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▼ 念願叶ったり



今日は銀さんも早起きだった
遠足楽しみにする子供みたいにワクワクして見える


「名前さん洋服で行くんですね」

「うん、洋服で良いよっておじさんに言われたからね。 エプロンあるんだって−。」


お店でおじさん達と合流し荷物を持って会場に着くと、まだ準備中なのに早々に見て回るらしい銀さん達。

頑張れよっと頭を撫でられたので笑って手を振って、私はおじさんの店舗を手作う。


「これ、エプロンね。知り合いから貰ったんだけど私じゃ着れないから。」

そう言って渡されたエプロンは、フリフリのレースの付いた膝上丈のエプロン。


え、これは私もキツいんじゃ……
でも他にエプロンは無いので着ると、おじさんから町内のイベントで貰ったんだけど使わないしあげるねって袋を渡された


これウイッグ??
袋には茶色いロングで緩くパーマのかかったウィッグが入っていた

付けてみたら?とおばさんに言われて付ける事にした

茶色に染めたこともあるけど最近は黒で落ち着いてたから今は真っ黒

茶色久々だな、と思いながら装着した。

「あら、似合うわね名前ちゃん!」

「本当ですか? ありがとうございますっ!」

髪型変わると気分も変わると言うけど本当だよね、何だか楽しい気分になる


「おじさんウイッグありがとうございます!」

「いいよ−使わないからね。 あ、始まったみたいだね、売り子お願いね。」

「はいっ!」









おじさんのお団子は好評で沢山のお客さんが来てくれた
時々エプロンのコンセプトが良いねと言う言葉も頂きながら、午前中も終わりに差し掛かった頃、銀さん達が店舗に戻ってきた


「名前アルか? 髪の毛が一気に伸びてるアル。」

「あっ神楽ちゃん! お帰り−、これウイッグだよ、おじさんに貰ったの!」

「お疲れ様です名前さん!一瞬誰かと思いましたよ、可愛いですね似合ってます。」

「ありがとう新八くん!」


2人と話をしていると後ろからお団子を食べながら歩いてくる銀さんが見えた

「銀さんお帰り、沢山食べれた?」

「おー、つか全然ちげーな、カツラ被っただけで別人じゃん。」

「髪型で人は変わるからねぇ。」


「名前ちゃん、迎え来たの? ウチもう閉めるから行っておいで、これ報酬ね。」

「あっ、ありがとうございます! 片付け私もやります! 」

銀さん達に少し待ってて貰い片付けに向かった
ついでにウイッグとエプロンを外す。エプロンもあげると言われたので使うか分からないけど貰っておいた。


「ごめんね、お待たせ−!」

「おう、お疲れ。エプロン外したのか、似合ってたのに」

「私にはフリフリ過ぎるでしょ。」

「いんや−? あーゆうのは、下穿かないってのが鉄則だけどな。」

「それただの変態だよね。」


何言いだすんだ、と思いながら見上げると上機嫌の銀さんが目に入った

そんなに楽しかったんだ。

向こうにあった団子が旨かった、と言いながら向かう銀さんに着いて行く


暫く銀さんのオススメ甘味を食べ歩くと、まだ行ってない一角が残っていると教えてくれた

「え?全部回ったんじゃないの?」

「名前と一緒に行こうと思って残しておいたアル!」

「そっかぁ、ありがとう! 」


嬉しい事を言ってくれる。神楽ちゃん達に連れられて来た店舗が数ヵ所並んだ場所は、他とは違う甘味達が並んであった

「変わったお饅頭だね? これ動物の形してる。」

「【なりきり饅頭】だと。」

「動物の形になってるから?」


「どうぞ、お召し上がりになってみて下さい。可愛いお嬢さんには此方がオススメですよ。」

そう言って売り子さんに渡されたお饅頭は猫の形をしていた

「可愛い!! 猫だ、耳付いてる!」


丸いお饅頭に耳が付いてる!
可愛い……!

「食べるの勿体無いね!」

「お前本当、獣耳好きな。持って会場出れねぇんだから食っちまえよ。」

「うん、勿体無いけど食べる−、頂きますっ」


一口食べてその美味しさにゆっくり咀嚼していると、段々身体が熱くなってきてるのが分かった。

呼吸も苦しくなり思わずしゃがみ込む


「名前!? どうした!?」

焦ったような銀さんの声が聞こえるけど返事をする余裕は無かった


ヤバっ何か吐きそう、

口に手を当てなんとか耐えていると一瞬煙みたいなものに包まれて、さっきまでの苦しさが嘘のように無くなった。


「あ、治った。 なんだろう、何か急に具合悪くなったけど治った。」

同じく隣にしゃがみ込んで背中に手を当ててくれている銀さんに言いながら顔を向けると、私をみて固まったまま動かなくなっていた


「ごめんね、びっくりするよね突然しゃがみ込んで。 もう大丈夫何ともないから!」

大丈夫と伝えるも銀さんはさっきと変わらないままの顔で全く動かない。


「銀さん? どうしたの?? 」

あまりにも動かないから逆にこっちが心配になって声を掛けると返ってきたのは銀さんではなく神楽ちゃんの声。





「名前に耳が生えたアル。」



え?耳?

どういう意味だと神楽ちゃんの方を見ると、頭に耳が生えている。と、

不思議に思いながら自分の頭を手で触って見ると、


何かある
え、なにこれ何かあるんだけど

ふわふわした何かが頭に乗ってる
しかも感覚がある
髪の毛……ではない

まるで動物の耳みたいな……




「えっ猫の耳?」

「そうです、これはなりきり饅頭。お饅頭にデザインされた動物の耳が食べた人に一時的に現れます。 」


独り言のように呟いた私の質問に売り子さんが答えてくれた。



え?猫の耳?本物?カチューシャ的なのじゃなくて?

未だ信じられなくて自分の頭に付いている物を触っていると、はっとした。

これ、キャサリンさんの猫耳と手触り一緒だ!!
若干硬さと大きさも違うけど同じ!
レプリカじゃない、本当の耳……!


なんてこと……こんな夢みたいなことって……


興奮し過ぎてわなわな震えながら銀さんを見ると、何を思ったのかいきなり私の持っていた袋の中からウイッグを出して被せてきた


「わっ何するの銀さん! 潰れちゃうよ!耳がっ!」

「うるせェェ!!!! 何目ェ輝かして自分耳触ってんだお前!! 焦れよ!! ここは羞恥で顔赤くする所だろうが!!」

「何で!? だって耳がっ!私の頭に猫耳付いてるんだよ!? しかも一時的……触り倒さなきゃ……思う存分触らなきゃ……!」


被せられたウイッグを取ろうと手を伸ばすと手首を掴んで邪魔してくる。

「離して銀さん! 時間無いんだから!!」

「黙ってろ耳好きがァァァ!!!! 新八!饅頭の話詳しく聞いとけ! 俺はコイツを家に連れて帰る!!」


そう怒鳴った銀さんは私を荷物みたいに肩に背負い光の速さで万事屋に連れて来られた。


玄関に着いてようやく降ろされた私は走って洗面所に向かい自分の頭を見る


あるっ!
ホントに耳付いてる……!

髪の毛と同じ黒で内側は白くなってる
少し小さいけど手触りは抜群、部屋着に付いてるモコモコも良いけど、やっぱり本物には敵わない

頑張ったら動かせるかなパタンと閉じるの私もやりたい。



どれくらい触っていたのか、触りに触りまくって一先ず満足した頃ようやく興奮状態から落ち着きを取り戻した。

あれ、そう言えば銀さんは?

銀さんの存在を思い出しリビングに向かうと、ソファーではなく壁に寄りかかり床に座って項垂れていた。


「銀さん? 大丈夫?」

「……何、満足したワケ?」

ゆっくり顔を上げてこっちをみた銀さんの顔にはかなりの疲労感。


「うん、一先ず。ごめんね、まだお団子食べてたのに。銀さん戻って? 私ここで耳触ってるから。」

「まだ触る気かよオメーは。」


そりゃね、消える寸前まで触ってたいもの

呆れたため息を聞きながら自分の頭の上の耳を触る

癖になる感触。


「……3時間で消えるんだと。さっき新八達が帰って来て言ってた。」

「そっかぁ、新八くん達戻ったの?」

「あぁ、神楽食い足りねぇっつってたし戻らせた。」

「銀さんも戻りなよ。食べ足りないでしょ?」

そう言うとまたため息を吐かれた


何で、

「私の事なら気にしないで、今幸せでお腹いっぱいだから。」

「……良かったな。俺も良いよ、もう食ったし。」

「そうなの? でも疲れてるね銀さん。大丈夫?」

「お前は気にせず耳でも触ってろ。」



また項垂れてる。

私を抱えて走ったから?
食べた後全力で走ったら具合悪くなるよね。


「お水飲む?」

「要らねーよ、お前ぜってェ外出んじゃねェぞ。」

「出ないよ、ここで耳触ってるから。」



あ、そうだ。


「ね、見てみて! さっき練習したら出来るようになったの!」


そう銀さんの腕を揺すり声を掛けると項垂れながらも横目でちらっと見てくれた


見てくれたのを確認して片耳だけパタンと閉じる


「猫耳ウインクっ! 可愛い?凄い練習したの!中々難しかった−」


出来たときの喜びを思い出してはしゃいでいると、銀さんはゆっくり顔を起こし、じっとこちらを見てきた。


「……え? どうしたの?怒った? 」


そう言うば銀さんは誰に猫耳付いてても喜べる訳じゃ無いんだった。


「……ごめん、はしゃぎ過ぎたね。好みの子が耳付けないと銀さん楽しく無いんだっけ。」


1人で遊んでるね、と言い立ち上がろうとすると、手首を引っ張られて少し浮いた腰がまた下ろされた。


「いや? 似合ってんぞ 。 なァ、俺も触って良い?」






さっきから出来るだけ見ないようにしていた。

どんだけ嬉しいんだか、ただ純粋に楽しんでいるであろうコイツは普段言わなそうな言葉まで言う始末。


可愛かって?
その辺の女が自分可愛いかと聞いてくりゃ冷めた目で返すんだけどな
まぁコイツの言う可愛いかってのは自分では無くあくまで耳が可愛いか、なんだろうがな。


練習したと言う耳の動き、片耳だけ倒してウインクね、全く照れもせず無邪気にやるコイツに悪戯心が芽生えた





「どうぞ−!是非触って! 凄いふわふわしてるよ!」

俺が耳に食い付いたのが嬉しかったのか、またニコニコしながら触りやすいように頭を下げてきた

「んじゃ遠慮なく。」


片手だけで軽く耳の裏を触れる
確かにふわふわっつか柔らけーな。


「気持ちい?」

「……っ、おー、」

ふふっと嬉しそうに笑っている

笑っている事を良いことに親指を内側に入れ奥を軽く押すように触るとびくっと耳が動いた

下を向いたままの顔に笑顔が消え、驚いたような顔に変わったのが分かったが構わず続ける


「んっ、」

小さく声が響いた瞬間、名前は顔を上げ俺の手を耳から離した
自分の手で耳を隠すみたいに覆い何か言いたげな目でこちらを見ている。


「痛かった?」

「……痛くない。……けど、もう駄目。」

ふい、と顔を背けられた

少しムッとしてはいるものの、照れねぇんだよなぁ


「なんで?」

「……人に触られるのはくすぐったいみたいだから。」


くすぐったい、ねぇ。


「ふーん、」

言いながら近付くと眉間に皺を寄せ逃げようと腰が上がったが、壁に追いやるように肩を押すと簡単によろけて座り込んだ


耳を隠すように覆っている手首を掴んて外し、また耳に触れる
さっきと同じ場所、さっきより少し強めに内側を触った


「っ、……っ、ちょっ、ダメ! 触んないでっ!」

「なんで−?」

「だからっ、んや……っ、やめて、ってばっ」


声にどんどん勢いがなくなってきてる
掴まれてる反対の手で俺の手首を掴んで止めようとしているが、そんな力じゃただ添えられてるのと変わらない。


耳を弄りながら軽く息を吹き掛けると身体ごとびくつかせた


「っ!ぁ、……やめっ、お願い、やめてって、」



ヤバい、これ以上は
既に声は泣きそうなくらいか細くなってる

これ以上やったら流石に嫌われるかも
そう頭では分かっているのに、


力の入ってない手で俺の胸を押しながら、声を漏らさないように、やめてくれと懇願する

早く離れろと警告はとうに鳴っている

耳を弄りながら空いてる方の耳を口に含む
一層抵抗したが背中を壁に追いやられ逃げ場が無いんだろう俺の胸を力無く押すだけ

ふわふわした小さい耳、その側面に少し歯を立てた


「っ!!……っ、うぁ、やめ、てっ、て……っ……っ離して!!!!」



どんっと腹を蹴られ、間髪入れず乾いた音と頬の痛みではっとして我に還った。


目の前には肩で息をしながら涙目で睨んでいる名前。




やらかした、完全に飛んでた。


だらだらと冷や汗を流しながら動けないでいると、名前が立ち上がった。


「っ、ごめん叩いた!! でもっ、銀さんも悪いからね っ、タオル、濡らしてくる。」


パタパタと走っていく後ろ姿を呆然と見つめながら
何も言うことが出来なかった


焦った
出て行かれるかと思った……。

つか俺もって、俺が、だろうが。
どう考えても悪戯の域を越えている

はあ、とため息を吐きながら立てた片膝に肘を置き頭を抱えて項垂れた



暫くして、近付いてくる足音と共に頬に冷たいタオルを当てられた。


「………………ごめん、大丈夫? 」

「……何でお前が謝んの? 俺のセリフだろそれ。…………悪い、やり過ぎたわ。」

「……うん。でも、思いっきり叩いちゃったから、……おあいこって事で、いい?」


下を向いていた顔を上げると、猫耳を垂らして明らかに落ち込んでいる



「……そんな簡単に許すんだ、俺の事。」

「なにそれ、許して欲しくないの?」

「いやいや、許して欲しいデス。ゴメンナサイ、」


俺の頬をタオルで押さえたまま冷やしているコイツは、

「ちょっとよ、俺に甘いんじゃねェのお前。」


こんな事した俺をあっさり許すか普通。


顔を見ながら言うとコイツは「銀さん程じゃ無いけどね。」と困ったような顔をして言った



俺、別に甘くねぇと思うけどな。


「痛い?」

「こんなん痛くねーよ。」

「でも思いっきり叩いたよ私。 赤くなってるし。」

「神楽に比べたら猫パンチレベルだっての。痛くねーから気にすんな。お前は耳でも触ってろ。」


頬に押し当ててたタオルからこいつの手を剥がし、そのまま自分の耳を触らせるように頭に乗せた


黙って耳を触ってるこいつは本当にもう怒ってないように見える


絶対嫌われたと思ったから心底ほっとした。


マジで気を付けよう、と誓ったと同時に猫耳の恐ろしさを知った。



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