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▼ 趣向も程ほどに



ゆっくりと浮上した意識の中、目を開けるといつか見た肌色の世界が広がっていて、すぅすぅと寝息が頭の上から聞こえてくる
顔を上に向けると少し口を開けて眠っている銀さん


戻れなかったんだな


ほっとしてしまった自分に軽く嫌気をさしながら顔を前に戻すと無意識にため息が漏れた


「人の顔見てため息つくのやめてくんない?」


突然聞こえた声に驚いてまた顔を上げると、さっきまで閉じていた目が開かれていた

「あ、ごめん、銀さんにため息ついた訳じゃないよ。自分にだから。ごめんね、おはよう銀さん。」

「おー。朝から随分辛気くせェな、なに考えてた。」

「……戻れなかったなって。」

「……夢は?見たのか?」

「 夢は、見てない。そう言えば何も見てないや、熟睡してたみたい。」

「寝れねぇとか言ってたのにな、案外しっかり寝てんじゃねーか。」

「確かに。心地好い温もりにやられちゃった。」


横になりながらゆったりと交わす会話


「あっごめん、私枕にしたままだった。腕大丈夫?」

ずっと腕枕状態だったことに気付き慌てて頭を持ち上げると、腰に回っていた腕が一瞬身体を引き寄せ銀さんは上半身だけで覆い被さってきた

頭の下にあった腕は抜かれ布団に付いて自分の身体を支えながら見下ろされている


「これ何回目? 」


何回同じ事してくるんだこの人は
未だ腰に腕を回して密着させているのは心拍探る為なんだろう


「沖田クンにも照れなかったよな」

「いやあれは、何してるんだろうって思ってたから。 昨日も言ったけど私だって照れるし恥ずかしいから。」

「そうじゃねーんだよ俺が言ってんのは。心臓潰されそうになるくれェのヤツの方。」

「えぇ? 何それ? 病気じゃないの? 」

「オメーの頭には乙女な感情は入ってもねェのか。」

「だってドキドキする事はあるだろうけど、心臓潰れそうになるほどって少女漫画じゃないんだから。」

「冷めてんな。でもそのドキドキすらお前しなくね?」

「まぁ、でもその内するんじゃないの、知らないけど。」

「それを見て−んだよ、俺は。」

「何で? 日常生活に必要を感じたこと無い感情何だけど。」

「崩してみてぇと思うだろ。 普通のヤツなら赤面して動揺しそうな事を、気にも止めないで流すようなヤツがどんな顔すんのか。」

「うっわぁ、悪趣味だ。」

「どーも。」

「褒めてない。私もう起きるね、ご飯作ってくる。銀さんはまだ寝てて。」


起き上がろうと銀さんの身体を押すとすんなり退けてくれたので布団から出た。


悪趣味だな−
それより朝からこんなハッキリしてるの珍しいな、いつも目開いてるのか分かんないくらい眠そうにしてるのに。






襖が閉じて、俺は布団に転がった。

まぁ実際こんなんで戻れるとは思っちゃいなかった。
でも可能性の1つとして、夢見た件を聞いたときに思い付いた。

初めは只同じ布団で寝る提案する予定だったんだけどな、昼間ベタベタ触られてたのが妙に癪に触り半ば無理矢理引きずり込んだ
本当に戻れたらどするのかと、小さな声で呟いたあいつに適当な言葉を掛けて。

そんな顔するんじゃねぇよ

目が覚めて、戻れなかったと吐いたため息に、良かったなとは言えなかった

戻れなかった事に少なからず喜び、それに罪悪感でも感じてんだろ

現時点では戻りたくないって方に傾いてるように思える、どっちにしろ方法はねェから帰れねぇけど。



にしても照れねぇなマジで。

沖田クンにも特に照れてなかった、つか何で抵抗しねぇんだよあいつ。


あ−、くっそ、ねみィ。








昼食を食べ終え片付けを済ませてから居間に戻ると3人の会話が耳に入った


「銀ちゃん最近パチンコ行ってないアルな」

「確かにそうですね、珍しい。」

「金ねーんだよ」

「銀さんってパチンコする人なんだね」

「そうアルよ、金欠はそのせいネ」

「パチンコ行くにはもう少しお仕事頑張んないとだねぇ」

「名前さんパチンコ許すタイプですか?」

「たまに遊ぶのは別に良いんじゃの?」

「たまにじゃないアル。お金持ってると直ぐ使って負けてくるヨ。給料もろくに払わないで遊び歩いてるアル。」

「それは駄目だね。」

「駄目ですって銀さん、聞いてました?」

「……ハイ」

「あと銀さんお酒も飲みに行くんですよ」

「お酒は付き合いがあるからねぇ、銀さん大人だし多少は多目にみないと。」

「多少じゃないヨ。お金無くてもツケで呑んだくれてるアル。路上で潰れてる事だってあるネ。二日酔いで迷惑してるヨ。」

「それは駄目だねぇ。てか路上で潰れるとか危ないよ。」

「ですって銀さん、聞いてました?」

「チクってんじゃねェェェェェ!!!! 何なのお前ら!?揃いも揃ってよ!いちいちコイツ通して言ってくんじゃねぇよ!!」

「だって銀さん僕らの言う事なんて聞かないじゃないですか。」

「コイツだって同じだろうが!! 」

「同じじゃ無いです。少なくとも名前さんが来てからパチンコもお登勢さんの所以外で飲みにも行って無いじゃないですか。」




確かにパチンコ行ってるのなんて見たこと無い
夜は私を下まで迎えに来てくれてるから飲みにも行けないのかな


「銀さん我慢してるの?」

「あ? 別にちげーよ。俺だって行かない時あんだよ。」

「そうなんだ、もし私に気を使っているなら「ちげぇつってんだろ」 ……まだ言い終わってないんだけど。」


本当かな……銀さん優しいから上手く誤魔化されそう



「私買い物行ってくるね」

そう言って立ち上がると、俺も出掛けると銀さんも立ち上がった


「パチンコ行くつもりアルか。」

「だからちげーっての!! ジャンプ買いに行くんだよ!!!!」




2人で万事屋を出た後も銀さんはブツブツ文句を言っていた

「ったく、何なんだアイツら」

「愛されてる証拠じゃない。」

「どこがだよ。おもっきし貶されてんじゃねーか。」

「微笑ましいね」

「いや聞けよ。」


聞いてるよ、だって何だかんだ言っても銀さん2人の事大好きでしょ
2人も銀さんの事大好きだもの
微笑ましいじゃないか


「銀さんコンビニでジャンプ買うの?」

「おー」

「じゃあここでバイバイだね。」


じゃあね、と到着したコンビニの前で銀さんに別れを告げ、スーパーへと歩き出そうとすると、「何でだよ。」と呆れた声が降ってきた。


「え?銀さんコンビニ行くんでしょ?私スーパー行くから。」

「オメーは何なんだよ。良いからここで待ってろや。」

動くんじゃねぇぞ、と一言置いて銀さんはコンビニに入って行った。



……銀さんまさか迷子になるとか思ってないよね、もう何回も行ってるスーパーなんだけど。


ジャンプだけ持ってほんの数分で戻ってきた銀さんは、行くぞとスーパーに向かって歩き出した。


「ねぇ、迷子になるとか思ってないよね? いつも行ってるスーパーだよ、1人でも行けるし帰れるよ私。」

「流石に何回も通ってるスーパーですら迷うってんなら、もう家から一歩も出さねぇよ。」

「え、こわい。」


そんな……
いや迷わないけどね。うん。
じゃあ何で着いてくるんだ


結局買い物中もずっと着いて来てくれた
しかもカゴを持って

買った物を袋に詰め持とうとすると当たり前みたいに持ってくれて、これはもしかして荷物持ちに着いてきてくれたのかな


「ありがとう、銀さん。」

「ん、」

「銀さん良い旦那さんになりそうだね。」

「は? 」

「買い物着いてきてくれて、カゴも持ってくれてたでしょ? 今もこうして荷物持ってくれてるし
、優しい旦那さんになりそう。」


驚いた顔して振り向く銀さんにそう伝えた


馬鹿じゃねぇのって直ぐ顔を背けられたけど、今絶対照れたと思う

風に吹かれて揺れた髪の隙間から赤くなった耳がちらっと見えたから

「照れた?」

「照れてねぇ」

「嘘、耳が赤くなってるの見えた。」

「……るっせェな、」

そう言いながら空いてる方の手で乱暴に私の手を捕んで繋いできた


「何これ、照れ隠し?」

「もうほんとさァ、黙ってくんない?」


可笑しくなって笑ってしまう

銀さんは照れると素っ気なくなる
顔も見なくなるし

ふふっと笑うと繋がれてた手に力が込められた
軽くじゃない、結構な強さで。


「ちょっ、痛い……!」

「人をおちょくった罰ですぅ。」

「おちょくって無いよ、本当に思った事言っただけ。銀さんが勝手に照れたんでしょ」

「照れてねーし。」

「はいはい、」


少し不貞腐れたように言う銀さんにまた笑いそうになるけど、繋がれた手が痛いから耐えた



銀さんの背中を見ながら歩いていると、少し離れた所から名前を呼ばれ、振り返ると以前依頼をくれた甘味処のおじさんが立っていた。


「あ、おじさん!こんにちは!」

「こんにちは名前ちゃん、買い物かい?」

「そうです! スーパーに夕食の買い物行ってました!」

「君達仲良いねぇ、恋仲なのかい?」

「え? ふふっ、違いますよ−。照れ隠し故、です。」

繋いでる手を見ておじさんが聞いてきたので、言いながらさっきの事を思い出し笑って銀さんを見ると目を細めて睨まれた。


「そうなのかい? 仲睦まじく歩いているのが見えたから、てっきり恋仲なのかと思ったよ。」

「ふふっ、おじさんも買い物ですか?」

「いや、万事屋さんに行こうと思ってた所だったんだ。そしたら丁度2人が見えたから声を掛けさせて貰ったんだよ。」

「そうなんですか? ご依頼です?」

「うん、また名前ちゃんにお願い出来るかな? 明日なんだけど。」

「勿論です! 銀さん行っても良い?」

ずっと黙ってた銀さんに聞くと、おーと返事が返ってきておじさんも良かったって喜んでくれた。

「明日、甘味フェスタって言って業界の小さなお祭りがあるんだ。其々の店舗が作った物を並べて食べて貰って、気に入られれば団体で注文して貰えたり、お得意様になってくれるらしい。ウチはのんびりやってるから今まで行ってなかったけど出店店舗が足りないからって出ることになったんだ。午前中だけで帰ってくるつもりだけど、名前ちゃんが居てくれたら明るいし、午後から回って食べてきたら良いと思って。」

そう言って銀さん達3人分のチケットを渡してくれた。
まじでか!と隣で声を上げた銀さんは目をキラキラさせてチケットを凝視している。


「私は朝お店に行ったら良いですか?」

「うん、会場で売り子やってくれるかな?」

分かりました!そう言っておじさんと別れた




「銀さんそんなに行きたかったの?」

「これ、会員制だから簡単に行けねーんだよ。甘味全部無料だそ? 色んな甘味食べ放題!」

「そうなの? 良かったね! 神楽ちゃん達も喜びそう。」

「俺らも朝から一緒に行くわ、午前中で帰るっつってたし、終わる頃迎えに行くから回んぞ。」

「分かった−、じゃあ銀さん食べて美味しかった所私行きたい。」

「任せろ、端から端まで食い比べてくるわ。」



銀さん楽しそう
甘いもの大好きだもんね、今度ケーキでも作ってみようかな。





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