渚カヲルハッピーバースデー
「僕の誕生日なんだ、今日。」

「まさかの最っ初からクライマックス!」


下駄箱についたら、生徒会長ことカヲルがそこに立っていた。
何かを伝えたいのかと思ってしばらく見つめ合ったけれど、何も言わなかったから靴を入れていたら突然のカミングアウト。

いや、前からエヴァのファンだったから知っているけれどね!


「……何かほしいの?創造することはやった事ないから、高級車ほしいとか言われても作れないからね。」

「どうして高級車なのさ。運転出来ないよ?」

「いや、なんかカヲルって登校時は自転車とか似合わないからさ。」


白馬とか高級車の後ろとかで乗ってきそうだなって思っていたけれど、
白馬に乗ってきたら、さすがに引くだろう。どんなに似合っていても。

ところで私にわざわざ言いに来たということはやはり祝ってほしいということだろう。


「祝うなら渚くんと一緒よ?おんなじ誕生日でしょう?」

「話が早くて助かるよ。じゃあ今日、君の家に行って良いかな?」

「どうせほぼ毎日きてるくせに。」


私たちの会話を聞いていたのかどこかできゃあきゃあと小さく叫び声みたいなのが聞こえる。
傍から見たらホモだよね。うん。
しかしこの世界にも腐女子はいたのね。なるほど、生きやすい世界だ。
さすが私が作った世界だけある。

カヲルは満足そうに頷くとどこかへ歩いて行ってしまった。


「あ、おめでとうって言えばよかったな。まあ、後で言えばいいか。」


というか今更だけれど、おはようすら言ってないぞ?
そんなに私に誕生日であることを伝えたかったのか。

彼の誕生日である今日、9月13日。
そんな彼にとって大切な一日は学校の所為でほとんどをつぶされてしまった。
けれど夕方に家に来た彼の顔はニコニコと上機嫌だった。


「母、今日僕誕生日。」

「そうか、君は本当にお兄さんそっくりだな。」

「同一人物だからね。おめでとうは?」

「ふふ、お誕生日おめでとう、渚くん。」


おめでとうという言葉を伝えると同時に頭を撫でるとネコのように目を閉じ喜んでいる表情をしていた。


「兄より先に言った?」

「ああ、ホントだ。カヲルより先だよ。」


渚くんに言われてカヲルも気づいたのかポカンとしている。
面白い表情だった。


「玄関口でなんだし、早く中に入りなよ。」

「あ、失礼するよ。」

「ただいま。」


渚くんは常連すぎて既にお邪魔しますからただいまにいつの間にかなっていた。
家族が増えたみたいで嬉しいけれど。
この家、だだっ広いのに一人しかいないから空間が広すぎて少し寂しいと思っていたんだ。


「アスカとかレイは呼ばなかったの?」

「せっかくならこの二人っきりでお祝いしたかったからさ。」

「三人だよ。」

「カヲルも一応僕だろう?だから苗字名前と渚カヲルの二人っきりさ。」

「なるほど。」

「たまに渚くんは純粋すぎて変な方に足を踏み外さないかお母さんは心配ですよ。」


台所に立って、手を洗いながら渚くんを見たけれど彼はこっちを見て首を傾げるだけだった。ああ、もう、そういうところが純粋なのよ!

さて今日はハンバーグとポテトサラダとスープにしようかな。ケーキは後ででいいよね。
半熟の目玉焼きを乗せて、それで完成にしよう。ハンバーグは少し味を濃くすればいいかな。ポテトサラダはさつまいもにしよう。


「母。」

「ん?なんだい?台所に立つ母は良かろう?」

「そだね、お母さんって感じがする。」


考えていたらいつの間にか渚くんが近くに来ていた。具材を見に来たのかまな板に並んでいる食材をまじまじと見つめている。
さて君はこの具材が何に化けると思う?


「そう思ってくれるのは嬉しいよ。今日はたんと甘えなさい。」

「うん……、そうするよ。……兄が言ってたんだ。」

「カヲルが?何を?」

「今日は僕らが生まれた日でもあるけれど、母が生んでくれた日でもあるからって。だから僕らは君に感謝もしなきゃいけないって。」

「……。」


子をもつ母親はこんな気持ちになるのだろうか。突然の言葉に思わず胸が締め付けられ、少し涙が出そうになった。
私も親に孝行しておけばよかった。


「だから、手伝える?」

「うん、ありがとう、じゃあ渚くんはたまねぎの皮を剥いてくれるかな。」

「ラジャー。」


小さな手で剥いてもらったたまねぎを使ってポテトサラダを完成させた。
(たまねぎはいつの間にかかなり小さくなっていたけれど)
他の料理も出来上がり三人で食事をとり、ケーキも食べた。

その際に暗くしてろうそくにつけた火を消すこともしたけれど、
その時の渚くんのはしゃぎっぷりがすごかった。


「今日はありがとう、僕らのわがままに付き合ってくれて。」


私は片付けをしなきゃいけなかった為、渚くんが一人でお風呂に入っている時にカヲルがしゃべりかけてきた。
片付けも終わり、蛇口を閉めソファに座るとカヲルは後ろに周ってきて「肩でも揉むよ」と言った。


「生んでくれた私に親孝行?」

「……カヲルから聞いたのかい?」


彼の顔を意地悪に覗き込んでみたら少し照れくさそうにしていた。
肩を揉む力が心地よい力加減で気持ちよくなる。
……あと、すごいガチに肩揉んで来るんだけれど……。
君はマッサージ師にでもなる気か?
カヲルの誕生日なのにな。ちょっと笑ってしまう。


「さて主役くん、今度は君のワガママを聞いてやろう。」

「いや、僕今日はもう色々してもらっているし……。」

「気にしなさんな、今日いっぱいはなんでも聞いてやろう。」

「……じゃあ、ひとつだけいいかい?」


……そして今に至る。
ふわふわとした髪の毛が私のふとももに乗っている。
膝枕、といえば膝枕なんだけれど、私の手には耳掻き。

そう、耳掻きしてほしいと言われた。


「どんな甘え方なのさ……。」

「これが僕の精一杯さ。」


ふふ、と苦笑いじみた笑いが聞こえた。
ま、いいけれどね。簡単なお願いだったし。


「カヲル、」

「うん?」

「お誕生日、おめでとう。」

「……ありがとう、僕に生を宿してくれた名前に生まれてきてよかったと思えるような一年にするよ。」

「うん、それが私にとって一番の親孝行だよ。」


耳掻きをおいて頭を撫でると渚くんと同じように嬉しそうに
ニコニコと笑いながら気持ちよさそうにしていた。


ちなみにこの後、渚くんも張り合って耳掻き争奪戦みたいなことが起こったのは、
また別の話。

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