性格悪年下彼 | ナノ


▽ 夢見る仮想現実/後編


赤木博士から、障害物を避けながら進む実験もしたいという事で中学校には顔のパーツが無い人で溢れかえっていた。


「ひい!ホラーみたい!!」

『これマネキンが動いているみたいですね。ちょっと夢に出てきそうだ……。』

「じゃあちょっと中に入ってもらっていい?渚くんは体調よさそう?」

『問題はないですよ。』

「やっぱりお前聞こえていたのか!カヲ……、フィフスチルドレンは体調に問題ないそうです。」

「あら、いつもどおりで呼んでいいのよ、カヲルくんって。」


ちょっと恥ずかしくなってしまった。確かにそう呼んでいるけれど……。
中学校に入り下駄箱へと辿りつく。足元を見ると靴だけれど、これは土足のまま入っていいのかな?と足元を見ていると赤木博士が何かを察したのか、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。


「はい、出来上がり。」


タンと小気味好い音が聞こえたと思ったら私の足にノイズがかかり、しばらくすると私の足はローファーから上履きに履き替えていた。
おお、これは素晴らしい。


「え、ていうかこれなんでも出来ちゃうんじゃ!?じゃあ博士!私だけに優しいカヲルくんを作ってください!おわあッ?!」


画面がガクガクと揺れる。さっきより多少は揺れは小さくなっていた。さっき修正していたみたいだ。
ていうか今の何が起こったんだ?!


「カヲルくん、何かした?」

『膝カックンをしました。』


仮にも女子に膝カックンをするな!
今何かあったの?と赤木博士に聞かれたので「膝カックンされました」と言ったら「仲いいのね」とサラリと返された。
カヲルくんの方の音声とかが聞こえてたらいつもこうやって弄られてるんですよ!なんて愚痴れるのに!しかも直属の上司の葛城三佐がいるから何か言ってくれるかもしれないし。


『何も考えずに実験に集中するのが得策だよ?』

「ナニモ考エテオリマセン。」


何故君はわかるんだ。あれか、私と常に一緒にいるから私の考えをわかる様になってきたのか?
ずるいぞ、少年。私にも君がどんな事を思っているのか分からせろ。

左右を見渡すと人で溢れかえっている。中学校ってこんな感じだったかな?


「じゃあ、人にぶつかってちょうだい。渚くんもよろしくね。」

「え、これぶつかった瞬間に怒鳴られたりしません?」

「あら、それいいわね。当たりつきってことでランダムで音声いれてみる?」

「勘弁してください。」


そんな事されたらぶつかりづらくなる。
目の前から人(に似たようなもの)が歩いてくる。不安に思いながらもドンとぶつかってみた。


「ぎゃあ!画面が真っ暗に!!」

「どれだけ強くぶつかったの貴方……。」

『顔面からコケるとか……、なかなかの芸当をお持ちですね、名前さん。』

「ぎゃっはっはっは!!」

「え、なに、嘘、今どうなってるの?!」

『名前さんが史上最高類を見ないくらいの体勢で停止しています。』

「見ないで!見るな!上官命令だ!」

『僕の方が階級は上だよ?』

「部下からのお願いだ!」

「随分へりくだったわね。」

「おっかしー!もう、ホント苗字さん、最ッ高!」

『というか立てないんですか?』


私がバタバタしていると立ち上がれないという事に、いち早く気づいたのはカヲルくんだった。
そう、こっちはチェアにゆったり座っているのだ。なのでバーチャルの世界の私はうつ伏せなのに、現実は仰向け。
ということで手は付けるけれど、身体を起こす動作ができない。
これじゃカヲルくんに土下座しているみたいだ。お願いと言ったけれど土下座もプラスされてとんでもなく情けない格好になっている。


「そこら辺は難点なのよね。殲滅シュミレーションにはいらないかと思ったんだけれど、これを見ると躓いたあとに起き上がれなくなるわね。うん、これも修正。あとはぶつかるのに誤差があったわね。」

「そんな事言ってないで助けてくださいよー!」

『手を出してください……、と言おうと思ったけれど多分起き上がれないでしょうね。名前さん。』

「……へい……。」

『ちょっと動かないでくださいね。』

「え?」


景色が明るくなり、ぐるんと回ったあとカヲルくんの顔があと数センチで付きそうなくらい近くにあった。
多分、抱き起こされたんだ。そうわかってしまえば私の鼓動はドキドキと早くなる。
バーチャルとはわかっているけれど、カヲルくんの丹精な顔がそこにあるんだ。

これ、リアルじゃなくて本当によかった。
心臓が激しく主張してきてるし、顔もさっきより情けない顔してる。
……あ、表情はあっちにバレるんだっけ。


『大丈夫ですか?立てます?』

「あっ、う、うん。多分。」


そんな私の表情には何も言わず、心配している少し低い声が耳元のスピーカーから聞こえてきて、少し耳がくすぐったくなる。
顔も赤いはず。これ、赤木博士と葛城三佐にはバレそう。


「はい、じゃあいいわよ。二人とも、身体に異常はない?」

「問題は、ないです。カヲルくんの顔がかっこよかったです。」

『こちらも問題ないです。年上の土下座が気分良かったです。』

「性格悪いな!好きで土下座してたわけじゃないわい!あ、赤木博士、カヲルくんも大丈夫そうです。」

「そう、良かったわ。じゃあ、目を覚ましていいわよ?」

「はい?」


赤木博士からそう言われた瞬間、意識が浮上する。
……あれ、今の……。

起き上がってみると自室で。瞬きを数度繰り返して今のは夢だったとわかった。

ベッドから出て、ドアを開けるとカヲルくんはもうどこかに行っているようで、そこはもぬけの殻だった。


「そっか、私今日非番だ……。」


今のうちに着替えておこうと思って寝巻きを脱いで今日着る服を見る。
特に用事もないし、とりあえずなにか飲み物買ったあとに食事でも取りに行こうかな、と思いラフな格好を選ぶ。

着替えていると頭が覚めてきて、部屋から出てぶらぶらと歩いて、今日のイチオシメニューでも見に行こうかな。と思ったら誰かから声をかけられた。


「あら、苗字さん。今日はお休みかしら?」

「あ、お勤めご苦労様です、赤木博士。」

「そうだ、今日非番なら少し付き合って欲しいんだけれど。」


おや、もしかして赤木博士も休みなのか?だとしたらボディガードとして外に一緒についてきて、というお誘いが来るかもしれない。


「はい!今日は暇なので大丈夫ですよ!」

「それはよかったわ。じゃあ、付いてきて頂戴。」


――私はこんな事があるのか、と後悔をするまであと15分。



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