首輪の代わりのキスマーク
ちらり、とまた視線がいった。
私ではない女子の視線がシンジを見る。
目で追うことは私にもわかる。
この美少年と言えるほどの顔立ち、私のような年上から見れば守ってあげたいという庇護欲にかられるような彼。
未だにこんな彼と付き合えているのが夢のように思える。
でも付き合うためには色々なものを覚悟しなきゃいけない。
例えばこの嫉妬とか。
「シンジって顔綺麗だよね。」
「なっ、い、いきなり何を言っているんですか……!」
きっと私と並んで歩いていても姉弟にしか見えていないんだろうな、と思うと寂しく思う。
この手も、この声も、全部私のものなのに。
「手、つなごう?」
「……ホントどうしたんですか?今日は名前さんは甘えたさんなんですか?」
ふふ、と小さく笑う彼にこんな私は嫌いかと聞いてみたら寧ろ嬉しいです、と返される。
手を出す前に私の手を取られ、ぎゅっと握りしめられる。
こういうたまに見せる少し強引なところがいつもとのギャップがあり、ドキドキクラクラとさせられる。
「あれ?ワンコくん?」
「え?あ、マリさん。どうも……。」
シンジが声をかけられた、前に居る女性に頭をさげた。
ほら、また女の人。私の心をドロドロとした、色で例えるなら紫と黒のマーブル色が心の中を支配する。
手を放して欲しくなかったのでぎゅっと握ったら、小さく握り返してくれた。
「野暮な時に来ちゃったネ。偶然なんだからお姉さん、そんな睨まないでよ。」
「別に……、睨んではいません……。」
「ワンコくん、愛されてるね〜。じゃあ、お邪魔虫は退散。また施設でね!」
「あ、はい。」
「ああ、そうだ、お姉さん。ワンコくん、誰かに取られたくなかったら首輪でもしてたら?」
「ちょっ、何を言ってるんですか!」
「あはは、じゃあね〜!」
嵐のような子は私たちに手を振りながら去っていった。
……あの子、シンジと同じチルドレンなのかな?
私はさっきの子の背中をぼんやりと見ていたら急に握っていた手がきゅっと少し強めに握ってきた。
「……名前さんは……、僕に……。」
「え?」
「名前さんは僕に首輪とか、したいですか?名前さんが望むなら、かまいませんよ……?」
そう言われてシンジの首に真っ赤な首輪が巻かれている姿を想像してしまう。
似合いすぎて思わず即答で付けて、といってしまいそうになったけれど……
「シンジの事信じてる。私の事だけ見てくれるって。……でも。」
繋いだ手を引っ張り路地裏へと入り、シンジを壁に押し付けて私は彼の首へと唇をつける。
彼の皮膚をすい、見える首元にキスマーク。
白い肌をしているから赤いマークはくっきりとはっきりと目立つ。
シンジの顔を見ると私の方を見ながらプルプルと震え、真っ赤になっていた。
「首輪のかわり。」
「……ずるい。」
今しがた吸われていたところをシンジは撫でると顔を背けた。
私はデートの続きがしたかったので路地裏から出ようとするとグイっと腕を掴まれる。
「……、あの、もっと人気のないところいきませんか?」
「デートに戻ろう?」
「うっ……、生殺しだ……。」
まるでこの世の終わりを告げられたかのように肩を落とし、がっくりとうなだれた。
その姿が可愛くて、このワンコに甘いご褒美があげたいと思った。
「シンジが大人になったら、たくさん、ね?」
「!!……はいッ!」
これでしばらく彼は私に夢中になってくれるかな?なんて。
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