二日酔いプリンス
皆さんが色々やらかした次の日。
酔っていた人達はケロリとした顔で朝ごはんを食べにきた。
「さすが、私より年上なだけありますね!お酒に強いんですね!」
「年寄り扱いすんなっ!」
「僕ら三十路手前だしね……。」
シンジさんがそう言った瞬間、ビシッと何かのひび割れたような音が聞こえる。
そちらを見たらシンジさんが固まっていた。
数秒後、奥の方からカラーンと高い金属音が響く。
まさか……と思い姫を見ると投槍体勢のままで停止している。
――姫の前で年齢の事を言うのはやめておこう。
さて、ここで私はキョロキョロと周りを見回す。
今の時間帯なら彼は既に食事を終わらせ、本を読みながら紅茶を飲んでいるはずだ。
気になってしまいちょっとご主人の様子を見に行こうと席をたったら、先ほどまで固まっていたシンジさんが私に向かっておいでおいでをしていた。
「名前さん、カヲルくんのところに行くんでしょ?良かったらお水持っていってくれない?」
「お水……?あぁ……。」
もしかして二日酔いなのかな?
ん!?ちょっとまって、ご主人昨日ほとんど飲んでなかったよね?
まさかの一番お酒弱いタイプ?!
ご主人の新たな一面を知れてちょっと嬉しいし、あんな完璧な人でもそういう事あるんだと驚いた。
シンジさんからお水を受け取り、ご主人の部屋へと向かう。
彼の部屋は私達と同じ作りのドアをしている。
以前彼に主人なのだからもう少し豪華な扉にした方がいいんじゃないかと言ったけれど、優劣をつけたくないんだとやんわり断られた。
そんな扉を叩く。
中からかすれた声でどうぞ、と聞こえてくる。
あまりのかすれ具合に風邪をひいたんじゃないかと疑ったくらいだ。
中に入ると外からの光がカーテンで塞がれているので部屋はうす暗く、隙間から差し込む日光でようやく見えるくらいだった。
「シンジくん、ごめん……。」
おや、ご主人は私をシンジさんと勘違いしているようだ。
そうだよね、こういう気遣いを一番にするのはシンジさんだもんね。
私ですよ、と声をだそうとしたらご主人の発した声でかき消されてしまう。
「僕さ、昨日マリから聞かれたんだ。名前さんの事。」
「えっ」
ふいに自分の名前が出てきて声を出してしまう。
私の声が聞こえてしまったのかご主人は私の方を向きながらガバッと起き上がった。
ばっちり、ちゃんと私と目があう。
「え、えっ、あれ、シンジくんは?う……っ」
「あぁっ、そんな急に起き上がるから……!二日酔い大丈夫ですか?」
頭を押さえるご主人にお水を渡すとお礼をいいながら飲んだ。
「ご主人……、私辞めなきゃいけないんですか?」
「え?なんの話だい?」
「いや、だってマリさんと私の話をしたって……。マリさんと私の共通点と言えば壷ですし……。」
ここ、すごく居心地がいいのに、離れなきゃいけないんだ……。
いつか来ると思ってた日がこんな早く訪れるなんて思っていなかった。
皆に、会えなくなる。ご主人にも……そう思うと視界が滲んでくる。
「君は何か勘違いをしているようだけれど君はここを去らなくてもいいよ。」
頭に軽い衝撃と共に何かが乗った。
いつの間にか立ち上がったご主人の手のようだ。じんわりとご主人の体温が私へと伝わってくる。
「むしろここにいてほしい。君が良ければずっと、と僕は思っているよ。」
「えっ、じゃあマリさんとは何を……?」
――今なら逃げれないと思うから聞いちゃうんだけれどさ。
――それは君が上に乗っているから動けないしね。別に逃げやしないよ。なんだい?
――名前ちゃんの気持ち、気づいてるんでしょ。
――……多少はね。けれど彼女がその気持ちを隠したいと言うならば僕は知らないふりをするよ。
――プリンスは?
――?
――プリンスは伝えたいと思わないの?
――僕は……。
――(言ってしまったらこの心地よさが無くなってしまうかもしれない、それが怖くて)
「マリとは……、君をどうするかって話だよ。でも辞めさせるとか、そういった事はお互いに話していないよ。」
「良かったです!じゃあ私まだまだここにいていいんですね!!」
「うん、傍にいてほしいな。」
顔色はまだまだ優れていないご主人が優しく私を気遣うように微笑んだ。
……まるで告白とでもとれるような言い方だったけれど。
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