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「とりますよ、女性には届きませんって。」

「あら。」


保健室へと入るとリツコ先生が背伸びをして何かを取ろうとしていた。
多分これだろうと思う箱を持ち上げリツコ先生へと渡す。


「こんな私も女性として扱ってくれるのね。」

「あたり前じゃないですか。こんな妖艶な美女早々いませんって。」


ありがと、とだけリツコさんからいわれ、手の中にあった箱をひょいと取っていった。
冗談のようにとられてしまったのか、それとも単に言われ慣れているのかそんな感じの返し方だ。
別に冗談ではないんだけれどね。


「ところで名前くんはどうして保健室に?」

「名前覚えていらっしゃるんですね。」

「当たり前よ。貴方を知らない人なんていないんじゃない?」

「はは、そんな有名人みたいな言い方。」

「有名人よ?自覚ないの?」


そう言われて自覚がある、といえばただの自意識過剰野郎みたくなってしまうじゃないですか。
だけれど、自覚は実はある。女子からだけではなく、男子からもそういう好奇の眼差しがすごいんだ。私、掘られないか毎日不安です。


「それで?最初の質問には答えたくないのかしら?」

「あー……、せっかく話を逸らそうと思ったんですけれど。いえ、ちょっとした鬼ごっこしてて。先生だったら匿ってもらえるかなァって。」


鬼ごっこ、というとリツコ先生は途端に呆れた表情をした。
す、すみません、中学生らしく子供っぽい遊びをしてて……。

私が事情も話さず苦笑いをしていると先生は諦めたのかこっちにいらっしゃいと手招きをする。


「ここにしゃがんでなさい。」

「へ……?」


リツコ先生が指定してきたところは今先生が居るところ。
職員の机があってそこに付属である椅子に先生は座っており、足を組んでいる。


「せ、先生、流石に私がここにしゃがむとヤバイのでは……。」

「あら、問題でもある?」


意地悪でもするかのような声色でにっこりと微笑まれる。
問題ね……、あるとしたら私の目の前にリツコ先生の下半身がくるってことでしょうか。
というか注視しちゃったら見えそうですが……わざとか、わざとなのか。

今の状況とこの提案を秤にかけ、渋々としゃがむ。
背に腹は代えられないというのはここで使うので正しいのだろう。

逃げ切るためにはしょうがないんだ。

……ただ私の身体は現在、思春期を迎えた男の子なわけで……。
少しでもそういう事考えてしまおうものなら身体は反応してしまう。
それだけは今の状態では避けたい。リツコ先生にこれ以上軽蔑されたらこれからもう保健室を利用できなくなる……!


「たっのもー!」


ガラッと音が聞こえると同時に誰かの声がした。
もちろん、その誰かというのは机に隠れていて見えないけれど私にはわかった。
彼女が鬼なのだ。いや、鬼というか、……私が逃げているだけなんだけれど。


「あら、転校生じゃない。怪我でもしたの?」

「いえいえー、ちょっとした人探しを。目撃情報たどってここまできたんですよねー。」


声はのほほんとしているのに、どこか裏を隠しているような獲物を狙っているような雰囲気をだしている。
見つかるかもしれないという緊張からかドキドキと心拍数が徐々に上がっていく。


「先生は苗字 名前くんっていう2-Aの口調は女言葉で、性格はさっぱりしてて、女子男子ともに優しくして、頭良くて金もあってなんでもそつなくこなす天才タイプの超絶イケメンな生徒見ませんでした?」


――誰それ?!
思わずツッコミをいれそうになった。そんな完璧超人みたいな人いるかよ!


「ああ、名前くんならここにいるわよ。」

「えッ?!」


驚いて上を見上げると確かにリツコ先生の指は私を指していた。


「ちょ、リツコ先生!匿ってくれるって……っ!」

「私は匿うとは言ってないわよ?しゃがんでなさい、と言っただけよ。それより、逃げなくていいの?」

「っ!」


急いでしゃがんでいた状態から、逃げようと手をついてダッシュをする。
……はずだった。
時は既に遅くズボンに通していたベルトをマリから掴まれていて、私はバランスを崩し、床にキスをした。
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