お題 | ナノ


  若さゆえ



気づいたら彼の腕の中にいた。
私がもがく暇もなく強く強く抱きしめられる。

息ができないほどに。

場違いな感じで保健室のカーテンが風で、ゆるやかに揺れていた。


「わかっているんだ、君との距離はこんなことでは縮まらないことも、どうにも出来ない壁があることも。」


私はこの腕を振り払わないといけないのに彼の
いつも自信に満ちあふれた彼の声から発せられる、
か細くすがるような聞いたこともない音に心が揺さぶられる。


「名前の隣に居たいんだ。名前と先まで一緒に進みたいんだ。口づけだって、身体を重ねることだって、……そういうことがしたいんだ。距離も壁も、どうにもならないのはどうにかするよ。暴走してしまうんだ、よくわからないこの気持ちが」


だから、僕だけの名前になって欲しいんだ。

顔を上げると、泣きそうなそんな顔。
赤い瞳がゆっくり揺れる。唇が開いて、顔が近づく。

私は大人、でも彼は……


「どうして、止めるんだい……?」

「一晩、考えさせて。」


そして明日、返事するわ。と答えると彼はわかったのか一つ頷いて保健室から出て行った。



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