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「ははは、まさかあんな盛大に転ぶとは思わなかったなー。」
「私も年頃の女の子にベルトを掴まれるとは思わなかったわよ。」
赤くなった鼻を擦りながら彼女へ返事を返す。
そもそもなんでこの子は私に執着しているんだ?
原作通りにいけば、マリはアスカと仲良くなるかと思っていたけれど……。
そんな予想は外れ、彼女は転校初日、まっすぐ私の方へと来た。
「君、名前は?」
「へ?苗字 名前だけれど……。」
「よろしく、私、真希波・マリ・イラストリアス。気軽にマリって呼んでよ。ねえ、イケメンくん、良ければ校舎案内してよ。」
不思議に思ったけれど案内しないわけにもいかず、彼女を連れて校舎内を色々とまわった。
それからだ。彼女は事あるごとに私へとべったりとくっつくようになった。
「あのさァ、アンタ距離近くない?」
「そんな事ないよお。日本が他人との距離を離しすぎてるんじゃにゃい?」
「郷に入っては郷に従えってやつよ!」
「ふーん、イケメンくん取られてヤなんだ?」
「はあ?!」
鬼ごっこ(という名の私の独り相撲)が終わり、教室に戻ってくるといつもの光景になった。
アスカはどうも気が合わないらしくマリにちょっかいを出す。
ただマリ自体はそれが彼女のコミュニケーションの取り方とわかっているのか、飄々と受け流すのだ。ホント、この子何歳よ。
「ていうか聞いたわよ!アンタ、こいつ追いかけて男子便所に入ってったンでしょ?!」
「アスカ、人を指ささない。」
「うるさいわね!アンタは黙ってなさい!」
そう言いながらアスカは私を指差していた手を下ろす。
私素直な子大好きよ。
そして、先程アスカが言っていた通りなのだ。マリの執着は男子便所まで及んだ。
「だってついてるか気になったんだもん。」
「はああ?!何当たり前の事言ってんのよ!ついてるに決まってるじゃない!そんなバカな理由で入ンの!?」
「女子が人のをついてるついてない大声で言わないでよ……、あれ?」
マリは何でついてるか、なんて気になったの?
あ、私がオカマだからか……。中学生がそういう手術をするわけないじゃないデスカ。
それに痛そうで怖いし。
「いいじゃん、どうせ3ヶ月くらいしかいないんだからちょっとくらい彼氏くんを貸してくれても。」
「貸す貸さないって話じゃないし、そもそも彼氏じゃない!名前も何かいいなさいよ!そんなんじゃ今度の休みまで……っ!」
そういった瞬間、アスカはハッとして口を押さえる。
あーあ……、言っちゃった。自分から言い出したのに……、と私は苦笑いをしてしまった。
数日前にアスカがいつものメンバーに伝えていた言葉があった。
それは、「名前は今度の日曜日に友達同士でカヲルの家に泊まりに行くと公言しないこと」と。
その情報を知ったらマリが私もと手をあげかねないからという事だったのだけれど……。
正直、私はマリはそこまで空気を読まない子ではないと思っているし、
別に来ても楽しそうだからいいんだけれどね。
ただ、アスカが私の事を思って言ってくれているのも知っているので何も言わずとりあえず頷いていた。
そしてそれを言った本人がまさかの大失態を犯してしまったのだ。
さて、どうするんだろうとマリを見た。
「休みって……、日曜?」
「そ、そうよ?」
律儀に答えるんですね、アスカさん。
「日曜かぁ、君たちと遊べるのは楽しそうだけれど私、人と会うからね。ずっとそれを楽しみにしてたし。また機会が合ったら誘ってねん、ね、名前くん♪」
「え、あ、うん。もちろん。」
「やっりぃ!約束ね!」
なんて年相応な笑みを浮かべたマリ。嫌いになれないなぁ、この子。
アスカの方を見るとどうやら思い描いていた答えと違ったためかポカンとしていた。
開いた口に指でも突っ込んでみようかしら。
「な、なんだ……、ま、まあ、アンタとはまた今度ね。」
「姫も素直じゃないにゃあ。先に約束してたから追加で人をいれるのは相手方に悪いと思ったんでしょ?いーのに、そういうのは言ってくれれば。それにどうせすぐ会えるし。」
「アンタもうっさいわねー……っ!」
「マリでいいって。はい、マーリー。」
「アンタで十分よ!」
「誰に言ってるかわかんないにゃー?」
「だああああ!もおお!!マリ!マリ!これでいいんでしょ?!」
「はっはっは、勝った。」
マリは私の方を見て、ピースサインを作った。
そうね、月曜になればまた学校にきて会えるしね。やっぱりマリは少し皆よりお姉さんなのかもしれないな、なんて思った。
……って思ってたよ、うん。
まさか日曜日にカヲルの家の玄関で会うとは思いませんでしたよ。
彼女は私たちを見ると前と同様ににっこりと笑いピースをした。