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布団に丸まると幸せだといつから感じていただろう。
小学生の時はきっとそんなことは思っていなかったはずだ。
学校や勉強が嫌になり、いつまでも眠っていたいと感じだしたのは多分中学生からだろうな。

ましてやその学校がない日だったら尚更布団が天国のように思えてくる。


「あと3時間……。」

「時間がリアルすぎるよ。昼まで眠るつもりかい?」

「休みだからいいじゃん……。」


ゆさゆさと揺り起こされるのを止めるために声を出すとすぐにカヲルの声で返事が返ってきた。
そういえば明日は休みだからと泊まっていったんだっけ……。


「それより電話の相手が変われって五月蝿いんだ。出てくれるかい?」


無理やりに手に握らせられ無意識にそれを耳元に持っていく。
先程までカヲルも喋っていたのか耳元に持って行ってもヒヤリとした冷たさはなかった。


「……はい。」

「苗字さんかね?」

「……。」


一瞬だけ脳が止まり、携帯の下の方を押さえる。
あまり意味がないかもしれないけれど、聞こえてしまったらちょっと嫌だから。
カヲルの方を見ると苦笑いをしている。


「もしかして……、キール議長?」

「ご明察。」

「おま、なんで変わったの……っ!」


電話の相手はキールだった。昨日の今日でフラグ回収が早すぎやしませんか。
キールは電話の向こうで「もしもし」とか「つながっているのか?」とか言いながら何かを叩く音を出している。
昔の家電じゃないんだから携帯は叩いても直りませんよ、おじいちゃん。


「……もしもし。少し電波が遠くなってました。えっと、私が苗字です。」

「つながったか。いつもカヲルが世話になっている。」


カヲル呼びだ!新鮮だ!
そっか、こっちでは使徒ではないから使徒の名前は無いも同然なんだよね。
奥でキール以外の声が変われだのワイワイやっているけれど、こちらとしてはこのままでいて欲しかった。


「お礼を言わねばと思っていたが中々できずにいたからな。カヲルがそちらに居ると聞いていたから電話を変わってもらったのだ。7時に電話をかけたのだが中々カヲルが変わってくれずにな。」

「そりゃ……、わざわざどうも……。」


7時って……、君たちは2時間近く喋ってたのか?ちらりと時計を見ると9時を少し過ぎたところに針があった。


「いや、一度切ったんだよ。多分、君と喋るという本当の目的を忘れて僕と話し込んだんじゃないかな。」

「おじいちゃんあるあるね。ていうか盗み聞きよくない。」


盗み聞きするためにこんなに受話音量をあげていたのか。
どおりで耳から離していても聞こえると思ったら……、お前は私の彼氏か。
受話音量を最小まで下げるとキールの後ろから聞こえていたざわめきも聞こえなくなった。


「いつもカヲルを泊まらせてもらっているのにこちらは何もしないというわけにはいかない。そこでだ、苗字さん、うちに泊まりにこないか。」

「……へ?」

「なに、一人でとは言わん。友達も呼ぶといい。歓迎する。」


私の想像しているキールといえば。
一つの目的に対して執着し、それに対して厳しい姿勢で取り組んでいる。
渚くんやカヲルの事をシナリオの一部にしか考えていない冷静で固く閉ざした人、だと思っていた。

今話しているキールは実は違う人なのか?と疑いたいくらいしっかりとおじいちゃんをしていた。
電話は切れ、携帯からはツーツーと無機質な音が流れてきている。

そっか、なんだ。この世界はホントに……、幸せに満ちているじゃないか。


「電話終わった?」

「渚くんも起きてたのね。」

「アニメみてた。」

「そっかそっか。私はてっきりおじいちゃん達の電話攻撃から逃げているのかと思ったよ。」

「……。」


図星のようだった。
渚くんは何も言わず、またテレビのある方へと戻っていった。
未だにツーツーと鳴り続けている通話を切り、携帯をカヲルに返すとカヲルはそのまま携帯を胸ポケットへとしまった。


「そうだ、君の存在の話だけれど、老人たちは名前を神だと知らないよ。」

「それは良かった。別に私も自分のこと、神だとは思ったことないけれどね。ただ君たちの住む世界を構築しただけ。それだけよ。あとはなんにもやった事ないし。」

「ふふ、君が奇跡を起こしてしまったらきっと老人達は僕よりも君に固執するだろうね。」

「勘弁してよ!」


まさかの前回と同じオチだった。


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おじいちゃん的には実は苗字さんは女性だったら嬉しいなって思ってたよ。
だって孫(に近い存在)の彼女だと思ってたから。
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