたばっかりだよ!? 」

「俺ねみーもん」

「1人で寝て!!」

「頭撫でてやっから。」

「だから起きたばっかりだって言ってるでしょう!? 寝たくない! 1人で寝てよ!」

「寝たくないって寝そうなワケ?」

「寝そうで怖いから言ってんの! 」

絶対寝ないと思ってもあっさり寝ちゃってる前科あるから、駄目、絶対駄目だ


「静かにしろよー。寝れねぇだろ。」

「なら離してってば! 1人で寝てくれたら静かにするから!夜ご飯出来たら起こしてあげる!」

「ダメー。つーかあんま足動かさないでくんない?」

「だから離してよ!抵抗してんの!! 」

「んな刺激されっと起きるんだけど。」

「起きてよ!」

「え−? 名前ちゃん責任取ってくれんの?」

「は!? 何の ………………待って、何の話してるの」

「ナニの話?」

「……」

「あれ?寝たの? 名前ちゃーん?」

「かえりたい。」

「はい?」

「もう……やだ。かえりたい、うぅ、」

「え!? 何で泣いてんの!? ごめんね!?嘘だから!嘘! 冗談だからァ! だから泣かないで!? そんなガチ泣きしないで!?」

(ただいまヨ−)

「神楽帰って来たァァ!? ね、お願い泣き止んで!? 俺殺される!眼球潰される!!」

「銀ちゃん何騒いでるアルか。」

「ぎぃやァァァァ!違うから!! これは違うから!」

「うっ、うぅ、」

「何で更に泣いてんのォ!? 」

「次泣かせたら眼球潰す言ったアルよ。」

そして銀さんは吹っ飛んだ。


「あ、新八くんも帰って来た!ご飯作ろ−。神楽ちゃんにクッキー作ってあげるね!確か材料余ってたから。」


喜んで台所に向かった神楽ちゃんを追うように寝室を出る


襖を閉め切る前に振り返ると、顔を押さえて倒れながら指の隙間から辛うじて目を開けてこちらを見ている銀さんと目があった。
だから笑ってべーと軽く舌を出して閉めた。




だって力じゃ銀さんに敵わないんだもん。





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