▽ 03
これまた突然ですが
「今日は何の日ですか?」
「バレンタイン休戦臨時条約を結んだ日ですよね」
「ち、違わないけれど私が聞きたいことを知っててそう言ってるから素直にそうですと言えない!!」
「ああ、キリスト教司祭のバレンタインが処刑された日だっけ?」
「性格がひねくれてる!素直にチョコの日だと言え!」
バンッと机を叩いても、いつもどおりの笑顔は崩れなかった。
私の心がガラスなら、渚カヲルの心はなんか超硬い物質で出来てそう!
エヴァでしか壊せないような物質とか!
「学校に今日行ったんだけれど、チョコレートをたくさんもらってね……もらったものだし食べようかと思ったんだけれど、途中で胸のあたりが熱くなってきてね。
みんなの想いでもこもってたのかな……」
「うん、多分それ胸やけだね。」
たまにでる天然ボケなのかリアルで言ってるのかわからない。
今まで胸やけとは無縁の生活してきたのかな?ってまだ中学生だったね。この子。
……しかし、そうなると私のチョコもいらないか。
どうせホワイトデーも嫌味でクッキー渡してきそうだし。
「なんでチョコレートなんだろう……贈り物をしばってしまうと僕の様に体調に異変をおこしてしまうヒトだっているだろうに」
「そういうのを男の子の前でいっちゃダメよ。人によっては殺意が芽生えるからね?」
首をかしげてるけれど、言っておかなければこの子は悪意なく悪意を吐き出しそうだ。
(性格悪いしね)
「何か悪口を言われた気がするな?」
「言ってませんよ。幻聴ですか、耳鼻科行く?」
読心術をお持ちなのですか、あなた。
さて、私のチョコの行き場所がなくなってしまった。これは大きな問題だ。
目の前の男に渡そうと思っても「お茶が美味しいなァ」などとおじいさんくさいこと言ってるし。
多少、ショックだけれどね。好きな人にチョコを受取ってもらえないのと、
そんなに貰ってることと、貰ったチョコ全部食べてるんだってこと。
そりゃ、学生だもん。私の知らない一面を知って、カヲルくんを好きになる子もいるよね。多感な時期だし、こんな王子様がいたら告白とかしたいよね。
大人の私はひっそり思うだけでいいんですよ。
「どうかしたんですか?」
不安げに赤い瞳が私を見つめてきた。優しさを含んだまなざしで。
辛い、こんな気持ち、辛いね。
「んーん、なんでもないよ。いとしのカヲル様にチョコレートをあげたかったのですが、胸やけなら中央病院いく?ほらそこには耳鼻科もあるし」
「そこにこだわりをいれなくていいよ……あれ、胸やけって病院にいかなきゃいけないくらい重症なんですか?」
あ、スルーされた。私のチョコ発言。
「冗談よ、若いねー、カヲルくん。騙されちゃって」
指差して笑ったら彼が立ち上がった。う、怒られる?!
「そういえばバレンタインの曲があるそうだね?1986年2月1日に発売された曲が」
「細かい」
あれか、その年に発売されたのはあの曲しかない……
しゃらららから入るお(ニャーン/規制音)子クラブの……
「あれならば胸やけしないんじゃないかな?」
妖艶という言葉が似合いそうな彼の雰囲気に押され、
そして物理的にも押される。
「え、え、あの…!」
背中には壁、目の前には渚カヲルというなんか私的には美味しいシチュエーションで
しかもキスをねだられるという絶好のチャンス!だけれど…!!!!
相手は中学生だし、手を出したら犯罪だし!
それになにこの恥ずかしさ!!!!!
徐々に近づいてくる端正な顔に目が離せなくなって、
そしてついに
「く、っく……」
渚カヲルが笑いだした
「冗談だよ、そんな顔をしないでよ。すっごい複雑な顔してる」
笑いが止まらない渚カヲルをどん、と押しのけた。
くっそう!!本気にした私のバカ!!大人を騙そうとした渚カヲルはもっとバカ!!
ちなみに私のチョコレートは私の胃袋の中に納まりましたとさ。
んまかった。