05
がちゃり、開いてバタンと閉じた。
表札を見てみる。
自分が飾ったわけではないけれど表札はしっかりと苗字のプレートが飾ってある。
しかし……、今の姿形は……。
「どうして閉めたんだい?帰らないの?」
「帰りたいのは山々なんだけれど、家の中に不審者がいて……。」
「おや、今までいたけれどヒトの気配なんてなかったよ?」
「アンタだよ、アンタ!」
指を刺された渚カヲルは首をこくんとかしげた。
どうやら不法侵入という常識は通じなさそうだ。
彼は私の手をとり、中へとひっぱる。
「どうしてここに……。」
「近所のヒトに道案内を頼んだのさ。」
「いや、違う、理由を……というか鍵は?!」
「中に友人が熱で倒れているんです、今は独りで寂しくやっているんですけれどさっきから連絡が取れなくて。スペアキーかなにかありますか?と管理人の方に。嘘つくのは心苦しいけれどね。仕方がなかったんだよ。」
「嘘をペラペラ吐けるようなやつが何言ってんのよ!」
部屋に入るとクーラーがついていた。
この人、勝手に人の家にあがりこんでくつろいでやがったな。
あれ、ていうか……
「私の方が先に帰ったはず……、確かに多少迷いながらだけれど。」
「実は君にお願いがあって来たんだ。」
コイツ、人の話を聞かないぞ。こんなキャラだったか、カヲルくんって。
すると奥からトイレを流す音が聞こえた。……え?
「紹介するよ、僕の弟。カヲル。」
「同じ名前?!」
律儀に手を洗ってたのか、奥からひょこりと顔を出した少年は手をハンカチで拭きながら現れた。
これは、貞カヲ…?!しかも短パンで明らかにショタで出てきた!
なに、この子、すごく可愛い。
「カヲルご挨拶は?」
「渚カヲル、10歳。カヲルでいいよ。」
「可愛いけれど、カヲルくんとカヲルくん……ってどうにかして呼び方を変えないとね。」
「「カヲルでいいよ。」」
「ハモんないで。」
その後の話し合いの結果、10歳の「渚くん」と生徒会長の「カヲル」で決定した。
いや、違う、そうじゃない。名前を決めて満足してしまった。
「ところでカヲルはどうして私の家に上がり込んでたの?」
「このカヲル、とりあえず弟と呼ぶね。」
「兄ー。」
なんだ、この可愛いやり取りは。
カヲルもまんざらじゃないようで少し嬉しそうに微笑みながら頭をなでている。
渚くんも猫のように目を細め喜んでいるように見える。
「弟が僕らの母に会いたいといったんだ。」
「母ー。」
「うわ、可愛い。」
「僕らは元々は一人の『渚カヲル』だからね。だからこの世界に生み出してくれたものが誰かがわかるんだよ。
でね、話は変わるけれど、僕生徒会長だろう?」
「本当にころっと変わったね。」
「僕は生徒会の業務等あって、弟の面倒を見れない時があるんだ。よければその時だけでいいから君のところで預かってもらえないかと思ってさ。セカンドやシンジくんのところにいこうと思ったけれど、弟が君のところがいいって駄々をこねてさ。」
「母親のところがいいに決まってるよね。」
「うん、実際の母親じゃないけれどね。」
「それで、僕ひとりならいいけれど弟もいるし外より中で待たせてもらおうかなって思ってね。」
なるほど、合点がいった。
それで中に入ってたのか。確かに第三新東京市の暑さは異常にあつい。
飲み物もなしにこの温度に居続けるのは危険だ。
「名前なら受けてくれるって信じてるから。」
「渚くん……、そう言われると断れないでしょ……。」
「助かるよ、名前。」
それにしても、神様でオカマ(ではないけれど)で母親って私のキャラはどこに向かっていっているんだろう。
「よろしく、渚くん。」
「よろしく、名前。」
でも、少しだけワクワクしている自分がいる。
握った小さな手に楽しさを感じた。