33-最終回-
季節は秋となりました。
ただ、暦上は秋というだけでここ数日はまだまだ暑い日が続くでしょうと朝の天気予報でいっていた。
更にいうなら昨日から雨が降ったり止んだりと不安定な天気が続いていたので、
湿気のせいでも暑く感じる。


「傘、忘れたの?」

「え?!あ、苗字くん。そうなの、朝降ってなかったから油断してて。」


帰ろうとしていたら、クラスメイトが下駄箱の前で空を見上げていた。
その空からはパラパラと雨が降り注いでいる。この雨はまだ止みそうにもないなあ。


「良かったら私の使う?」

「い、いや、いいよ!だって苗字くん濡れちゃうじゃん!」

「女子が濡れる方が大問題でしょ。すけちゃうよ、制服。それに私、風邪ひいたことないし。」

「確かに具合悪そうなところは見たことがないけれど……。でもコレをきっかけにとかあるでしょ?」

「バカは風邪ひかない!」

「学校一の秀才が何を言ってるの?!」


中々受け取らない彼女にぐいっと傘を押し付けると彼女は戸惑いながらも受け取ってくれた。
これで走り去ったらかっこいいんだろうけれど、出来れば私も濡れたくはない。


「ふふん、雨に濡れて『水も滴るいい男』が出来上がるからいいのよ!」

「えー、それ自分でいっちゃう?一緒に帰れればいいんだけれど、確か苗字くんの家反対方向だったよね。残念、相合傘できたかもしれないのに。」

「それは確かに残念ね……。ああ、でも気にしないで。どうせ生徒会長がまだ学校にいるでしょうし、一緒に帰れるか聞いてみるし。」

「ああ、渚会長ね。」


カヲルの名前を出すと何を思ったのか、ニヤニヤと笑う。
……その顔なにか誤解されてませんか……。

そのあとは彼女も納得したのか傘を借りて帰っていった。
さて、じゃあ私もカヲルがいるであろう生徒会室にいこうかしら。
もし作業中だったら手伝って早めに帰れるようにしよう。

階段をのぼり、生徒会室までいくと何か話し声が聞こえてきた。
しかもその声はカヲルと、多分アスカだ。
真剣な話をしているらしくいつもの怒鳴り声や、明るい感じの声も聞こえてはこない。




「しゃーない。一人で濡れて帰るか。」


どんよりと広がる暗い空を眺めたが、雨は止みそうもなかったので一つため息をついた。


走って家まで帰ったけれど、学校を出た瞬間に雨は小降りへと変わりそこまで身体は濡れることはなかった。私天候にまで愛されてるとかパネェ。

それでもしっとりと濡れているので身体を温めようとシャワーを浴び、風呂場から出ると外の雨は小降りから土砂降りへと変わりはてていた。

アスカとカヲルはこんな土砂降りの中帰るのか……と学校に残っていた二人を思っているとふいにインターホンがなる。


「はーい……ってアスカ?!ちょっと、びしょ濡れじゃない!傘は?!」

「……学校。」

「は?……と、とりあえず入ろ?濡れたままだと寒いでしょ?」


アスカのいつもの元気がないのは一目瞭然だった。
そんな彼女をほっとけるわけないし、ここに来たってことは私を頼りにきたってことだし。

彼女は私に目もくれず中へと入っていく。
アスカの後を追いながら途中で洗濯してたたんでいないタオルがかけてあったのでそれをひっぱり、立ち止まっていた彼女の頭にかぶせてゴシゴシと水分をとっていく。


「どしたの?何かあったの?」

「…………。」


カヲルと何かあったのだろうか。多分この時間ならカヲルと話して何かあってそのままとぼとぼとこっちに歩いてきたのだろう。
でもその名前を出さず、話していたことを知らないことにしておこう。


「……カヲルと、話した。」

「うん。カヲルと、何を話したの?」

「好きって、いった。」


思わず彼女を拭いていた手が止まってしまった。
そっか、と言葉を出したけれど、正直な話、少し黙っていたかった。
私の声は少し震えていた。……私の周り、変わっちゃうんだな……。


「最初は男女間の好きだと思わなかったらしいんだけれど、真剣に伝えたの。」

「……うん。」

「そしたらね、……断られたわ。理由は言えないけれどって。」


なんとなく予想はついていた。きっとその恋が成就していたらこんな顔はしていない。


カヲルのフッた理由は本人が言いたくない、というより多分まだ恋についてわからないからだろう。彼はまだ使徒の記憶があるから。

私がだんまりしているとアスカがまた口をひらいた。


「それで、アタシ、」
「はい、ちょっとごめんねー。」


アスカの話を真剣に聞こうとしていた私の身体は完全に無防備で。
そんな無防備な身体をグイと後ろに引っ張られる。いや、引っ張られるというより誰かの腕が私の身体に絡みついていたので、これは抱き寄せられたんだろう。

一瞬何が起きたのかはわからなかったが、……この声は。


「よお、ハニー、元気にしづぁおうえッ!!な、……何すんだよ!俺様がきてやったというのにこの熱烈歓迎は!しかも無言で!今読者が何が起こったかわからず画面の前ではてなを起こしてるぞ!俺様も一瞬何が何だかわからなかったぞ!なんで脇腹を肘で殴ったんだ!」

「よお、会いたかったわ、神様。一発殴らせろ。」

「ちょいまち!今殴った!殴ったよね!じゃあもう解決だよね!だよね!はい、じゃあ俺様のターン!!」

「うっせ、黙れ。」


ていうか読者とか何それ。他の神様でも私達の行動読んでるのか?
そもそも、こんな真剣な話してる時に現れんなよ。空気よめよ、神様だろ。
……そしてそこで気付く。
バッと振り返るとアスカは驚いた顔で止まっていた。


「あ、あのー、アスカさん?」

「……どんな手品つかったのよ。というかそいつ知り合い?の、わりには結構暴力的な事するのね。アンタのそういうところ初めて見たわ。」

「……あはは。」


おいおい、神様、こういう時は時間を止めたりとかしないのかよ!
とりあえず全部話してしまおうかどうか迷い、神様を見るとどうぞ、としているので話していいのだろう。


「アスカ、よく聞いてほしいんだ。」


こんな話を信じてもらえるとは思ってはいなかったけれど、アスカはしっかりと聞いてくれた。
こんな時にごめんね……。


「にわかには信じがたいけれど、実際見たしね。その、神様が現れる瞬間ってやつ。ていうかアンタもカミサマなのね。」

「実際には人間だけれどね。ただの創造主ってだけで。」

「なんか、納得いったかも。」

「で、それで私になんの用よ。また殺そうと企んでるの?」

「まっさか!殺そうと思ってるならハニーの意思関係なく殺してるって。そんな簡単な事じゃねーよ。」

「そっちも簡単な事じゃねえよ!!」


なにさらっと言ってくれちゃってんの?!


「実はな。苗字 名前の身体は生きてたんだ。植物人間として。俺様が完全に殺さなかったからこんな事になっちまった。」

「完全に殺す殺さないは別としてとりあえず話を進めて。私は殴っとくから。」

「勘弁して。でな、名前は生きてるんだ。魂もここにある。だから生き返ってみないかって言いに来たんだ。」


しばらく時間が止まった気がした。
神様が時を止めたわけではなく、外は未だに雨が降り続き大きな音を立てている。

生き返れる。両親に会える。

くい、と裾がひかれた気がした。
ゆるゆると視線を下げると小さな手が小刻みに震えて私を離すまいと掴んでいた。


「アスカ……。」

「やだ、いっちゃうの。アタシ、気づいたの。カヲルと話してるときずっと顔がちらついてたの。アンタの顔がよ。」

「……へ?あ、お、おじゃましました。」

「じゃなくて!この鈍感!好きな男の前にいるのに違う男の事考えるってそれ、恋でしょ?アタシ、いつの間にかアンタの事好きになってたのよ……。ずっと友達と思ってたアンタをよ?!……どうしろっていうのよ……この気持ち……。」


青い綺麗な瞳がキラキラと輝き、やがてその瞳からは数滴の涙がこぼれてきて床へと吸い込まれていった。


「……ねえ、これでもし私が帰ったらこの世界はどうなるの?」

「さあてねえ。俺様の知ったこっちゃないし。創造主が安定しないこの世界をほうっておくなら自然消滅すんじゃないかな。多分。Maybe。」

「神様ならなんとかなるんじゃないの?」

「やだよ、俺様、お前がいる世界しか興味ねーし。」

「ちょっとは興味持てよ!!」


なんだこの神様。ホントに神様なのか。一人の人間に熱中しすぎだろ。
ため息をつくとアスカがびくりと震えた。……そりゃ消えるって言われたらこうなるよね。


「完結しねえ物語なんて沢山あるだろ?特にプロじゃなければ仕上げれねえんだよ。新米の神様がいきがって世界作っちまったんだ。そうなるこたぁ、わかってたよ。」

「失礼な。」

「ま、目にいれたって痛くないからな、お前は。だから俺様が甘甘対応でさせてやったんだよ。
この物語は完結せずに終わる、でいい。それもまた完成系だよ。終わった終わった万々歳でカーテンが締まらないままのカーテンコールだぜ。」

「ほお、じゃあ入れてみろよ。目にほら、ほら。」

「やめろ!目に指を突っ込むな!目玉ないけれど怖いじゃねえか!とりあえずどうすんの。帰りたいんだろ?」

「それは……」







「名前!」

「っと、び、びっくりした。」


がばっと抱きついてきた人に驚きながら抱きとめると彼女は更に力強く抱きしめ返してきた。
多分、私がここに居ると確かめたいんだろう。

でも、流石に苦しくなってきた……!


「あ、アスカさん、肺に空気がいれれません……。」

「!ちょ、ちょっとくらいは我慢しなさいよ!」


抱きしめていた腕の力を少しだけ緩めてくれた。その顔は真っ赤で。
未だに会うと抱きしめられるからなんというか嬉しいというか人前で恥ずかしいというか。

……私は帰らなかった。

家族にもう会えないのは、少し今も泣いたりするけれど彼女たちを放ってはおけなかったから間違えた道を進んだとは思わなかった。


「おやおや、朝から熱いね。」

「母、おはよ。」

「おはよ、カヲル、渚くん。あれ、今日は早い登校だね。三人とも。」

「今日は誰が早くつくかって競争してて。」

「結局一緒になったよな。」

「ああ!せっかく昼飯代うくと思てたのに!財布持ってきてないで!」

「あ、そういえばマリから皆にって手紙が来てたわよ。学校にいってから読もうね!」



そうしていつもの朝が始まる。
――私のいつまでも完成しない物語がまた、始まる。


(end)


next...キャラ達の紹介&あとがき

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