「ほう。妾を目前にして尚、その様な事を申すか」

 正に、その目の前に居る奴が胡散臭いなら尚更だ。未だにそいつの存在がノンフィクションだと云う事が、俺には信じられない。だから、奴らが神だろうが何だろうが言っていようが、俺にはどうでも良い。

「一体、何時まで居座るつもりなんだよ」
「お主が不幸から逃れた時、と再三申しておろうに」
「だからさ、其れをどうやって判断するんだよ。幸福度なんかをグラフにでも表すってか? 冗談だろ。数値化出来るもんでもねぇんだからさ。それとも、お前らにはそういうのまで見えちまうのか?」

 そもそも、生きているうちは、不幸が訪れないなんて保証は何処にも無ぇじゃねえか。俺だけじゃない。皆、その渦の中を耐えながら生きている。

 桐葉が急に立ち止まるので、俺もそうせざるを得なくなった。おい、俺は両手に重い物持ってんだぞ。勘弁してほしいんだが。

「ふむ。視えなくもない……と云った所じゃろうか」
「あぁ?」
「お主の眼の色が変わった時じゃ」

 ……また、訳の解らない事を言い出すもんだ。
 今更、俺の世間に対する目の色なんて変わりっこねぇよ。もうガキじゃねぇんだ、何色にでも染まれる純粋な目は、とっくに捨てちまっている。
 其れを変えられる方法が有るってんなら、それこそ時間を巻き戻すとか、生まれ変わらせるとか、神サマのみぞ為せる御業で、今すぐにでも、やってみれば良いじゃねぇかよ……。

 不意に、後ろを振り返ってみる。俺が道を歩く為だけに無意識に踏んづけてきた雑草が、抗えずに頭を垂れている様に見えた。
 所詮、力の有る者が支配する世界だ。どす黒く染まっちまってるに決まってる。
 ……ああ、だったら、幾ら綺麗な色の目を持っていようが、時が来れば結局はみぃんな、いずれ同じ色に染まっちまうじゃねぇか。絶望的だ。こんな世界に、どうやって楽しさを見出だしてんのか、自分を幸せだと認識している世界中の人間に、聞いて回りたい位だ。

 ひやり、と吹いた夜の冷たい風が、俺の頭を冷やすかの様だった。
 どす黒い物が俺の頭の中をも支配する前に、首を横に振って、何とか其れを振り切った。そして、未だ立ち止まったまま動かない桐葉には構わずに、歩行を再開して、帰路を進んだ。

「おい、さっさと帰るぞ。あの食欲大魔王サマ、腹が減りすぎて死んじまうだろ」

 そう言い捨てて。神とか自称してる奴にそんな言葉を使ったら、バチでもあたっちまうのかな。そもそも、神サマって死ぬのか?
 その後、桐葉の奴が背後で何か呟いてた気がするが、其れは俺には聞こえなかった。

「……尤も、妾の姿がお主に視えるように成ったと云う事は、その予兆が顕著に現れ始めている訳なんじゃがの」

[ 4/8 ]

[*前頁] [次頁#]

[目次]

[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -