「おお、お主、何時の間に居ったのじゃ」

 と、無視を貫こうと決めた瞬間だった。時代錯誤の言語が俺の耳に届いた。おい、まさか幻聴までセットになってんじゃねぇだろうな。

「聞こえぬのか? 哀れよのう。此度妾が引き受けた童は、余程の悲運を歩みし者と見えるな」

 目蓋を開くと、さっきまで寝ていたちっこい女が、俺の足元でうざったく飛び跳ねながら、俺にそう話し掛けている。他の奴らも、俺に漸く気付いたように、それぞれの手を止めて俺の顔をじっと見ていた。
 奴らは確かに、其処に居るのだ。

「……聞こえてる。で、呆れてるんだよ」
「おお、そうじゃったか。失礼したな。此方に降りてきた迄は良いが、幾ら待てどもお主の姿が見えんでな。暇をもて余しておったのじゃ」

 遂に、声を掛けてしまった。その正体不明の奴らに。
 話が出来てるっつう事は、まあ、言葉は通じるみてぇだな。

「お主、名は何と云うのじゃ」
「……神(じん)、翔(かける)」

 そうだ、俺の名前は神翔。
 苗字が漢字一文字なら、名前は二文字にしようとか、あのクソ親父はそんな事も思わなかったんだろうか。読みにくいったらねぇよな。俺なら自分のガキにはそういう気を遣うね。まあ、そんな予定は今のところ無ぇけど。……そもそも、細かいところに気を遣えるような人間なら、クソ親父じゃねぇか。

「神……とな。ほほう、其れはまた、愉快じゃなあ」

 何が可笑しいのか、その女は一人で、くつくつと笑っている。

「哀れな童、翔よ。此れは四柱の聖神の天恵じゃ。因果に歪められしその相貌、春の便り菖蒲の如く、綻ばせてしんぜよう。請い願い、ひれ伏すが良いぞ」

 耳をつんざく様な無駄な高笑い。偉そうに指を差されても、俺には返す言葉が無かった。
 とりあえずさ、誰か解りやすく説明してくれる奴は居ねぇのか? そっち側にはあと三人居るだろうが。……ああ、何時の間にかまたそいつらは、それぞれの好きな作業に戻っちまってるって訳か。
 最早、怒る気にもならない。そういう俺の性格が、もしかしたら不幸の元凶なのかも知れなかった。

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