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「居候中?」
「そんなモン。どうびっくりした?」
「まあ、多少は。」
「うっそだー。名前クンは知ってたでしょ。」
「どうしてそう言えるのよ。」
「勘。」
野生の?あ、いや女性の勘か。なんて彼女の後を追いながら思った。
キョロキョロと周りを見渡す。
カヲルの家は随分と古い作りで広い家だった。
長く続く廊下はフローリングだが歩けばギシギシと音がなり、風情を感じる。
仕切られている扉もふすまで、……こう両手でスパーンとあけたくなる衝動に駆られた。
「あんまりよそ見してっと迷子になるよ。こっちこっち。」
「ちょい待ち、何で二階に上がろうとするの?一階にトイレないの?」
ちなみに皆は大広間に集められている。集められているというより捕まっている。
キールおじいちゃん達に果物やらお菓子やらを勧められているのだ。
そのおじいちゃん達は特に私に狙いを定めたらしく、離れなかったのでトイレと言って席を外した。
その際に案内役として手をあげたのがマリだった。
それでトイレにいくはずだったんだけれど、何故二階なんだ、マリさん。
彼女に聞いても無視を決め込んでいるのかこちらを見ず、階段を上っていく。
はあ、と一つため息を落として私は彼女の後を追い、狭い階段を手すりを掴んで上っていった。
「どーする?とりあえずトイレ行く?」
「とりあえずって事は何か話があるのね。いや、まあ、あの雰囲気から抜け出したかったから後ででいいわ。何か用があったんでしょ?」
「まーねン。じゃあ、回りくどいの好きじゃないから言うよ。薄々気付いてると思うけれど、私は全部知ってる。」
「……君たちは隠すということを知らないのかね……。」
カヲルといい、マリといい、君たちは似たもの同士だなぁ……。
思わず頭を抱えてしまった。それ、あれだよ、人狼で言うなら以下略。
薄々というかほぼ確信に等しかった。私、勘が良くなっているんだよね。
「別に隠さなくていいんじゃない?皆の前で「私があなたたちの創造主でーす★」なんて言っても何言ってんので終わるって。」
「違う意味で終わりそうだからヤダ。」
「面白いと思うけれどにゃー。」
そりゃ君はね。私はその一言で周りの私を見る目が180度変わってしまうだろう。
せっかくこの安定した位置にいるのに。
「でも会えてよかったよ。私この日を楽しみにしてたんだから。」
「会えない可能性もあったんじゃない?」
「その時はこっちから会いにいく!」
「なんて強引な!……いや、まあ、嬉しいけれど。」
「嬉しいのはこっちだよ。まさか私と会いたいって思ってくれるなんて。思わなかったらこんな風に会うことはできなかったよ。」
……確かに私が望まない限りはきっかけなんて生まれないだろう。
ホント、世界は私中心に回ってんのね。どんな事やらかしてもいい具合に進みそう……。
「いや、だからといって悪事に手を伸ばそうとは思わないけれどね。」
「何の話?」
「こっちの話。」
「でさ、こんな世界にこれたのも君のおかげだしさ。お礼言おうと思って。私たちは自由の世界に生きている、なんて思ったらさ。私ちょっと感動してね。だってさ、……戦わなくて済むんだよ。なんだってできるんだよ。友達だって出来るし、恋人だって作れる。」
「……、君たちを幸せにしたかったんだよ。友情を育みなさい、恋愛しなさい、幸せになりなさい、……生きなさい。」
そう言うと、マリは一瞬泣きそうな顔をして少しだけ潤んだ瞳で笑った。
「はは、かなわないや。……ねー、ねー、その身体って事は女の子もイケるの?」
「ホント直球だな!……そぉねー……どっちかしら。」
「私はどっちもイケるよん。」
「顔が近い!」
マリはジリジリとこちらに寄ってきて、ついに身体と身体が触れ合うかというところで何かがその間に挟まってきた。
「遅いから見に来た。」
「その声は…渚くん?」
「おちびクン、邪魔したにゃあ……?」
多分、間に割ってきたであろう渚くん。だが残念ながら私が下を向いてもマリの胸しかみえないんだ、ごめん。
てか君、もしかして頭の上にマリの胸乗ってないか?狙ってやったのか……ッ?!
「なんだか結構会っているはずなのにすごく久々な気がする。」
ページで言うなら4ページ分ぐらい。
しゃがむとやはり渚くんで、やはり頭に胸が乗っていた。
でも本人は気にしていないらしく、表情も無表情に近い。
女の人の身体に興味がないのかな?いや、それはそれで問題がある気が……。
「あーあ、気分萎えちゃったー。せっかくもっと将来的な話しようとしてたのにぃ!」
「心配ないよ、母は僕が幸せにしてみせる。」
「うん、なんだかそれびっくりな発言だなー色々とー。はは。」
「何それ!じゃあゆくゆくはおじさん×青年じゃん!……ちょっと気になるぅ。」
「やめんか!」
同人誌様が食いついたらどうするんだ!
というか渚くんの教育上悪い!
渚くんを見てみるとよくわからなそうな顔をしていたから良かった……。
「まあ、ここからが本番なんだけれどさ。この世界、というより、ここは『あったかもしれない世界』なんだよ。名前クン。それを君が想像し構築して創造した。パラレルワールドとは違う、全く新しいもの。
そしてそれをどうして私達が知ってるかって事なんだけれど。」
「……。」
渚くんも何の話をしているか気づいたのか下に行こうとして、私を引っ張っていた手を緩めた。
「カヲルやレイ。私達はあるかもしれないシナリオってやつを頭に叩き込まれている。」
「シナリオって……、まさか裏死海文書……?」
「そういうこと。ゼーレが隠し地中深くに眠らせてた世界がここ。その世界を無理やりたたき起こしたのがカミサマ、つまり君だね。今はその事も忘れて平和ボケした老人にあいつらはなっているけれど、名前クンが望めば彼らもその記憶を取り戻してやがて名前クンの知っている世界に元通りってわけ。いつだって道はどこかにつながるからね。」
そういってマリは自分の両手のひと差し指を合わせる。
「要約するとこの世界を生かすも殺すも私次第ってこと?」
「簡単に言えばね。ということで自分の保身の事も考えてよろしくって訳で〜♪」
「ねえ、マリ、渚くん。」
私と渚くんを置いて一階へと降りていこうとしたマリを呼び止めた。
……実は私、貴方たちに何度も聞こうと思ってた事があるんだ。
「君たちは今、幸せ?」
その質問に私の顔をキョトンとした顔で見つめる二人。
一瞬の間を置いて渚くんとマリはお互いの顔を見て、そして最後に私の方をまた向いた。
それも笑顔で。
「「もちろん。」」
じゃあ、この世界を殺すことなんてできないよね。
「…………、ねえ、渚くん。」
「なに?」
「……トイレどこ?」
「……そっち。」
「なんか、……ごめん。」