不幸事は続くと言うけれど、正に今日がその最初の日なんじゃねぇかと、俺は予感している。

 先ず、今日の天気予報は快晴だった。窓から見えていた空にも、雲一つ無かった。だが、俺が家を出た瞬間、待ち構えていたかのようにどす黒い雨雲が集まってきて、『バケツの水をひっくり返したような集中豪雨』が俺を襲った。
 俺は時間に余裕を持って行動するタイプだったが、たまたまスマホのアラームを一時間間違えて設定してしまっていて、しかも夜勤明けで睡眠が足りなかったし、まあ、一言で言えば寝過ごしちまった、ってやつだ。だから今日に限って余裕が無かった。だったら寝なきゃ良かったんだろうから、これは俺の落ち度でしかねぇけど。
 で、急いで家で着替えてからバイト先へ向かったんだが、到着寸前の道で信号待ちをしていた時、水溜まりを避けられない大型車が、スピードも落とさずに俺の前を横切った。そりゃあもう、バケツ程じゃねぇけど、汚ねぇ泥水なんか被っちまったら、バイトとはいえ仕事なんか出来ねぇだろう。他人サマ相手のサービス業なんだしよ。だが、着替えなんか持っているはずもなくて、慌てて用意しなきゃなんねぇもんだから、無駄な出費を重ねた訳だ。
 すっかり忘れちまってたが、今日はバイトの新人が入ってくる日だった。自分で稼ぐって事を初めて覚えに来たような女子高生だった。そこでのバイト歴が長いからっつって俺がそいつの指導をしなきゃならなくなって、挨拶の仕方から上司への態度から、先ずは常識的な事をまあ色々と……教えてやった。
 今更なんだが、俺は、他人に対してはこんな口調で話す訳じゃない。特に初対面の奴には気を遣う。そん時の俺は、別の誰かを演じてんのかって気にすらなる位だ。だからストレスが溜まんだよ。だが、そうでないと生きていけねぇからそうする。生きるって事は、ほんと面倒くせぇ事ばっかだなって思う。

 そしてふらふらになって帰宅して、今この瞬間を迎えたわけだ。
 ……きっと俺は疲れ果ててるんだ。だから変なものが見えちまってるんだ。そうじゃないってんなら、この状況は説明がつかない。

 寝るとこさえありゃ良いだろうと借りた、安いボロ部屋だ。そんな狭い部屋に、知らない四人が入り込んでいた。奴らは俺が其処へ足を踏み入れても、気付かねぇのか何なのか知らねぇが、変わらず好き勝手やっている。
 一人は、冷蔵庫やら戸棚やら色んなとこから食い物を漁って、ひたすら食ってやがる。
 一人は、穴の空いたベッドですやすやと眠りこけてやがる。
 一人は、猫の爪研ぎでもねぇのに、部屋の至る物を相手に刀を振るってやがる。
 一人は、俺のノートを勝手に破って何かよく解んねぇポエムみてぇのを延々と書き連ねてやがる。

 それでも、俺がそいつらに何も言えずに、只ぼうっと突っ立っていたのは。
 そいつら、何つぅか、小せぇんだよ。三十センチくらい? で、何となぁく、透けてる……っぽい様に、見えなくもないっつぅか?
 ああもう。だからさ、幻覚なんだよ、きっと此れは。もしくはアレだ。この部屋、訳アリ事故物件ってやつだ。だから、眼を閉じて気を落ち着けて、無視さえしてれば、いずれ見えなくなるんだよ。無視、無視……。

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