お題 | ナノ


  どこかに行かないで


「カヲルくんは?」

「知らない。」


同じチルドレンの碇くんからはそうぶっきらぼうに返されてしまった。
最近そうだ。私がカヲルくんの名前を出したとたんこれだ。

私に好意があるのか、それともカヲルくんに好意があるのか。
多分、おそらく後者だろう。私はそこまで彼と仲良くはない。

ため息を一つこぼして私はその場を立ち去ろうとすると後ろから声をかけられた。
もちろん声の持ち主は今しがたぶっきらぼうに返事をしていた碇くんで。


「何?」

「どうせ着替えだし、この道通るからここで待っておけば?」


少しだけ、目を見開いて驚いてしまった。
あれ?彼は私を毛嫌いしてるものだと思ってた。実はさっきのは前者で私の事好きとか?などとちょっとだけ期待したが、彼の表情を見てもぴくりとも変わっていない。


「……ん、ありがと。」


素直に彼の言葉に従っておけばいいだろう。多分彼の言うとおり私のお目当ての人は着替え中だろうし。

碇くんとは少し離れた場所に座る。お互いに無言で空気が痛く感じる。
確かに待っておけばとか言われたけれど、……呼び止めたんだから何か話でもしなさいよ。

理不尽な心の文句を目線だけで訴えようとすると、視線を感じ取ったのか彼は顔をあげて私の方をみた。


「何?」

「い、いや、べつに。」


まさかホントに気づくとは思っていなかったから、バッと目をそらす。
あからさまに拒否した自分に気にしなかったかのように「苗字ってさ……」と声をかけてくる。


「渚が居なくなったらどうするの?」

「どうって……、別に。こんな……、化物と戦っているからいつ死ぬかもわからないし。」




なんなら私が死ぬかもしれないし。そうだよ、あんななんでもこなしそうなカヲルくんがヘマをしそうもない。

不意に自分の立場が死と隣り合わせだったことに気づきフルッと身体が震える。


「でもその前にカヲルくんにこの気持ちは伝えたいとは思う。」

「知ってるんじゃない?結構ベタベタしてるだろ?ああ、でも渚のことだし、そういうの疎そうだな。」

「だよね。」


ベタベタ……してても気づかないんだ、あの人は。
また会話が止まった頃にキュッと何かが床に擦れる音がして、顔をあげるとカヲルくんが不思議そうにこちらを見ながら歩いていた。


「何してンの?二人で。」

「別に。話していただけだよ。じゃ、僕行くから。」

「ああ、うん。」


特に盛り上がる話題もなく、ただいつもよりかは少し話していたかもしれない。
立ち上がりずっと不思議そうにしていたカヲルくんに近寄る。


「行こう。今日は私の方が戦闘シミュレーションの点数が高かったんだからアイスおごる約束だったでしょ。」

「……ん、了解。」


私は何時もどおり彼の手をとる。ぎゅっと握る手は子供のように暖かくて。
……このぬくもりがなくなるなんて事、考えたくもなかった。


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