▽ 07
「おかしい……」
「だね、さすがにもう復旧してもいいはず…」
部屋で待機していたけれど、冷房も切れ、先ほどのシャワーの湿気が体にまとわりつき、
汗がつーっと流れ落ちる。
つまり、暑い。
「人為的か……司令室にいってこようかな…」
「人為的?何故?」
「……君、それでも一応軍人かい…?もう既に予備が働いてもいいころなのに、そうならないということは予備すら電源を落とされているということです。
僕、これから司令室に行きますけれど、どうします?途中に三課ありますが。」
「こうなってしまったら休み云々は関係なくなってくるわね…目も多少慣れてきたし…いくわ。」
こんな真っ暗な中、一人で待機とか嫌すぎる……
初めて入ったであろうはずの私の部屋のドアをいとも簡単にあける。
うん、やっぱり君はいちいちすごいわー。
「暑くなってきましたね。知っているかい?心頭滅却すれば火もまた涼し、と」
「さりげに私に暑いというなよ、ってアピール?それ。」
「いえいえ、純粋にこれくらいの言葉は知っているかなって。あぁ、でも暑いと口にはして欲しくないですね……余計暑くなりそうだ…そうだ、暑いと一回言ったら一つのバツゲーム、というのをやりませんか?」
「バツゲーム?お金はないからね。」
「巻き上げるほどお金には困っていませんよ」
右手を付きながら先頭を歩く彼から苦笑いしたような音が漏れた。
あら、意外、なんか今日はしおらしい。
「そうですね、好きなヒトへの告白とか。」
「鬼畜だ!」
「しかも勝った方がGOサインを出した瞬間に」
「絶対とんでもない時にGOサインだす気だ、この子!」
「ああ、そういえば僕、好きな子いないんですよ。」
「負けゲーだ!」
ほんっと、意地の悪い!この場の雰囲気は確かに明るくなったけれど。
それにしても誰ともすれ違わないなんて不気味すぎる……
「暑いって言わなければいいんでしょ?楽勝楽勝」
「一回目ですね」
「ちょ?!今の『暑い』もカウント?!まだ始まってないんでしょ?」
「……二回目…、名前さんって学習しないんだね。もう、二回で十分だよ……」
私の前でため息を吐かれた。ため息を吐きたいのはこっちだよ!
左手でぺたぺたと壁を触り、右手は手すりをつかんで必死に前に進んでるのに言葉遊びなんて…!なんでこの子は余裕あるのかしら。
「行き過ぎでなかったらここら辺じゃないですか?三課は」
「う、うーん、見えん」
多少、目が慣れたとは言え、キョロキョロとあたりを見回しても目印の看板や、観葉植物など見えやしない。
「ていうか今更だけれど、観葉植物やら椅子やらによくこれまでの道でぶつからなかったよね。私たち運がいいのかも」
「……そうかもしれませんね。あ、こっち来てください、ここ三課っぽいですよ?」
「うわ、ちょっ!」
彼らしくもない、強引な力で私の腕を引く。暗がりの中、突然引っ張られ
その力に対処も出来ず私は前のめりになり、足ももつれ倒れてしまう。
強い衝撃を頬に感じる。
……これは、こけたな。まごう事なく。かなり痛い。
「いたた……ちょっと、カヲルくん、急に引っ張んないでよ……」
起き上がろうと手をついたら、それがスイッチだったかのように突然周りが明るくなる。
それと同時に私の脳内も一緒に真っ白になる。
明るさに目が慣れてくると目の前には、その場を更に明るくしそうな銀の髪。
何故か咳き込んでいるカヲルくん。
そして私はその咳き込むカヲルくんの下半身に馬乗りになり、胸元に両手をおいている。
これ、下手したら私が押し倒したように見えない……?
「お前……」
フリーズしていた私に声をかけられた様な気がして
はっと顔をあげたら、そこには私の上司が「ついにやってしまったな」という哀れみの目で見ていた。
「ちちち違うんです!!これは事故で!カヲルくん!なんとか言ってよ…!!」
「胸に…!うちどころが…けほっ、悪くて、ごめ…、げほ、重い」
「ぎゃああ!ごめんって!死なないでぇえ!!」
こんな感じでドタバタしてた間に使徒が来ていたらしく、私は先日同様、
チルドレンに迷惑をかけてしまっていたのであった……
こんなの職員失格だよ……。