06
その後、カヲルは家に帰り、渚くんは家に泊まることとなった。
一緒にご飯食べて好きな食べ物の話をしたり、
一緒にお風呂に入ったり(その際、何故か落ち込ませたけれど)、
一緒にベッドに入って少しこの世界の話をしたり。


そして、次の朝、寝坊した。


「ぎゃああ!渚くん早く早く!小学校近く?!ていうかこんな朝早くから人ん家のドアをドンドンと叩くの誰よ!」

「着替え、持ってくるべきだった……。」

「冷静に考えてないでほら!支度!トイレは?カバン持って!」

「ていうかいつまで待たせんのよ、この寝坊助!人がせっかく迎えに来てやったというのに!!ていうか迎えに来いっつったのはどこの誰よ!」

「きゃー!アスカまで入ってきたー!やだ私着替えてないのに!」


ドタバタと着替えを済ませ、学校についたのは奇跡と言えるような時間だった。
4時間目が終わり、ご飯も食べて、昼休みになった。
はーっと息を出しながら机にもたれかかると、すぐ隣に誰かが立っている気配がする。

顔を上げずに視線だけ向けるとアスカが何故か機嫌が悪そうに仁王立ちしていた。
これは私に何か言いたいことがあるのかな……、やっぱりアスカに道案内を頼んだのに寝坊したからかな……。


「アスカ、ごめん。」

「は?何突然謝ってんのよ。私が話しかけようとしてるのに顔を上げないことに謝ってんの?」


そう言われて確かに失礼だなって思って顔を上げて、ついでに身体も起こす。
それで良しとでもいうように一回頷くと「質問があるの。」と聞いてきた。


「朝アンタの家に居た子ども、アレは?アンタの隠し子?」

「答えはノー。この歳で旦那様はいません。」

「旦那、ね。」


いま確か中学生よね、なんて歳のことを考えていたら旦那なんて言ってしまった。
そうだった、私いま男だった。まぁ、でも気になっていないみたい、アスカ。
普通に出る言葉は若干低い音だけれど、早いものでもう慣れてしまった。
だから男であることをちょくちょく忘れてしまう。


「じゃあ、やっぱりアレってホモの弟?」

「大正解!ちょっと頼まれててさー。」

「あー、だから生徒会室に呼ばれたのね。でもなんでアンタに?」

「私の中の母性本能を見出したからだと思われます!」

「うっわ……。」


私の発言か、もしくは男から母性本能を見出しちゃったカヲルにか、どちらかにドン引きしていた。
漫画のようにアスカの顔には青筋がはいる。

でもね、アスカ、私の母性本能は本当なの。それに甘えたカヲルに引いてね。


「ま、でもカヲルの仕事が忙しい時だけだし。」

「カヲル?」


美少女はこくんと可愛く小さく首をかしげたけれど、すぐに顔色が曇ってくる。
あ、……しまった、この子、カヲルに惚れているんだった!
ぽっと出の私が「カヲル」なんて親しげにファーストネーム呼んだらそりゃ嫌な気持ちになるよね……!


「あの、アスカ……!」

「アンタ……、大丈夫?何もされなかった?」


どうやらアスカは私が思っていた考えとは違うことを思っていたらしい。
つまり……、


「貞操的な?」

「もっとオブラートに包みなさいよ。仮にも私たち男女なんだけれど。」

「てい〜〜そう〜〜」

「それビブラート。」

「…っぷ。」


どこかからか第三者の吹き出す声が聞こえてきた。
ごめんなさい、と笑いながらこちらに謝りながら来たのは意外にも学級委員長だった。
確か、洞木アカリ?


「ヒカリ、どうかしたの?」


違った。


「ううん、えっと、苗字くん、ちょっと手伝ってくれないかなって思って。」

「私?いいよ、どこまで行けばいい?校舎裏?」

「アンタ、それじゃ告白スポットじゃない。」


委員長がいうには教材を運ぶとのことだったので一緒に理科準備室まできて欲しいとのことだった。ちなみについでに色々案内してくれるらしい。

いい子だなぁ、昼ごはんとか誰も誘ってくれないから、なんだかクラスから浮いてるななんて思ってたけれど、そういう人にも積極的に話しかけていくスタイル。
私が男だったらこんな状態だし惚れていたかもしれない。

委員長は教材を半々に持とうとしていたけれど、その前に少しこちらが重いように調整する。
彼女は気づいたのか、小さくお礼をいってきた。

……しかし本当に男なんだなぁ。全然重くないや。

理科準備室は懐かしい香りだった。中学校なんて何年ぶりなんだろう。
だがしかし、昼休みは有限だ。さっさと終わらせてしまおう。
手に持っていた教材を棚に入れたり壁にかけていく。

「苗字くん、ありがとう。結局重たいもの持たせちゃったし、ちゃんと案内できなかったね。」

「全然。こういうの男に頼みづらいでしょ?いいのよ、私を頼っても。ほら、私これでも身体は男、心は女だし。
あと案内はすごくわかりやすかったよ、なんていうか、気配りが凄い感じられた。どこが目印とか、エピソード付きだと覚えやすいし。そういうの素敵だと思うよ。」


…………無音だった。
はて、もしかしたら準備室から出て行ってしまったのか。
ならば私の今の言葉は独り言になってしまった。

それすごく恥ずかしいな、なんて顔をあげたら顔をほんのりと赤くした委員長が立っていた。
珍しい反応にこちらも少し、少しだけ照れてしまった。

しまった、ちょっと恥ずかしい言葉言ったかもしれない。


「え、えっと、その、ありがとう……苗字くんのそういう細かいところに気づいて言葉にできるの、素敵だよ。きっと、女子にもモテると思う……あ、男子の方がいいのかな……?」

「……こ、こちらこそ、ありがとう……。」


こ、これは確かに照れる!!むずがゆい!
なんだか気まずい雰囲気を作り出してしまったのでお互いに目を合わせず
言葉も交わさず自分の作業を黙々と終わらせる。


「委員、じゃなくて洞木さん、終わったよ。」

「あ、ありが……いたッ!」


振り返った瞬間、棚に肘をぶつけた様だ。
それ、痛いよね……なんて同情した様な目で見ていたら、ふと視界にグラグラと揺れている棚の上で揺れているダンボールが。

考えるよりも先に身体が動き、
左手でいまだに揺れている棚を押さえつけ、右手を伸ばしダンボールを押さえつける。

……よかった、男子で。多分、前の私だったら身長が足りず、下にいた洞木さんにダンボールが落ちてきたかもしれない。
ふう、とため息をつき大丈夫?と自分の身体と棚の間にいる洞木さんを見てみる。

本人はびっくりしたのと、多分男子慣れしていないのかもしれないけれど、
そのせいで顔を真っ赤にしながらコクコクと私の方を見ながら頷いた。

そうよね……、私もびっくりしたんだけれど、この顔イケメンだもんね。
そんなイケメンに突然壁ドンならぬ棚ドンされたらびっくりするよね。


「うわ!押すなって!」

「ちょ、静かに……!」

聞いたことのあるような声だった。というか一番なじみのある声がドアの外から聞こえてきた。

ドアをあけると案の定、シンジ、ケンスケ、トウジがお互いがお互いの口をふさぐようにしてドアの前にいた。

三人の視線が私に集まったので、とりあえず
「や。」と片手を軽くあげて挨拶をした。

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