16
私はバスから降りて両手を精一杯伸ばし、すうっと息を吸い込む。
「うむ、いい空気だ。」
朝は雨が降ったのか葉っぱを見ると露が残っており、雨の匂いのようなものがあたりを包んでいる。
この雰囲気すきだなぁ、なんて思いながらとりあえず、まだ湿っている地面に荷物を置こうとしているバスの運転手さんから荷物を受け取る。
少しだけ肌寒くなってきたのでジャージの袖を伸ばした。
「はぁい、じゃあとりあえずミーティングするから各自しおりに書いてある部屋までいって荷物置いてから1Fのホールに集まってね。10分くらいあげるからトイレとかも済ませておいてねー。」
ミサト先生の号令が飛ぶとみんなは返事をまばらにすると各々が自分の部屋になるであろうところに向かった。
私も女子の領域の方についていきそうになりアスカから怒られてしまった。
「おお、二段ベッド!」
「苗字くん、どっちがいい?」
「私、下。トイレ近くなったらヤダもん。」
「ラッキー、じゃあ俺上な。」
4人部屋はただ両端に二段ベッドが置いてあるというかなり狭い部屋だったけれど、これはこれでちょっと楽しいかもしれない。
枕投げはできなくても怪談とか……、恋バナとかね!
「じゃあ、夜は恋バナね!」
「乗り気すぎるだろ、苗字!」
こういうところで男子同士で何をしゃべっているか少し気になっていたのよね。
女子は恋バナかと思いきや、割とどうでもいい話を駄弁ったりテレビをみたりしてツッコミをいれたりと青春という感じの事はしていないんだよね。
荷物をおいて皆と合流し、ぞろぞろと1階へと向かうとすでに人は集まっていた。
急ぎ足で自分のクラスへと並び腰を落とす。
どうやら最後らへんだったらしく、私たちが腰を下ろすと同時に先生たちが喋り始めた。
「じゃあ、これからの行動ですが、まず昼食の時間となります。それから各自部屋に戻り、リュックにはしおりに書いてある必要なものをいれて2時までにここに来ること。2時までは自由時間です。集まり次第ハイキングとなります。こちらは班が決まってないのでクラスで集まってください。」
その事をぼんやりと聞いていたらアスカがこっちを振り向いてきた。
どうもアイコンタクトで一緒に行こうと言っているみたい。
一回頷くと満足そうに前を向いた。
「じゃあ、以上、解散。」
「……はぁ。」
「なァに辛気臭いため息ついてんのよ。名前は楽しくないの?」
どっこいしょ、なんて言いながら立ち上がっていたらいつの間にか前にアスカが仁王立ちしていた。その後ろには委員長、……ヒカリ、いや、アカリだっけ?
「楽しいけれど、今から山を登るとなると私は気が重くて気が重くて。若い子についていけるかしらって。」
「何いってんのよ、アンタが一番このクラスで体力値高そうじゃない。」
「ふふ、なんだか苗字くんはたまに大人に見えるね。」
「おっさんくさいだけよ。ヒカリ、別にコイツなんかにオブラートに包まなくても。」
「あらやだ酷い。」
……やっぱりヒカリだった。
昼食に行くと人がごった返していたけれどなんとか三人分の席がとれ、ゆっくりと女子話をしながら(といってもほとんどアニメやドラマの話だったけれど)食べていたらいつの間にか2時前になっていた。
荷物を取ってホールへと行き、ハイキングの説明を聞いてから外へとでる。
「うん、いい空気!」
「苗字くん、それバス降りた時にも言っていた。」
「おお、びっくりした。レイと話すのなんだか久しぶりね。というかレイ確か一番前じゃなかったっけ?」
「下がってきた。」
「あれ?アンタ何でここにいんの?出席番号かなり前だったでしょ?」
私に追いついてきたアスカが私と同じ質問をレイに投げかける。
レイはもう面倒だと思ったのか黙ってしまったのでアスカが無視すんな!って怒っている、……なんかごめん。
一緒にいるヒカリも苦笑いだ。
「なんや、名前は綺麗どころ引き連れてハーレムかいな。」
「おー、愛しのトウジ、私にとって君が一番だよ?」
「やめんか!」
「茶化した時にソレで返すのテンプレ化したな。」
意外と楽しいんだ、これ。
一番楽しいのはシンジなんだけれど、最近はその危険を察知したのか茶化すのをやめているらしい。
そして私はアカ……ヒカリの背中にまわり、ニコっとトウジに微笑みかける。
「ほら、綺麗どころ君にもおすそ分け!」
「「なっ?!」」
綺麗なハモリをするトウジとヒカリ。もうお前らくっつけよ。
ぎゃいぎゃいと二人から色々言われるけれど耳を人差し指で塞ぐ。
君ら顔真っ赤なのに何言ってるのか。
肩をトントンと叩かれ振り向くとアスカが何か真剣な顔をして私の方を見ていた。
指を外し、彼女の言葉を聞くとどうもしおりを落としたらしく取りに行ってくるという。
「大丈夫?私の貸そうか?」
「ん、そうしたいのは山々なんだけれどアタシ、班のリーダーなのよね。色々書き込んじゃって。ちょっとすぐに戻るからアンタたち先に行っておいて。」
「アスカ、私もついていこうか?」
「いーのよ、ヒカリはスポーツバカの接待でしょ?ちゃちゃーっと走って行ってくるわよ。」
「せっ、接待なんてしないわよ?!」
「じゃ、行ってくるわ!」
私たちの輪からアスカが抜けて、走って逆走をしていった。
早いものですぐに背中が小さくなっていく。
……そしてしばらく歩いた時に誰かが口を開いた。
「……ねえ、アスカ遅くない?」
私の嫌な予感って当たるのよね。この身体になってから特にね。