18
生徒が集まる1Fのホール。
そこには大きな画面で映し出されるホラー映像や心霊体験を追ったドキュメンタリーなど。
これから行われるレクリエーション……、というか肝試しのための前座だ。
特に得意不得意って訳ではないけれど、出来ればこのレクリエーションは不参加にしてほしかった。
……実はさっきまで一緒にいた子は足を捻挫している為、不参加だったから。
「アスカを置いて楽しめって言われたってねぇ。」
「アンタね……、アタシが行ってこいっていったセリフを撤回させるつもり?」
ごすっと鈍い音を立てて脇腹を肘で突かれる。意外と痛く、一瞬息が出来なくなった。
この子……、強いわ!
なんて二人で画面そっちのけで話していると画面が暗くなり、音も消える。
不意に訪れた無音が気になり画面を見ると注意事項が書かれた画像になっていた。
「はーい、じゃあ今から班になって肝試しをします。本来だったらキャンプファイヤーだったんですが、木とかが朝の雨とか湿気にやられちゃって使い物にならなくなったのでー。」
そうしてミサト先生は画面に書いてある注意をそのまま読み上げていき、皆に質問は?と投げかける。
「はい。」
「はい、苗字くん。なにかしら?」
「面倒なので不参加というのは?」
「正直に言う事はいいことよ。でも却下〜。」
「じゃあアスカと一緒なら参加します!」
「ハァ?!アンタ何言ってんの?!」
「そーよ、地面は雨でぬかるんでるのよ?それで怪我が酷くなったらどうするの?」
「私がずっと背負ってます!」
「アンタ、バカァ?!」
おう!ここにきて突然の決めセリフ!名言!
ちょっと感動していたらミサト先生が「確かにアスカにも参加させたいんだけれど……」と小さく漏らしていたのを聞き逃さなかった。
秘技、私の地獄耳!立ち上がり、さも熱い心を持ったような演出をする。
「先生、私はクラスメイトとの仲を深めたいのです。林間学校とは級友との集団合宿訓練も兼ね、かつ交友を深めるものと聞いてます。私は彼女との思い出を一つでも潰したくないんです。」
「名前……。……センセェ……、アタシも彼らと行きたいです。怪我は……、自分で責任をもちます。」
「……はぁ、まあ、そういう責任感を持つのは大事よね。わかった。でも言いだしっぺなんだから苗字くんがアスカと同じ班で行きなさいよ?」
ミサト先生は私にウインクをしてくれた。彼女が機転を利かせてくれたんだろう。
やりぃっ、とアスカとハイタッチをして座る。
その後、結局班を組み直し私はアスカ班へと合流した。
(その時に男子が一人私の班にいった。なんかごめん。)
……肝試しはクラスの順番になっていて2-Aの私たちは先頭の方を歩いて行った。
特にアスカの班は最初の方で時間を待たずにすぐに出発する。
「苗字くんが居たら、お化けも怖くないかもしれない……、なんて!」
「あはは、流石に私もお化けは素手では触れないなあ。」
「ねえ、苗字くん、ちょっとひっついてもいい?」
「おっけーよん。」
アスカを背負い山道をひたすら歩く。
途中で先生達が驚かしてきたせいか女子達が驚き、みんなで団子になって移動をする。
それでも怖い感じではないので、キャイキャイと女子の花が咲くような雰囲気になっている。
……ただ一人を除いて。
私の後頭部がピリピリと刺さるような視線を受けている。
私の後ろに居るアスカの視線だ。
「あ、あのー、アスカさん?」
「なによ。」
「視線が痛いです。後頭部が視線でハゲます。」
「どこ見てたってアタシの勝手でしょ?この八方美人め。」
機嫌がとてつもなく悪いようで。
でもさっきの捨て台詞から察するに私が誰かと仲良くするのは気に食わないんだろうか……。
嫉妬か……、ちょっと嬉しいな。
しかし、アスカまでも私に母性を見出してしまったのか……。
「お母さんって呼んでいいのよ?」
「どうしてそうなんのよ!」
「アスカちゃんと苗字くんって仲がいいよね。さっきもそうだったし。」
「そーね、私アスカ好きよ?」
「「え?!」」
驚きの声が何人からか上がった瞬間にピースをする。
そのとき、キラッと何かが光り、フラッシュの後にパシャリと音がした。
実はカメラマン見えてたのよね。
でもその行動がアスカのカンに触ったようで……。
「だ、騙したわねーッ!!!」
「え、何が!?ってアスカ暴れないで!!」
なんて騒がしい声が夜の山に響いた。