性格悪年下彼 | ナノ


▽ 『楽しかった』と指先で語る


「デートに行きませんか。」


カヲルくんがいきなり三課に入ってきたと思ったらこの言葉を言われた。
彼の手にはチケットらしきものが二枚。
……あれ、私相当疲れてるのかな。デートって聞こえた。


「アスカちゃんと?」

「行きませんか、と疑問形で聞いたつもりでしたが。」

「誰に?室長に?」

「こら、俺を巻き込むな。」

「名前さんに。」


カヲルくんがチケットを持ってきて、私にデートに誘ってきた。
と解釈していいのかな?
…………は?


「罠が仕掛けられている!」

「そんなに信用ならないですか、僕が。」


カヲルくんは苦笑いを一つ漏らした。
今は他人に見せる、所謂猫かぶり用の顔なので私がいじめているように見えるだろうな、周りから。

ひらひらとチケットを揺らしているのでそれを二枚とも奪い取る。
なにかのコンサートらしく、招待券と書いてある。どうやらお金はいらないらしい。
きっと此奴のことだ、行ける日付が違うとか席の番号が離れているとかだ!

としっかりと読んでみたけれど、席番号はなく日付も同じ日だった。
いや、これ自体が偽物だ……!


「でも渚くん、大人を誘うより同世代の子の方が話が合って楽しいんじゃないのか?」

「人が一番気にしていることを!!」

「ああ、いえ、外に出るためには監視役と一緒と決まっているので。」

「畜生!いろんなことにドキドキした私を呪うわ!」


なによ、それってデートって言わないじゃん。
人はソレをしょうがなくって言うのよ。

一つため息をついて一枚だけカヲルくんに返すと彼は受け取り、ニコリと笑って三課をあとにした。


……そしてコンサート当日。
特に有名なコンサートというわけでもなかったので軽くおしゃれをしてワンピースを着た。
準備をして、カヲルくんの待つゲートへと歩みを進める。
でもどうしてゲートへ行くと言い出したんだろう。別に一緒の部屋にいるんだから一緒に出ればいいのに。


「ごめん、お待たせ。」

「……、うん、いいですね。その格好。いつもと違った雰囲気しているね。」

「褒められた!?心の中ではそんなこと思っていないんでしょう?!」

「めんどくさいから脱がせていつもの格好でいかせようか?」

「ドキドキイベントの脱がされる感じじゃなくて本当にただ脱がされてただ着せられそうでヤダ!」

「はァ、たまには素直に褒めようと思った僕が馬鹿でした。」

「ご、ごめんってば……う、嬉しいから、どう反応していいかわかんないの。」

「そこは無難にありがとうでいいんじゃないですか?」

「うん……、ありがとう。」

「どういたしまして。」


カヲルくんがすごく綺麗な微笑みを浮かべてくれたから、更に身体の熱があがる気がする。
このイケメンめ。そういう緩急つけた攻撃が私のハートに痛手を負わせるのよ。

そういういつも通りのやり取りを行いながらコンサート会場へと向かった。カヲルくんの道案内でようやく辿り着き、私たちは真ん中あたりから少し外れたところに席に着いた。


しばらくカヲルくんの学校のことで話していたけれど、どうやら始まるらしくあたりが暗くなる。
コンサートの内容はピアノがメインでやる楽曲だった。

真ん中にポツンとピアノが置いてあり、男性の演奏者がスポットライトを浴びて演奏を始める。
バックには光を浴びないところに人がいるらしくたまに影が動く。

序奏が終わるといきなりピアノ以外の音が広がり、ステージ全体が明るくなった。
後ろにはバイオリンやフルートなどの人達が控えていて
ピアノを殺さないような演奏をしていた。






「ふー!いい演奏だったね!」


私たちはコンサートが終わると近くの公園へと足を向けた。
二人でベンチへと座り先ほどのコンサートの感想を言い合う。


「そうですね。僕はあの跳ねるようなピアノの弾き方は好きですね。指が滑るように音を出し、とても楽しそうでした。あれを見ると僕も弾きたくなりますね。」

「え?!弾けるの?!」

「多少ですが。」


カヲルくんは空中でピアノを弾く真似をすると楽しそうに笑った。
流石にネルフ本部にはピアノはないし、弾いてるところをみたいけれど……
と思って、ふと名案が思いついた。


「はい、これ。」

「名前さんの、携帯ですよね?これがなにか?」


本部から支給された私の携帯。それを受け取り、その画面を見てカヲルくんはわかったらしい。
そう、私の携帯に映し出されているのはピアノの鍵盤だった。
このアプリは音楽ゲームなんだけれど、楽曲を弾くことも出来れば自分でオリジナルで弾けもするのだ。


「何か弾きます?」

「好きに弾いていいよ。」

「では……。」


少しの間があり、軽やかな音楽が聞こえる。
カヲルくんは目を瞑り優しく鍵盤を叩いていく。楽しくなってきたのか少しだけ身体が揺れている。
その目が開かれて何かを伝えるように赤い瞳が私を射抜く。


「この曲なんか聞いたことがある。」

「ヒントはショパンだよ。君を思って弾いているんだ。」

「……うーん、音楽詳しくないんだよね。って私を思って……?」

「正解は『子犬のワルツ』だよ。」

「悪かったな!」


いつも思うけれど、甘い雰囲気作ろうとしてぶち壊すの好きだよね、君!
もう少しドキドキさせてくれてもいいじゃん!

弾き終わると楽しそうな表情のまま私をみたまま携帯を指先でトントンと叩く。
まさか、私に弾けと?!


「オリジナルで一緒に弾きましょう。即興というやつですね。」

「え、できないよ。無理無理無理無理。」

「わがままな大人だなァ。ほら。」


右手を掴まれ、携帯の上に置かれる。その時に指がどこかの鍵盤に当たったのか小さく音がなる。
ていうか携帯の鍵盤を二人で弾こうとしているからすごく距離が近い。
カヲルくんも右手で弾こうとしているので彼の胸板が右腕に当たる。
顔も近くて唇に目がいってしまう。思わず生唾をごくり。


「セクハラで訴えます。」

「まだ何もしていないから勝てる!」

「ほら、鍵盤に集中してください。僕は高い音弾きますので名前さんは低い音を。」


カヲルくんは指を滑らせ、小さい画面の上で踊る。
私もそれに続き、ぎこちなくだけれどポーンポーンと叩いていく。
カヲルくんが急ぐように叩けばこっちも適当な場所をトントントンと早めに叩く。


「……あ、そうだ、今日のチケットって誰からもらったの?」


指を止めないまま、音楽だけの会話じゃなく言葉の会話も始める。


「学校の上級生にもらったんですよ。2枚あるからあげるって。」

「……えっと、それデートに誘われたって事?」

「断りを入れましたよ。監視役が付いてしまうから二人きりになることはできないよって。そう言ったらチケットを2枚ともくれました、僕に聞いてほしいと言って。」

「ふーん。」

「ふふ、音はいいね。楽しくなれる。音楽とは音を楽しむと書くけれど、音が楽しくさせてくれるという事でもあるよね。僕は今すごく楽しいよ。」

「私はあまり楽しくないけれどね。」

「嫉妬ですか?」


カヲルくんは顔をこちらに向けた。密着しているというのと、私は下を向いて携帯を見ていたのでカヲルくんの口の位置が耳元に来ていた。
意地悪するとき特有の低い音程の声が耳元で聞こえて反射的に身体が跳ねて携帯に指が触れ低い音がジャンと鳴る。


「顔赤すぎじゃないですか?」

「うるさい!この不意打ち野郎!」

「はは、ありがとうございます。」

「褒めてない!!!!」

「いや、今日のデートに付き合ってくださって、という意味です。」


よいしょ、と少し年寄りくさい言葉をはきながら立ち上がったカヲルくん。
あれ、今日のコンサートって誰かと行きたいけれど監視役が必要だから、
しょうがなく私と一緒に行ったってことじゃないの?

彼が目を細めてちょっとだけ照れくさそうに笑うものだから
今日のおでかけは本当にデートだったのかもしれない。

なんて自分の良いように解釈をした。



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