20
「ただいま!マイホーム!」
「おかえり。」
「さらっと私の家に居座ってるんじゃないよ、キャベツ王子め。」
まさかこんなに早くこの前言っていた事が実現できるとは思わなかった。
キャベツと言われて頭をかしげているカヲルの奥から小さい子が小走りで走ってきた。
「母、お土産。」
「修学旅行じゃないからお土産はないかなぁ。おかえりは?渚くん。」
「おかえり。」
小さい手を両方とも合わせておねだりをされたから、そっとその両手を握る。
渚くんはおかえり、というのはムズ痒かったのか、
ちょっと照れているような、言いづらそうな、そんな複雑な顔をしている。
そういえば、いつもは私と一緒にこの家に帰ってきたり、カヲルと一緒に来たりするから私自身におかえりというのは初めてかもしれない。
「どうだった?楽しかったかい?」
「かなりね。ああ、でも一つ驚いたことがあってさ。」
「母でも驚くことあンの?」
「あるよ、私を誰だと思ってるのさ。」
渚くんにとって私はどれだけ偉大にうつってるんだ。
ていうか中身はつい最近までみんなと同じ、普通の人だったんだからね?
「それで?何に驚いたんだい?」
「風呂。」
「風呂?」
「女子は割と隠すタイプなんだけれど、男子って比べたりすんのね。」
「ゾウさんがいっぱい?」
「渚くん、そこでストップね。私の人生は健全で行きたいのよ。」
女子たちがお風呂に入って「きゃー、××さんの胸おおきい〜」とか「揉ませて〜」とかいうのは所詮、エロゲかアニメだけの話なのだ。
大きいとか小さいとかは比べるのは失礼だと思ってしないのかもしれない。
「だがしかし男はどうだ、タオルで隠そうものならやれ見せろだの、やれ隠すなだの……、お前らは私の何を見たいんだ!ホモか!ってなってたね。」
しかも見せたら「顔はいいけれど……っていうのを期待していたのに」とか落ち込まれたし。そんな期待されても困るわ。
「確かに比べるというのはあるね……。でも君の場合、単純に見たいと思ってた人もいそうだよね。」
「マジなホモが居たのか!!私、清らかな身体でいたいの!!」
「僕は何度も名前のを見たことあるけれどね。」
「どこと張り合ってるんだ、キャベツ王子。」
なんだかこういうやり取りをすると帰ってきたなぁって思う。
やっぱり落ち着くなあ、我が家は。
ここにきて数ヶ月しか経っていないんだけれどね。
そういえばキャベツ王子で思い出したんだけれど……、
「カヲル達ってどこに住んでるの?」
「どこって……、ああ、それでさっきからキャベツと言っていたんだね。」
「僕ら老人ホームにいるんだよ。」
老人、ホーム?
確かに孫として可愛がられそうだけれど、あそこって住む場所ではないんじゃ……。
「正確に言うならば君が知っているキール議長達が住んでいる場所に、だね。」
「兄が『老人ホーム』って毎日言ってる。」
「こ、こら……っ!」
そんな風に思ってたのか、議長たちを。泣くぞ、彼ら。
「でも似たようなものなんだよ、彼ら僕よりも心配症でさ。カヲルが居ないと僕にすぐに電話がかかってきて、カヲルが居ないと代わる代わる電話口で言ってくるし、果物を剥いて部屋に持ってきたりしてさ。」
「うっかり議長たちに萌えそうになったわ。」
何そのほのぼの。なんでそれを原作でしなかったんだ。
小言のようだけれど、聞き様によってはなんだか身内自慢しているようにカヲルは続けた。
……君はここの世界では幸せなんだね。よかった。
「そうそう、カヲルをここに預けていると言ったら今度、名前にお世話になってますと連絡すると言ってたよ。」
「老人たちの話は長いよ。関係ないこと喋るし。」
「勘弁して。」