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「いらっしゃい。マリ。」
「何々、突然。家に来いだなんて。ついに私も告白されるのかにゃー?」
マリは私の家につくなりこう言ってきた。もちろん今日は例のサプライズの予定で呼んだので、決して告白ではない。
まあ入りなよというと、家の主の私よりも先に部屋のドアを開けた。
それと同時にバンバンと破裂音のようなものが響き渡り、少し遅れて煌びやかなテープがはらはらと落ちてきた。
マリはドアを開けたまま固まっていたが何かに気づいたらしくみんなの顔と私の顔をせわしなく顔を動かしながら見てきた。
「お別れパーティだって。あと一週間で帰っちゃうでしょ?だからみんなで開こうって話になってね。でもクラッカーはないわよね。」
「え、えー?!び、びっくりしたよ。」
ちなみにクラッカーはトウジがパーティにはこれや!って言い出して聞かなかったんだよね。
少し火薬くさくなった部屋の換気をするためにドアにストッパーを差し込む。
顔を上げるとすでにマリは皆の輪の中にいた。
「本当だったら来週の日曜にやりたかったんだけれど、アンタの飛行機に間に合わなくなったら嫌だから今日にしたのよ。皆今日のために集まったんだから感謝しなさいよね。」
「あはは、ありがとー!」
「軽いな!ほれ、ケンスケ、あれを渡すんや。」
「ほいほい、りょーかい。はい、真希波。」
「なにこれ、CD?何かの曲でも入ってんの?」
マリに渡された透明のケースに入ったCD。
その中身は先日、クラスの皆でとったビデオレターとなっている。
今から再生したほうがいいわよね。
テレビの近くにあるゲーム機を起動させてマリのほうへ手を伸ばすと彼女は私にそのCDをわざわざケースから出して渡してくれた。
『真希波!あっちにいっても頑張れよ!』
『いろいろあったけれど、元気なマリちゃんって素敵だよ!』
『この前教えてもらった曲聴いてみるね!あっちでも元気でね。』
次々と流れてくる皆の言葉にやっと気づいたのかマリはうわあ!うわあ!とはしゃいでいた。
よかったよかった。よろこんでくれたか。
「これ、姫のはどこらへんから始まるの?」
「なんでアタシをピンポイントで狙ってくんのよ!」
「いやあ、だって恥ずかしがりそうだし。」
「15:37のところだよ。」
「名前も何ピンポイントで覚えてんのよ!」
「私が編集したからね、このビデオレター。」
伝え終わるとアスカはあきらめたのか、額に手をついて深々とため息をついた。
ははは、怒るならこのパーフェクト超人のボディを与えたカミサマを呪うんだな!
しかしマリはアスカのところだけ見ようと動画を飛ばしたりはせず、食い入るようにテレビを見つめていた。
しばらくするとその動画も終わり、各々どんな内容だったとかを談笑していたところにシンジ特製の料理が出てきた。
もちろん味は絶妙ですばらしかった。もう色とりどりな料理を出されたときは嫁にきてくれと言わんばかりだった。
だがしかし嫁になった場合、カヲルがここにきて多分あの家には帰らなくなるだろう。
それは避けなきゃいけない事だ……!!
「ちっと二人っきりで話したいことあるんだけれど、いいかな?」
「ん?じゃあ私の部屋に行こうか?」
袖をくいくいと引っ張られ、何かと思ってみてみるとマリが四つんばいになりながらにこやかに微笑み、私のほうをみていた。
二人で立ち上がり、シンジに席をはずすことを伝えて騒がしい部屋から私の部屋へと向かう。
「どったの?なにか悩み事?」
「んーん。なんだか早かったなあって思って。君と話したいって思って待ち焦がれて、いざそのときが来たらあっという間だったからね。」
「そうね……。」
「最初想像してたのと全然違ったからびっくりしたよー。もっとすんごい人だと思ってたし。ああ、でも名前くんは、料理ができるイケメンだし、勉強面も万能イケメンだし、なによりイケメンなすごい人だけれど。」
「君は私の顔しかみていないのか。」
全く持って心外である。確かにこの顔はイケメンに作られているけれど。
そんな彼女をみてこんな席でも相変わらずだな、と感嘆のため息を吐いてしまった。
彼女のいいところだな、こういうところ。
そんなマリもあと一週間もすれば居なくなるのか……、なんてポツリと脳内で言った瞬間に
私の目から何かが熱い何かが零れ落ち、頬をすべり降りていった。
「あ、あれ?」
頬をさわり自分の手を見てみる。
キラキラと光るそれは……
「えっ!?ちょ、なんで泣いてんのさ!!」
「いやぁ、私もびっくりしてる。」
こんな泣きかたをしたのは初めてだった。
あれ、あれ、泣きやめないなあ。
目をこすってもこすっても止まらない涙についに痺れを切らしたのかマリが私を強く抱きしめてきた。
「……こんなに強く思われてるなんて思ってもいなかったよ。ありがとう、名前くん。私、君のこと大好きだよ。こんなに強く思われてるんだからきっとすぐ帰ってこれるよ。」
「そうね……、また会おうね。マリ。」
「もっちろん!」
私の胸に顔をうずめていた彼女が顔をあげると彼女の目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。