お題 | ナノ


  ずるい逃げ癖


「いつの間に……。」

「つい、先ほどだよ。」


彼女はどこかから戻ってくると、少し眉をひそめた。

また、怪我でもしたの?と声をかけられ首を振る。
今日は違うんだ。


「今日は僕の気持ちを知ってもらいたくて来たんだよ、名前先生。」

「気持ち……?」

「好意でも、好きでもない、もう少し大きな気持ちだ。上手く言葉にだそうとしても、何か物足りないんだ。
けれど、やはり言葉で表すのならば、君の事が好きなんだ。その気持ちを伝えに来た。」


すっ、と彼女の頬を触ると小さく肩が跳ねた。
僕の好きな彼女の瞳に僕が写りこみ、少しゾクッとした。


「大人をからかうのはやめなさい…!」

「……からかってはいないのに。」

「……ちょっ、と職員室に忘れ物とりに行ってくる!」


そう言って、彼女は慌てて保健室から出ていった。

年齢の差はどうやって埋めようか……、そんな事を考えながら僕は椅子に座り、肘をついてため息をひとつもらした。

気持ちは伝えたし、嫌がられてもいない。
考えは纏まらないけれど、少し浮き足だった気分になった。



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