庭師の笑い声で薔薇が咲く
一人目:姫
「あのコが来てから変わったんじゃない?何がって言われると困るンだけれど、雰囲気、的な。もちろん、庭も綺麗にしてるし、真面目だし。そのままでいいと思うわよ。」
二人目:コック
「彼女は居ないといけない存在じゃないかな。マスコットみたいな意味でさ……。やっぱり華やかさが違うというか、明るさがあるというか、……僕の心の拠り所というか……。」
三人目:メイド
「そーね。考えたことなかったわー。それはプリンスの指示に従うけれど、私情を挟んでいいって言うんなら私は彼女が必要だと思うよん。」
四人目:バトラー
「辞めさせるとしても、ちゃんとした理由が無いと了承出来ない。仕事は十二分にできているし、仕事じゃないこともキチンとしている。」
彼女をそのままずっと雇おうか、なんて言ったら皆、口を揃えてこういうんだ。肯定の言葉を。
まるで口裏を合わせたかのように。
でも、それは口裏を合わせたんじゃなくて本心からそう言うんだろう。
僕もその一人なのだから。
「これも必要ないかな。」
彼女の給料から少しずつ減らしていった額を毎月記載したノート。
もちろん、減らしていたのは壷の金額だ。
でも、これがあると完済した時に彼女は辞める可能性がある。
ならばどうしようか。
「彼女が聞くまで、何も言わない。彼女が聞いても、はぐらかそう。」
僕はノートをゴミ箱へと捨てた。
「……傍にいてほしい、か。」
あの時の言葉はまるで告白だ。そう考えたけれど、出した言葉は戻ってこないし、戻すつもりもなかった。
でも告白をした僕の胸はストンと穴にでもハマったかのように落ち着いたんだ。
……あれ?もしかしてだけれど彼女をここにずっと居させる方法があるんじゃないか?
でもそれは本当に……、
足は自然と彼女の元へと向かった。
庭師として雇っているので、彼女はこの時間帯だと庭に居る。
カツカツと屋敷に自分の足音が聞こえる度に心音が同調するかのように少しずつ早くなる。
ただ彼女と会うだけなのに。
「あ、ご主人おはようございます!あはは、これで全員集合ですね!」
「おはよう。……全員?」
よくよく見てみると働いている名前さんの奥の方でお茶をしている僕以外の住人達。
……君たち、ちゃんと仕事しようよ……。
思わず頭を抱えた。
「いい天気ですよね!これは皆でピクニックでもしたいくらいです!」
「それもいいかもね。」
そう言葉を言うと奥でゆったり休んでいたマリが「主公認のサボりだー!」なんて声をあげたから冗談だと言いづらくなってしまった。
まあ、しょうがないか。たまにはいいかもしれない。
「こういう日もいいですね。のんびりしてて。ずっと続けばいいのに。」
名前さんの最後の言葉は独り言のようにつぶやいていた。
どこか寂しそうに見つめる先はどんな料理を食べるとかで盛り上がっている皆の姿。
ずっと続けることができるんだよ、君がYESと答えるだけで。
「僕とけっ……」
「け?」
思わず口に出して言いそうになりバッと自分の口元を手で押さえる。
相手に聞かれていたようで、聞き返されたけれど……言えるはずがない。
――僕と結婚してください。
なんて。
「ぶふっ、あはは、ご主人顔真っ赤ですよ!何を言おうとしたのか気になるじゃないですかー!」
「……。」
彼女が大きく笑った。きっと彼女のこういうところを皆気に入っているんだろうな……。
思わず僕も、そしてみんなも彼女につられて笑ってしまった。
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