▽ 夢見る仮想現実/前編
不運だった、としか言い様がない。
今日は業務が休みでやることもなく、ダラダラと過ごす予定だったのだ。
何故、私はあの場所を通ったのか。
何故、私はあの時暇だと言ってしまったのか。
もう後悔先に立たずとはこの事だ、と頭を抱えた。
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時は遡ること1時間前。
「いやいやいや、べ、別の人にしましょうよ!!」
「あら、さっき暇って言ってたわよね?いいじゃない、ちょっとしたお遊びだと思って付き合ってちょうだい。ねえ、ミサト?」
「そうそう!苗字さん、ま、そーゆーことだからっ!ちなみにこれは上官命令よ?」
「葛城三佐……。」
横暴すぎる!なんて口には出せなかった。上官命令とくればそんなのは何の意味も持たないというのはわかっているから。
ため息を吐いてちらりと機械を見る。
先ほど赤木博士から説明されたけれど、どうも胡散臭い。
「ただバーチャルの世界を歩くだけよ?チルドレンたちのシュミレーション向上の為と思って。」
「そう言われると断れませんね。」
この機械は技術開発部技術局第一課が先頭に立って仕上げたシュミレーション用バーチャルシステム。
今までポリゴンだったバーチャルシステムだったのだけれど、よりリアルになることで的確な射撃位置等を調べれる様になる……ということだったんだけれど、実はまだ試作段階。
それで、たまたま技術開発部の前を通りかかった私が捕まったというわけだ。
私はリクライニングチェアのような椅子に座り、赤木博士に渡された色々とコードのついたヘルメットのようなかぶりものを渡される。
それを被りチェアへと背中を倒す。目を開けているのに真っ暗だ。
「じゃあ、行くわよ。」
パソコンのキーボードを叩く音が響く。危うく寝そうだ。
そして突然光が奥から迫ってくる。一瞬目を閉じて、恐る恐る目を開けたらよく見た風景が広がっていた。第三新東京市、だ。
「どう?綺麗に見える?目は痛くない?気分は?」
「かなり鮮明に見えます。特に身体は異常なさそうです。」
「じゃあ左を見て、右を見て、最後に一周回ってワンって言って頂戴?」
左、右と見たあとに一周回る。
景色はちょっとワンテンポ遅れているけれど、ぐるぐると周る。
これ、3D酔いする子いそうだなぁ。私も酔わないといいけれど。
「ワン。…………あれ、今更ですが、ワンっていらなくないですか?」
「あっはっはっは!!」
「ふふ、冗談だったのに。とりあえず問題なさそうね。身体に異常が出ないかチェックしたいから20分ほど歩いてもらっていいかしら。」
「了解しました。」
「ああ、そこの角を曲がって頂戴。次の信号を左ね。すぐ前にある喫茶店の隣の路地に入って。」
赤木博士の指示どおりに歩いていき、喫茶店の隣の路地に入る為左へと曲がった瞬間、視界がガクガクと揺れる。
「え?!え?!これなんですか?!」
『え……、まさか名前さん?』
揺れが収まったと思ったら聞きなれた声がヘルメットの耳元の部分から聞こえてきた。
この声は、カヲルくんだ。
顔をあげるといつもの学生服をきたカヲルくんが前に立っていた。
「衝撃を受けるとこんな感じになるのね。もっと揺れを抑えないといけないわね……。」
「苗字さん、今渚くんにも手伝ってもらってたの。ちゃんと交信が出来るかどうかわからなかったから別の部屋にいてもらってるの。私たちにはまだ聞こえるようにできてないんだけれど、どう?」
「ええ、聞こえました。少しノイズ音のようなものが聞こえますが。」
『何独り言喋ってるんですか?』
「博士たちと喋ってるの!」
カヲルくんは知っててそんな事言ってそうだ。音声もカヲルくんのが聞こえていないっていうのが聞こえたのか、いつもの意地悪な感じに戻ってる。
小さく口元だけで笑うカヲルくん。……このバーチャル超リアル。
『名前さんも散歩を頼まれたのですか?』
「そうなのよね、ただどこに行こうかわからなくて。カヲルくんは?」
『僕は学校に行こうかと。』
「学校?あ、私も一緒に行こうかな?」
すると赤木博士がじゃあ面白い事しましょうか。といった。
私が聞き返す前に素早いスピードのタイピング音が聞こえ、それと同時に私の身体にノイズが走る。
混乱しながらも見ていると、私の服が私服から第壱中学のあの鮮やかな水色の制服になった。
「コスプレだ!」
『それどころか僕の方のバグでなければ、名前さん、随分若くなってますよ?』
「カヲルくんがでかくなってる……、まさか縮んだ……?」
「鋭いわね、ちょっといじって中学生にさせてもらったわよ。MAGIに計算させて昔こんな顔であっただろうってところまでね。」
なんてところにスーパーコンピュータを使っているんだ、この人!
カヲルくんの方を見ると頭のてっぺんから足元までマジマジと見ている。
……この子、中学生の私からみたらかなり身長高いのね。
『大人になって身長伸びて良かったですね。』
「裏に『小さい』という言葉が見え隠れしているぞ。」
『やだなァ、そんな事思ってもいませんよ、ははは。何言ってるんですか。頭おかしくなりましたか?』
「否定している言葉の方が私にグサグサと刺さる!」
とりあえず、私はこの格好で第壱中学校へと向かうこととなった。
他に仮想世界を歩いているかもしれないチルドレンや職員に会うことがない事を祈って。
後編へ続く!