27
「散歩かね?」


そう、聞かれ屈伸を止めてそちらを向いた。
そこにいたのはキールだった。


「朝の運動をちょっと。お互いに早い時間に起きてしまいましたね。」

「なに、いつものことだ。」


キールは私を追い越すと庭の奥にあった盆栽に顔を近づけた。
アニメや漫画では想像ができない、絵に書いたようなおじいちゃんの図だ。
お水をやっているらしく朝日に反射して水がキラキラと光る。


「ときに苗字くん、といったかね。」

「はい?」

「アレとは仲良くやっているみたいだな。」

「カヲルですか?まあ、ぼちぼちですが。」


今さらりと流しそうになったけれど、普通おじいちゃんは孫とも思えるような人をアレと呼ぶだろうか?
アレ、なんてまるで原作通りの呼び方だ。まるで人を人とも扱っていないような呼び方。
普通のおじいちゃんになっても性格は変わらないと思うけれど。
まさか、実は記憶がある、とか……?


「アレは我らとどこか距離を置いている。もちろん、それをとやかく言うつもりもない。」

「……。」


どちらとも取れない。記憶があるかないか、何かヒントになるような事は言わないだろうか……。
キールは背中を私に向けていたけれど、こちらの方を見る。


「君にはどうも心を開いているようだ。自分の居場所に入れるくらいだ。君を見つめている目もどこか特別に思える。」

「き、気のせいですよー。はは。」


まるでそれはカヲルが私に恋をしているみたいじゃないか。
いや、カヲルならありえるかもしれないが、それをおじいちゃんが黙認していいのか?!
見た目は男同士よ?!子孫繁栄もできないからね?!

それにカヲルや渚くんが私を見つめる眼差しはあれは家族に向ける情の目だ。
恋愛等の甘い眼差しではない……、はず。


「君らの事は我々には関係のない事だ、好きにするといい。君はその若き力をどう使うかはわかっているだろうからな。」

「肝に銘じておきます。」


そういうと満足そうにキールは部屋の中へと戻っていった。


「たぬきジジイめ……、しっぽを出さなかったなぁ。カヲルや渚くん、マリもキール達に記憶があるかどうかわからないんだろうな。」


でも、昨日の事を思い出す。
皆で食卓を囲み、喋っていたとき。時には騒ぎ、時には壁に追い込まれ……。
……怖かったなぁー……。

それでも温かったんだ、あの空間が。記憶があろうとなかろうと楽しく過ごしていて、あれがあそこにいた皆の普通になってたんだ。

じゃあ、それでいいか、なんて思いながら運動の続きをする。
もう心配はやめよう。私が創り上げた世界は幸せいっぱい、それでいいじゃないか。


「ねえ、名前。」

「ひい!」

「……。」


誰かが私を名指しで後ろから呼ぶからびっくりして変な裏声が出てしまった。
早る心臓を押さえながら後ろを振り向くとアスカが不機嫌そうな顔で立っていた。


「ご、ごめん、驚いたのよ。ちょっと考え事して。そんなふてくされないでよ、可愛い顔が台無しよ?あとおはよー。」

「……おはよ。今誰もいないからアンタだけに言おうと思って。」

「何を?」


その言葉を聞いてなんだか胸のあたりがざわざわとした。
虫が這い回るようなそんな感覚。今すぐに払拭したい。
多分、これも虫の知らせっていうのかしら。

あまり宜しくはない事なんだろう。


「アタシね、アイツに告白してみようかしらって思ってたの。」

「へ」


アイツって、ああ、そっかカヲルか。
アスカそういえばカヲルが好きだったもんね。
あれ、なんで言葉が出てこないの?

えっとなんだっけ、いつもの私どんなこと言ってたっけ?


「い、いいわね、うん!とてもいい!もー!やだ!青春ね!友達としてしっかり応援するから!」


ああ、そうだ……、友達が離れていく感覚だ、これ。
寂しい、という感じ。カヲルもアスカも付き合いだしたらもうこんな風に皆でっていう事できないのかな……。


「……アンタ、どうかした?さっき何かあったの?ぼんやりしてたし。」

「……多分寝起きだったからかしら。まあ、とにかく!キューピット役なら任せておいてよね!」

「うん、アンタがいれば鬼に金棒ね。」

「アスカが鬼……、うん、合っている。」

「ぬわんですって?!」

「じょ、冗談よ!あ、ほらもう皆も起き出す頃だしそろそろ戻らない?」

「そーね。朝ごはんは何かしら〜♪」

「ゲンキンねえ。」


……大丈夫よ、私。この関係が続くわよ。それが友達ってものだから。
虫の知らせも収まっているし、何事もないわよ。

そう思っていたけれど、
私達の物語は着々と終わりへと向かって行っていた。
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