花丸の隣のハートマークとメッセージ
シャーペンの小さくキュッキュッとなる音が静かな図書館に響く。
私は手に持っている小説に顔を向けたまま視線だけ隣にいる彼を見る。
カヲルくんは首をひねっていた。
彼の不得意分野の国語。疑問に思っているところが私には手に取る様にわかる。
ちらりと問題を覗き見てみると、やっぱりそうだった。
『この時、彼の気持ちに合う言葉を文章から抜き出しなさい。』
カヲルくんはどうやら人の気持ちを読み取るのが苦手らしい。
「センセ、名前センセ。」
小声で私の名前を呼ぶ彼は私の腕をシャーペンの後ろでつついてきた。
ちょっとくすぐったい……そんな仕草にも小さく笑ってしまう。
シャーペンで突いてきたカヲルくんの方を見てみるとお手上げというポーズをとった。
「これ、は……彼っていうのが誰かはわかる?」
「この青線引いてあるヒトだよね。」
「カヲルくん……、登場人物に全員線を引くのはやめよう……?どれが重要かわからなくなっちゃうよ?」
「あは!」
「まぁカヲルくんがわかるならばいいんだけれど……、それで今この状況だけれど、だいたいこういう時ってその人の心境ってすぐ近くに書いてあるものなの。
じゃないと読み手に後から心境がさっきはこうだったって言われても『あれ、この時こう思ってると思った』ってなっちゃうでしょ?」
「なるほど、じゃあこれの答えはここ?」
「そうそう!」
カヲルくんは男の子とは思えない綺麗な文字で答えを書き出すと私に解答用紙を渡してきた。
私はそれを受け取ると答え合わせをする。
すべてに赤い丸が追加で書き込まれ、満点を叩き出した彼に感嘆のため息が漏れる。
最後に点数を書き込む欄に花丸を書き込む。
……少しだけ、手が止まり小さく隣によくできましたという文字と、最後にそれを取り囲むようにハートマークをピンクの色ペンに変えて書いてみた。
カヲルくんは私のこのハートマークの意味は、読み取れるかな?
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