▽ 隠されたクリスマスプレゼント
『メリークリスマース!』
なんてそんな高らかに声が上がる。
その声をうんざりした気持ちで私は聞いていた。
隣に居る彼を見ても目をつむって聞き流しているようだ。
車のラジオからは定番のクリスマスソングが流れる。
「はあ。」
ため息もつきたくもなるものだ。
曲も終わりがけになるとラジオのパーソナリティが軽快に喋りだす。
今どんな状態でこのラジオを聞いているだろうか、恋人?家族?そんな事を聴いている人に聞いていた。
恋人でもないし、家族でもないし、ちなみに休みでもない。
今現在、ネルフ職員と一緒に車の中にいる。
唯一、心の救いは隣にいる想い人なんだけれど、その彼も車に乗り込んでから終始無言だ。
「いい加減、どこにいくか教えてもらえますか?加持一尉。」
「何度目の質問だい?名前ちゃん。俺には、その答えはついてからのお楽しみとしか言えないんだ。すまないね。」
「じゃあなんで私だけ後ろで手を縛られているんですか?せめてカヲルくんも同じ格好だったら気分も楽しくなれたのに!」
「そこまで僕を嫌っていたんですか。」
「違うよ!むしろそれで萌えたいというか……!」
「低俗ですね。」
誰が低俗だ!普段高圧的な態度をとっている子が悔しそうに上目遣いで顔を赤らめながらプルプルと震え、負けるものかと睨んでいるのがいいんじゃないか!
……カヲルくんにそれをしようものなら冷静に「警察呼びますよ」の一言で終わりそうだけれど。
そしてまたカヲルくんはだんまりを決め込む。
なんで君はそんなに機嫌が悪いんだ。しょうがないから私は加持一尉と話すしかないじゃないか。
「名前ちゃんが縛られてるのはりっちゃんの何か考えがあってじゃないかな?渚くんが縛られていないところをみると……君は逃げ出す可能性があるということで縛られたのかな?」
ぎくり、と心の中で言ってしまった。
実は赤木博士が総務三課に入ってきた瞬間、嫌な予感がしたので上司にちょっと休憩行ってきますといって逃げようとしたら博士に声をかけられ捕まったのだ。
「私の仕事溜まってるんですが……、室長が黙っていないのでは?」
「その点は大丈夫だ。ここに君の仕事が入っている。」
ポンポンと助手席を叩く。そこには確か高さ20cmくらいの箱が乗ってたはずだ。
あれの中に入っているとなるとA4用紙1500枚近く。
魂が抜けかけた。それ何日分ですか。もしかして泊まりがけで何かするんですか……。
「おうちに帰りたい……。」
「その前に寄るところがあるからな。ついたぞ。」
「ん?ここ、普通のマンションじゃないですか。」
加持一尉は車を降りると私の方のドアを開ける。
車から降りると私の後ろへと周り手を縛っていた紐をほどいてくれた。
カヲルくんも車から降りてマンションを見上げると何か納得したかのようにああ、とつぶやいていた。え、何、私だけ状況についていけてないんだけれど。
「はい、君の仕事だ。揺らしたら駄目だぞ?」
「爆発物でも入っているんですか?!」
私の仕事が入っているという箱を渡された。
重さ的にはそんなにないので資料だけではなく何か他の物も入っているのかもしれない。
加持一尉は慣れたようにマンションに入っていきとある部屋の番号を押して部屋の人に開けてくれ、といってマンションのドアを開けてもらう。
中に入りエレベーターで上り、とある一室の前についた。
ドアをノックも無しにあけると、そこには何足もの靴がある。どこだろう、ここ……?
「あ、加持さん!おっそーい!」
「いやはや、仕事が長引いてね。」
「名前さんを拉致するので長引いたんですよね。抵抗するから……。」
「ちょっとまて!私なんにも説明を受けてないんだけれど、これ何?」
「何ってクリスマスパーティーですよ、名前さん。」
「へ……?」
シンジくんがエプロンで手を拭きながら教えてくれた。
いや、確かに今日はクリスマスだけれど、なんで私ここに連れてこられたの?
「はいはーい、詰まってるわよ〜。中に入って入って〜。」
遅れて入ってきた葛城三佐と、私を拉致し紐で縛ったあと加持一尉の車に乗せた張本人の赤木博士から背中を押された。
え?なんで?と頭に疑問を浮かべていたら葛城三佐がゆっくりくつろいでねんとウインクをしてきたので、ここが葛城三佐の家だと察した。
「なんで私ここにいるんでしょう?」
「それは存在している理由を聞かれているんでしょうか?突然ですね。」
「違うよカヲルくん、私は単純に自分が場違いな気がして……。ていうか仕事抜け出していいのか……。」
いや、抜け出していいけれどその代わり仕事はしろよってことか。この箱。
重さは変わっていないはずなのに抱えている箱が重く感じた。
「僕が言ったんですよ。クリスマスパーティーに誘われた時に名前さんも一緒に、と。」
「か、カヲルきゅんっ!」
「監視役だから当然でしょう?」
「ですね!そうですね!はい!畜生!!」
「ほら、名前ちゃん、その箱をくれないか?」
「え、これ私の仕事の書類じゃ……」
加持一尉に箱を渡すとその箱を机に置き中身を出して……
「ケーキ……。」
「クリスマスケーキだよ。名前ちゃんの仕事はここまでこのケーキを無事に運ぶ仕事だったのさ。」
「な、なぁんだ……。」
思わず力が抜けて座り込んでしまった。
この人も人が悪い……、ここまで来るのにかなり心労が絶えなかったよ……
じゃあ、私もここでクリスマスを楽しんでいいんだ……!
「ほら、名前さん、たってください。皆と楽しみましょう。」
「……うん!」
今年のクリスマスは私にとって記憶に残るクリスマスとなった。
……ちなみにケーキの皿の下に潜んでいたクリアファイルに包まれた書類が出てきた時は流石に上司を殴ろうかと思った。
とんだプレゼントだよ。