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▼ 一度考え出すと抜けられない



結局帰って寝るのが面倒になったからって皆で買い物に行った


「スーパーも寄ってっか?神楽、肉食いて−っつってたし。」

「あっ待って待って、ご飯もう下準備してるんだ、でさ、」

神楽ちゃんと新八くんが前の方を先に歩いているのを確認して銀さんに話掛ける

「お肉、ではないんだけど、神楽ちゃんがお腹いっぱい食べれるようにお肉っぽいもの作ってみようと思って。しかも安かったの!」

「肉っぽいもの?」

「そう。お肉だとお金がかかるし、神楽ちゃん満足するまでは買えないじゃない?だから擬きで。」

「擬きって。あいつだって、肉かそうじゃないかくらい分かると思うぞ?」

「そうかもしれない。だけどもし、これが上手くい って神楽ちゃんが満足してくれたら、今回の報酬でお家賃払いに行こう?」

ね? そう言うと銀さんは驚いた顔をして私を見た

「……お前、自分の物とか良いのかよ。報酬入った時しか買ってやれねーんだぞ? 」

「大丈夫!ほら化粧品とか買わせて貰っちゃったよ? しかも必要な物は銀さん買ってくれてるもん、ありがとうね。気を使って言ってるんじゃないの、だから家賃に回して?」

銀さんが私の物を買ってくれようとしてたのは知っている。

その気持ちだけで充分嬉しいから、食費とか頑張ってやりくりしていた。出来るだけ安くてお腹いっぱい食べれるように
いつも美味しいって食べてくれる皆の為に、何か出来る事をしたい

「まーお前が良いなら良いけどよ、取り敢えず神楽満足させなきゃだな。」

「うん!頑張るよ!」









「お肉アル−!! トンカツ久しぶりネ!!」

「凄い量ですね。 」

「たまにはお腹いっぱいお肉食べたいアル! もう食べて良いアルか!?」

「どーぞ!まだあるからね、沢山食べて!」

マジアルか!と勢い良く食べ始める神楽ちゃん

「どうかな?神楽ちゃん。」

「美味しいアル!! 」

「本当に美味しいですね!僕もトンカツ久しぶりに食べました!」

「良かった−!沢山食べてっ」

良かった、ちゃんとお肉だと思ってくれたみたいで、ちらっと銀さんを見ると何か考えるように口を動かしている

気付いたかな?


今日はお登勢さんの所へは行かないで早めに寝ることにした。
神楽ちゃんの髪を乾かして自分もお風呂に入って明日の朝食の下準備をしておく


お風呂から上がった銀さんが台所にやって来てイチゴ牛乳を飲みながら聞いてきた

「豆腐だろ」

あら、バレちゃった
豆腐を凍らせて作ったカツ擬き
2人はお肉だと思ってくれたみたいで喜んで食べてくれた
今度ネタばらししておこう

「正解。やっぱりバレちゃったか。」

「いや、先に言われてなきゃ微妙だったな。食感は完全に肉だった。」

「ふふっ、ありがとう。明日一緒にお登勢さんの所に行こうね?」

笑って言うと、銀さんも笑って ありがとな、と くしゃっと頭を撫でながら言った


「私もう寝るけど銀さんはまだ起きてるの?」

「いんや−、俺ももう寝る。」

話ながら一緒に寝室に向かい、寝る準備を整える

「明日も依頼来るかな? 」

「さーなぁ」

「楽しみだねぇ、どんな依頼かな−」

「まだ来るか分かんねぇって。」

分かってるよ−、そう言いながら電気を消して布団に潜った

「今日屋根から落ちた時、助けてくれてありがとう。」

「あ? あぁ、はしゃぎ過ぎて落ちたやつ?」

「うん、そう。楽しくなっちゃって。」

思い出して笑ってると 銀さんがこっちを向いたのが分かった


「……お前さぁ、」

「何?」

途中で言葉が止まったので催促すると、「いや、回し蹴り凄かったよな」って言われた

「俺にしてくんなよ」

「え?ふふっ、じゃあ蹴られないように気を付けて。」

ふっと2人で笑って「おやすみ」と言って眠った









「今日は依頼来なさそうだね−」

昼食を終えても誰も来る気配は無かった

「そもそもそんな頻繁には来ねーよ。」

「そっか−、じゃあ私、図書館行ってくるね? 夜はお登勢さんの所にお手伝い行くから早めに帰ってくるね。」

「お前さぁ、ちょっと働き過ぎじゃね? 家でも朝から家事やって、依頼やら図書館やらババァの所やら。もう少しゆっくりすれば?」

ソファーに横になりながらジャンプから目線を逸らさずに話し掛けてきた

玄関に向かおうとした私は足を止め、銀さんの方へ体ごと向いて言った

「銀さん、これが普通なんだよ。ううん、今の私は凄く楽してる方。逆の人も居るだろうけど大半の人は朝から働き、お昼に少し休憩を挟みまた夕方、夜まで働くの。専業主婦でも一日中家事、子育て諸々、もっと働いてたりする人も居ると思う。私は今、やりたいことをやらせて貰って自由に過ごしてるし楽しい。人それぞれ生活も考え方も違うと思うけど、私が働き過ぎって事は絶対無いよ。 銀さん、しっかり。」


じゃあ行ってきまーす!

そう言って家を出た。





………………

「……名前さん真顔でしたね。」

「…………俺、泣きそう。」









あれから俺は家を出た
別にあいつに言われたからじゃねーよ?
用があったからってだけ。
まァ特に何の情報も出なかったけどな


あいつは楽しそうに笑っている事が多くなった
過度な遠慮は減り素直にここの生活を楽しんでいる

つーか、何でもかんでも楽しそうで、はしゃぎ過ぎて屋根から落るなんて考えもしなかったけどな
足を滑らせて傾いたあいつを見て、瓦全部放り投げて走った。マジで心臓が止まるかと思った


だけどあいつは1人になると動きが止まる時がある。
それは最初から、そして今も変わってない
まるで時が止まっているかのように、何処かを見つめて動かなくなる
酷く心細そうな、このまま消えるんじゃないかってくらい静かに。

この前話した後から過度な遠慮はしなくなったし、俺らと居るとき本当に楽しそうに笑っている
それは事実だ。
でも、……ほらやっぱりな。

今、1人で図書館に来ているあいつは帰る方法を調べてんだろうが、止まってる

まるで電池切れた人形だな




ゆっくり近付きおでこを指で押してやると簡単に顔が後ろに倒れた
相当驚いたのか目を見開いて唖然としてる

「……え?銀さん? どうしたの、どっから現れたの。びっくりした。」

「普通に歩いてきたっつーの。」

向かいの椅子に座って目の前にある本の山から一冊手に取って開いた

【タイムスリップ】

片っ端からそれらしい本読んでんだろうな

タイムスリップ、ではない。
そんなの本人も分かってる筈だ

本を閉じて名前を見ると、俺の行動が不審だったのかじっとこっちを見ていた


「何考えてた?」

「え?……銀さん何してるのかなって考えてた。」

「じゃ−俺が来る前は?」

「来る前? 本読んでたよ? 帰る方法調べてた。」

「30分 」

「30分?」

「俺が図書館でお前を見付けてから近くに来るまでの30分、1ページも進んでないしお前動きもしなかったよ。」

言うと名前はまた目を見開いた

「……え、ずっと見てたの?30分ずっと?怖いんだけど、ストーカーで通報されるよ?」

「家族見てて何が悪りーんだよ。」

俺が真顔で言うと名前は言葉を詰まらせるように一瞬黙った

「……銀さん何しに来たの」

「話しに?」

「もう良いよ、大丈夫だから。もう少ししたら帰るし先帰ってて。」

「何ビビってんの?」

「ビビってない」

「なら話しよーや、ここでする? それとも移動する?」

眉間に皺を寄せてあからさまに嫌がった顔をされた。

何を警戒してるんだか、
別に泣かすつもりねーから
いや、この間も別にそんなつもりじゃなかったけどよ
泣かすならもっと違う事で……って違う
しねーけどな。
何考えてんのか聞きてーだけだっつの


黙って本を片付ける所を見ると場所の移動を希望するらしい



川原に向かって歩く

名前は少し後ろを着いてくる

ってこの間と同じじゃねーか

「なァ、んな警戒すんなって。オメーが何考えてんのか聞きてーだけだから。」

「……別に何も「考えてないっつーなら無理矢理吐かすけど」……」

スゲー嫌そうな顔してる。あ、ため息吐きやがった

「銀さんがこの間言ってくれた事本当に嬉しかった。だからもう遠慮とかしてないんだけど、」

「知ってる。泣くほど嬉しかったんだろ?」

「……ねぇ、喧嘩売りに来たの?」

声が少し低くなった
やべ、怒らせちゃ意味がない

「ちげーって、」

話ながら川原に着いて、近くの石段に座った
座れ、と隣を叩くと渋々隣に腰を降ろした


暫く沈黙した後、俺が先に口を開いた

「……寂しいか?」

「全然。」

即答だった
え?寂しくねーの?寂しそうにしてたじゃん?


「……一緒には住んでなかったけど、両親が居るの。お母さん大好きだし、私の事凄く心配してると思う。だから帰りたい。」

「……」

「……なのに、楽しくって。今、凄く楽しくって。元の世界も勿論楽しかったよ。独り暮らしだったけど友達と遊んだりしてたし職場でお話したりもするし。……まだたった5日なんだよ、私がここにきて5日しか立ってないの。でも凄く楽しくって。でもここでの生活を楽しめば楽しむほど元の世界の記憶が薄れていく。大事な思い出も想いも。……だけど私はここに来たことを後悔はしない。こんな素敵な人達に囲まれて後悔なんてしたら例え帰れても一生悔やまれる。だから楽しむんだ。楽しいのに楽しまなきゃ勿体無い。でも、お母さん心配してるのに、私だけ楽しんで良いのかな……って言うダラダラダラダラした無限ループ考えてた。」

途中深刻な話かと思えば、最後けろっとして俺の方を向いて言った。

なんつーか、一皮剥けたつーか

無限ループねぇ

「どうしようも無い事なんだよね、多分これはずっと付きまとう。後……まだあるけど 聞く?」

「おー」

「んじゃ遠慮なく。もし今目の前に帰れる方法があったとしてそれが選択出来るのなら、私自身帰るって選択を出来るのか分からない。強制的ならば、その後、時が解決してくれると思う。けど選択出来るなら……分からない。 たった5日でそんな風に思っちゃってるんだよ。ごめんね、銀さんも神楽ちゃんも新八くんも帰れるように探してくれてるのに。私が別にこのままでもって思っちゃってるんだよ。そしてきっと帰るときは突然なんだよね。今ならまだ思い出に出来る。でもこれ以上過ごしたら? だけど何よりも残酷なのはこのままでも良いかもとか思ってる私自身。本当に薄情な人間だよ。…………はい、おしまい!」

そう言って名前は立ち上がった

「ごめんね、凄い愚痴っちゃった。でもスッキリした。銀さん大丈夫?愚痴聞きすぎて具合悪くなってない?」

俺の前に立ち、顔を覗いて心配そうに聞いてくる


居れば良い、この世界にずっと
だけどそれは、こいつの言う通り自分で選択出来るものじゃないだろうな



「別に良いんじゃねーの? 好きなだけ楽しめば。お前が楽しんでそれをとやかく言う母親じゃないだろ? このままで良いってんなら結構。俺ァもう調べねぇ。だからお前も止めろ、どうせぐちゃぐちゃ考えて調べものなんて出来てねぇんだろ? そもそも人生なんて何が起こるか分かんねーんだ、毎日楽しもうと足掻いてるヤツが結局は笑って終われんだ。どうしても選ばなきゃなんねー時が来たらそんとき悩め。目の前にあるもん大事にして何が悪い、良いじゃねぇか元の世界にある大事な物もここで出来た大事な物も全部持てば良い。薄れてなんかいかないさ、ちゃんとお前の中にあるよ。持ちきれないなら俺も持ってやる。だから愚痴でも何でも言えよ。全部聞いてやるから。」


正面に立っている名前を真っ直ぐ見ながら言った



「……危な、泣くとこだった。」

「くくっ、そりゃ惜しかったな?」

目尻を下げて本当に泣きそうに言うから冗談で返したら笑って顔を背けた

もう夕方か、そろそろ帰んねーとな




「……何か、良い言葉が見付かんなくって。ありがとうとか感謝とか、それは当然そう思うんだけど、何かもっとこう 伝えたいけど、伝え方が分からない。」

必死で何を伝えようとしているこいつはその伝え方が分からないと言う

別に言葉にしなくたって大体分かるっての

そう言おうと口を開き掛けると先に名前が言葉を出した



「私、銀さんが好き。」



…………



「おー、そりゃどーも。なに−、じゃあ付き合っちゃうー?」

「馬鹿じゃないの?」

笑いながら否定された。

つーかビビった、危なかった。
分かってる分かってる、
ライクってんだろ?
冗談で乗りきったけど、動揺バレてないよな?
伝え方を考えた結果それなワケ?
とんでも無いとこチョイスしてきたな。


「帰ろっか」

「おー」




「……もし、世界中が銀さんの敵になったとしても、私は銀さんの味方になるから。」


真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。

今度こそ固まる俺

くるっと前を向き歩き出す小さな背中に心の中で呟いた


スッゲェ口説き文句だな、オイ。




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