性格悪年下彼 | ナノ


▽ 22


――午後九時。
ドアが開く音がしてそちらを見ると
少し疲れたような表情をしたカヲルくんが入ってきた。

疲れたのは私もだぞ、少年よ。


「厳しい処分を受けたあとだけれど、ちょっとお姉さんからもいいかな?」

「なんですか?監視役さん。ベッドはどちらが使うかって事かな?」

「別に私はソファでいいわよ。違う、そんなんじゃなくて……!!」





誘拐事件から次の日の話。つまり今日なんだけれど。
あの後、赤木博士はシンジくんのサルベージ企画を立ち上げているらしく、保護された後は会ってはいない。
そして私の方は、上司から呼ばれる。


「フィフスパイロットが先日、お前らを助ける為に独断でエヴァを機動させただろう?あれがきっかけ、といえばいいのかわからんが、渚カヲルの行動に制限が出たんだ。」

「もともと監視はついてる、と聞いたことがありますが……」

「もっときっついやつだ。とりあえず、直属の監視役が必要になったんだ。」

「はぁ……?戦術作戦部あたりですか?」

「いや、管理局一課だ。で、だ。お前の友人の局長が『大将の方でお願いできますか?』って言ってきたんだよ。うちに。」


ぽん、と頭の上で友人のほくそ笑む顔が浮かぶ。
あいつめ……そしてホイホイと受けたんだな、デレデレになりながら。

上司は冷静な彼が珍しいよな、なんて人の気持ちも知らないまま
ふむふむと頷いていた。


「それでその監視役をお前に頼みたいんだが。というかフィフスチルドレンからの直接なお願いみたいだけれどな。どうせお前、今部屋がないだろ?」

「…………はあ!?か、仮にも男女ですよ!?ま、間違いがあったらどうするんですか……!」

「いや、俺も思ったんだが、あっちが『もう少し色気があれば……』って言ってたから納得してな……。」





「誰が色気がないだってッ?!」

「怒るのはそこですか……。」


苦笑い、といった感じだ。多分、ホントにこってりと怒られてきたんだろう。
正直、この申し出は嬉しかった。カヲルくんと一緒(ハート)なんて乙女的なものも
多少はあるけれど、もう三課で寝泊りするのは嫌だ……
皆が来る前に起きて、用意して、化粧して、なんてしてたらなんだか虚しくなってきて……


「部屋の件は嬉しいけれど、カヲルくんは私で良かったの?」

「気軽に話せる相手と言ったら名前さんしか思いつかなくて。それに毎日が楽しくなりそうじゃないですか?」

「毎日いじめる気か!」


私の残機があとどれくらいあるのか調べたいくらいだ。
お手柔らかにお願いします、というと彼はクスクスと笑ってコーヒーをついでいた。


「何かいれます?」

「ミルクと砂糖。ん、ありがとう。」


そして彼は私の正面へ座り、コーヒーを一口のんだ。
私は彼が落ち着いたのを見計らい、この前から気になっていた事を聞いた。


「ねえ、カヲルくん。どうして私達があそこにいるってわかったの?」

「最初は通報でした。名前さん達はネルフから出て行ったところをすぐに拉致されたので職員というのがわかったのかもしれないですね。銃を突きつけられていた。と。
僕はそれを聞いてたんですが、どうも誰も動かなくてですね……まァ、準備をしてたんでしょうけれど。それで、僕がシビレを切らして、エヴァで出たところ、銃声が聞こえた。という感じです。」

「ホント助かったよ……、ありがとう。」


深々と頭を下げる。年下であろうと、彼は命の恩人であることに変わりはないんだ。

昨日、開放された後、彼らを見たが、最初連れて行った奴とは全くの別人だった。
まるで人が変わったようだ、なんて思っていたけれど、本当に人が変わっていた。

銃だけれど、アレは弾が入っていなかった。
赤木博士には謝罪と贖罪をしてもらいたかったみたい。

『ヘビ』については黙りっぱなしだ。多分十分な情報は得られないと思う。


「そのヘビですが、やはり、内部の人の可能性が高いでしょうね。赤木博士は大丈夫なんですか?」

「彼女は強い人だよね、本当。泳がせておけばいいんじゃない?って一言。」


本当に気にしていないように、さらりと言ってのけた。
コーヒーを飲み、一息。

色々、疲れてしまった。
コーヒーに写る自分は眉がたれて、疲れた顔をしている。

こんな顔、子供に見せるなんて大人失格ね。


なんて思っていたら頭にふわり、なにかが乗った。


「思いつめなくて、いいよ。何に対して君が落ち込んでいるかはわからないけれど、頑張っているヒトには、ちゃんと結果が出るんだよ。努力は無駄じゃないんだからさ。」

「……私、迷惑ばっかりかけてない?」

「全然。」


きっぱりと気持ちいいくらいの即答で。

いつも何かあるとき、チルドレン達の足を引っ張っていたりする。
特によく一緒にいるカヲルくんは。

でも、彼は否定してくれた。それどころかこんな私を受け入れてくれている。

彼の手は私の髪を弄ぶかのようにゆっくりなでている。
目の前で柔らかく微笑む彼に顔がドンドンと熱をもつ。


「ふふ、ボサボサ。」

「っておい!本当に遊んでいたんかい!」

「さ、そのボサボサ頭を直しておいで。ちょうどいい時間帯ですし、お風呂先にどうぞ」

「ボサボサにしたのはカヲルくんでしょうが……じゃあ、お先に失礼するわね。覗かないでね!」

「もっと色気のある誘い方してほしいものだね。」

「心の底から覗くなと言っているんだ!」


カヲルくんは部屋に入ってきた時とは打って変わって楽しそうにしており
飲み終わったであろうマグカップをシンクに持っていった。

そしてふ、と気になり、服を脱ぐのをやめ
カヲル君の居る方へと顔を覗かせた。
ちょっと、カヲルくんをおちょくってみるか。
私にも色気はあるんだからな!


「ねえ、カヲルくん?」

「なんですか?」


彼はシンクに手をついた状態で振り返った。
うん、台所にたつカヲルくんも素敵。写真撮りたいくらい。


「もしもよ、もしも。私がそういうお誘いしたら、カヲルくんはどうするの?」


少し驚いた顔をしたのも束の間、妖艶な笑みへとその表情は変わる。


「応えますよ、僕も男ですから。」


ちょっとした悪戯心でからかってみようと思ってたら、
思わぬ返答をもらい、返り討ちにされてしまった。

これからの生活が不安なのか、ちょっと楽しみなのか複雑な心境になってしまった……。



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