夏
週の初め。
それは大きな粒が落ちてくる日だった。
時間つぶしに点けていたテレビでは「洪水に注意してください。」だの同じことを何度も何度も言っていて
ちょっとうんざりとしながらそれを眺めていた。
月曜日、それは一番厄介な日だ。
やる気が出ない、これからまた一週間面倒な日が続く。
「日曜日が恋しいなあ。」
なんて思ったけれど、そんな思いが一瞬ですっとんでいった。
……ああ、そういえば日曜日になったら会えないんだった。
だったら月曜日というのは楽しみな時間が始まる一日なのかもしれない。
ピンポーンと間延びしたような音が響く。
時計を見てもいつもより随分と早い時間。
もしかしたら彼じゃないのかもしれない。
「はい。」
「やあ、おはよう。」
ドアを開けると少し髪がしっとりと濡れていた彼だった。
時間をもう一度見てもやはりいつもより早い。
その私の動作に彼はクスリと笑いを漏らす。
「早い、って思ってる?」
「うん。学校で朝練か何かあるの?」
「雨が降っていたからね。少しでも早い時間に出ようかなって思って。……随分と早くについてしまったみたいだね。」
勝手知ったる自分の家、とでも言わんばかりに靴を脱ぎ部屋へと入っていく。
その時に小さくおじゃまします、とは言っていくけれど。
「とかなんとかいっちゃって、ホントはこの部屋に来たかったんでしょ?」
「……バレたね。」
飲み物をカバンから取り出そうとしていた彼は顔を上げ、私の方を見るとぺろりと舌を出しておどけてみせた。
まったく、なんて思いながらもそんな風に思ってくれる彼を愛おしく思う。
「まだ時間あるんだし、座ったらどうだい?もう準備は終わっているんだろう?」
「うん、そうね。」
カヲルくんの左隣に座ると彼は私の右肩に手をおいてきた。
いつもしないような動作に少し驚きながら、それを確認したくて横を見ようとしたが彼の顔が隣に来ていたので見れなかった。
ちゅ、と小さくリップ音が耳元から聞こえてくる。
「ん、ちょ、な、……。」
「キス、だけ。」
少しだけ低い声は下半身に響くからやめてほしい。
リップ音は繰り返し私の右耳をくすぐる。
左に身体をずらそうとしても彼が右肩においている右手で押さえ込んでいて逃げれない。
……その為の右手だったのね。
「ね、そんな事してたらシたくなるんじゃない……?」
「……そうかもね。さ、そろそろ行こうか。」
カヲルくんはキスをやめるとすっと離れ、カバンをもつ。
……こいつめ、火照った身体どうしてくれる。
自分もちょっとドキドキしている胸を押さえながら必要な荷物がはいったバッグを肩にかける。
カヲルくんは既に玄関の方へと向かっており、ドアを開けて待っていてくれた。
外はさっきまでホントに雨が降っていたのかというくらいの晴天へと変わっていた。
「うわ、あっつ。」
「湿気が多いからね……。」
「日焼けしそう。」
「はは、日焼けしたら名前の日焼けした部分、なぞらせてね。」
「な……っ!」
「ああ、でもその時は……」
シたくなるから、時間があるときにね。と、また右耳に囁かれた。
……少しだけ、日焼けしようかな。
なんて。
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