性格悪年下彼 | ナノ


▽ 21


ほこりくさい、それが一番最初の感想だった。

他の感想は視界が見えるようになってから、になるだろう。
目隠しをされ、歩かされ、どこかのドアを開いたと思ったら
乱暴に柱に手を縛られた感触がして、今の状態に至っていた。


さて、どうしたものか。
近くに赤木博士はいるのだろうか。


「貴方たちは一体何が目的なの?」


赤木博士の声だ。
よかった、多分隣くらいだろう。意外と声が近かった。


「目的か…こちらの要求を飲んでいただこう。」

「要求を飲ませるためには、目を合わせて話すべきじゃないかしら?」

「はん、目隠しはとらねーよ…。」


私は声を出さずに周りをうかがう。
話している男、これは赤木博士に一番最初話しかけた男だ。
ただ、なんだか人が変わったかのような話し方になっている。
次に私の後ろにいた男。あれは感触からして銃だった。
少なくとも足音的にもう一人居た。

ということは3人、もしくは3人以上……か。


「赤木博士、素直に答えろ。あの使徒と呼ばれるものはなぜ日本、しかもこの第三新東京市を目指す?博士レベルになれば知っているはずだ。」

「あら、私にもわからないことだってあるわ。」


私も男の言う事は気にはなっていた。

何故、使徒はここ、というか本部を目指すのか。
何故、チルドレンがエヴァ操縦者に選ばれるのか。
何故、エヴァはネルフが4体も所有しているのか。

息を潜め、ことの展開を見守る。
といってもこの場合、目隠しをされているので見ることはできないのだけれど…

ちっと舌打ちが聞こえたような気がした。


「おい、ここでまってろ。」

「はい。」


バタン、と音が聞こえる。
多分話していた男が出て行ったんだろう。

つまり一人減った。
ここにいるのは二人……いや、一人、かもしれない。


「お前もこい。」

「え、でも見張りはいいんですか?」

「いい、どうせ動けんさ。」


またドアの開く音としまる音。多分出て行ったんだろう、一気にあたりが静かになる。
『見張りはいいんですか』と聞いてたから、ここには誰もいない……

よし。


「赤木博士」

「あら、いたのね。てっきり居ないのかと思っていたわ。」

「様子をうかがってました……それよりすみません、私が軍服できたからですね……」

「貴方のせいじゃないわ。むしろ私の名前を知っていたから、私が巻き込んだのかもしれないわね。」


ふう、とため息のようなものが聞こえた。
こう、目を塞がれていると物音に敏感になってしまうのかも……。


「彼ら、セクト、の過激派でしょうか?使徒を神の使いと思っているやつらですよね。」

「だとしたらエヴァを破棄するよう言うわ。彼らはどちらかというなら裏を知ろうという……まるで禁断の果実を目の前にしたアダムとイブね。この場合、今彼を呼んだのはヘビ、かしら?」

「うまい例えですね……。ところでどうしましょうか…。命の危険にさらされてはいないものの、何をされるかわかりませんからね……。」


身をよじっても手首に力を入れても状況は変わらなかった。
うーん……、映画とかならナイフを出して切る、という感じなのだろうけれど、
私の手元には銃しかないし、そもそもその銃も取られてしまっている。


「貴方、意外と冷静なのね。これがマヤだったらパニックに陥って吐いてたかもしれないわね。」

「いえ、私も自分はパニックになるかと思ってたんですが……。目を隠されてるから、かもしれないですね。」


せめて携帯が使えれば……胸ポケットに入っているんだけれど。
解放されるか助けてもらうか……、それしかここから脱出できない。


「目隠し……、ねェ、苗字さん」

「あ、はい」

「この目隠し、どういった意味が込められていると思う?」

「め、目隠しですか……?そうですね……無難にいえば顔バレしないため……もしくは場所を知られたくない、という事でしょうか?」

「正解。もしも二つの場合だったら、彼ら、というより『ヘビ』は身近な存在なのかもしれないわね。」

「なるほど……、私たちが知っている存在、という事ですね。」

「それと私が外に出るという事情を誰が知ったのかしら。私今日マヤに初めて言われたのに……その線を考えると……」

「……内通者がいる、ということですね」


そこで会話が途切れた。
バン、という大きい音と共にガチャ、という金属音が聞こえた。


「好きにしていいってさ。俺はな……、お前が完成させたあのロボットに家族を奪われたんだ。なんてものを作りあげたんだ。」

「それは使徒戦に備える為に……!」

「お前は黙ってろ!」


耳を裂くような大きな音の後に火薬の匂い。
これは銃だ……。撃たれてはいない。多分どこか違うところに撃ったんだろう。

私のような一般兵士がいなくなるのは軍としては痛手ではないが、
赤木博士は困る……ッ!


「お前にわかるか?家族を失う悲しみが。化物に殺されるんじゃなくてヒーローだと思ってた味方に殺されたんだぞ……?瓦礫から助けようとしたら下半身がなかったんだぞ……?俺の、俺の娘を返せよ……」


犠牲の上での勝利、ということは知っている。
パイロットの少年少女だって明るく振舞ってはいるが胸を痛めている。

そんなの大人たちは誰だってわかっているけれど

遣る瀬が、ないんだ。


「好きにするといいわ」

「赤木博士!」

「いいわ、たった一人の戻ってこない命の償いが私の一つの命で償えるのならね。そのかわり、貴方、これから起こる悲劇を止めることが出来る?
貴方のたった一発の弾でその何万との命が貴方の両肩にかかるのよ?
それが受け止めれるかしら?私にはできるわ。」


凛とした声が静まり返った部屋に響く……
時が止まったかのように一瞬、空気が張り詰める。


「こ、この…!」

「やめなさい……っ!」


この私の声は何か爆発音のようなものでかき消されてしまった。
な、なにが起こってるの…?!なんか光がはいってきた?
風も強く吹き荒れて……

ぐう、とか離せ、とか聞こえる…、ということは私たちは助かったの…?



「なんて格好をしているんだい?それは自分から望んでしたのかい?」



呆れた、そして少し笑っている様な声が聞こえた。
この安心するような声は……


「な、渚くん、エヴァを出撃させたの?!」


赤木博士の驚いた声。
……いま、なんて?

まさか爆発音って…、エヴァがここを壊した音だったの?!
ぶっ壊したはいいけれどその壊した瓦礫に当たったらどうするんだ!!

ていうか状況を判断したいのに、未だ私の目隠しが取られない。


「え、ちょ、置いていかれた?」

「いえ、あまり見れないような中々に間抜け……いや、面白い格好だったので」

「早く外して!死ぬ!恥ずかしさで死ぬ!寧ろ舌を噛み切ってやる!」

「やだなァ…そんな事するなら猿轡もしなきゃいけないじゃないですか」


とか言いながら手に巻きついているものを外してもらい、私は自分で目隠しを取った。

その光景は、銀の大きな腕に掴まれている二人の男性。
目の前には、


「今度は僕が助けれた……」


と優しく微笑む彼がいた。


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