――離鳥桐葉(りとりきりは)。うざったい位の長い黒髪を、やたら高い位置で横二つに括っている。最初に話し掛けてきたのもこいつで、自分を四人のリーダー的な存在だと言い張る。謂わば前に出たがる性格ってやつだ。
 ――阿部鵺靖(あべのぬえやす)。こいつが一番危なっかしい。サムライと聞いて思い浮かべる姿そのまんまの格好、律儀に刀まで振り回しやがる。だが刀を置いた瞬間、それまでの記憶を忘れちまったかの様に縮こまって、「恐縮いたす」とか言って、一人茶を啜っている。
 ――三柴教明(みしばみちあき)。何つぅのかな……千利休だかが、確かこんな服着てた気がする。一人妄想に耽っている自分を、現代に蘇った愛の詩人とか言いやがる。詩だかを書いている時なんか、周囲でどれだけ騒ぎが起きようと、自分の世界に入り込んで落ち着いて居られる。まあ、ある意味では羨ましい性格だ。
 ――古賀大五郎(こがだいごろう)。鵺靖と教明をくっ付けた二人分位の体型。部屋の食料をこいつが根こそぎ食っちまったせいで、俺は明日から生きていく為の食材を買いに行く羽目になった。まさか、精米すらしてねぇコメの袋まで空っぽにされちまうなんて、思いもしなかったが。
 この四人が――正しくは四柱であるぞ、とか桐葉の奴が言いそうだが――、定められた不幸から俺を救う為に天から降りなすった、神サマなんだっつぅ話だ。

 俺は、買い溜めした材料をぱんぱんに詰めたエコバッグを両手に持って歩いている。その数歩前を、桐葉がまるで飛び跳ねる様に、ふわふわと浮きながら先導する。
 どうやら俺以外の人間には、こいつらの姿は見えないらしい。皮肉にも、其れがせめてもの救いだと思った。こんな奴らを連れ立ってるのが他にも見えちまってたら、何つぅか、説明に困るじゃねえか。

 徒歩十数分圏内にスーパーが在るのは助かる。しかも二十四時間営業なもんだから、月が空の中心を陣取る時間帯に動き出そうとも、困る事は無い。其れは誰か知らねぇ人間が働いてくれているからだ。
 もしかすると、生きるって事そのものが、働かされるって事なのかも知れねぇ。ただ雑踏の中を歩くだけでそう思う。誰しもが、望んだ訳でもねぇのにこんな場所に生まれて、立たされて、歩かされて、そして死んでいくだけ。
 そんな存在を、神とかいう奴らはちゃんと統括出来てんのか?
 ……否、出来てる訳無ぇんだ。数多の人間それぞれに平等な人生が用意されているなんて、俺は全く思わない。

「俺はさ、祈れば何とか成るとか、信じれば救われるとか、そういう言葉が一番嫌いなんだよな」

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